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(9) 飛騨DSTとTRACE衛星による磁束管浮上領域の同時観測

TRACE衛星は1998年4月にアメリカで打ち上げられた人工衛星で、 太陽の遷移層からコロナにかけての温度域を観測するための装置を 搭載しています。 そのTRACEとの磁束管浮上領域を対象とした共同観測からの 結果の一つを紹介します。

1999年8月25日の共同観測において、 飛騨天文台のドームレス太陽望遠鏡を用いて の線での観測で、突発的に「黒い模様」 が発生する様子が、 ほぼ30分おきに4回確認されました。この模様は、比較的低温 (1万度くらい)で高密度の物質が、太陽の 表面からより高いところへ噴出している様子であると解釈されます。

TRACE衛星の 171 の波長で撮られた画像でも、この黒い模様 は確認されます。 一般に 171の画像では、百万度くらいの温度を持つ部分が 明るく輝いて見えまが、この光は低温・高密度のものによって 遮られるので、このように黒く見えるわけです。ただ、この黒い模様 に付帯するような明るい模様の同時的存在が確認されないことから、 噴出している物質は低温のものだけであると考えられます。 また、この171の画像では、 この黒い模様が出現する数分前に必ず一部が増光する現象が確認されており、 何らかのエネルギー解放が、 物質の噴出に先立って起こっていると思われます。

現在のところ、「フレアと 呼ばれる大きなエネルギー解放の原因である磁場の再結合 の小規模なものが起こって、付近の磁場構造が変化し、それによって 低温物質の噴出が生じたのであろう」と、考えています。こういった現象を 解析することは、 地球にまでも影響を及ぼすような、より大規模な噴出現象のメカニズムを 考察する上で重要なことです。


上図で示されているのは、この現象の一例で、6時47分(世界標準時)に 起ったものです。左下の像は飛騨で得られた線の短波長域の画像で、 その他の像はTRACEの171の画像です。 右下は黒い模様がはっきり分かるように右上のものを強調表示したものです。 左上の像は他のものより4分前の画像で、増光が起っている部分が 確認できます。


(吉村 圭司 記)



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