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平成12年度の主な改修改良事項

(1) 飛騨天文台ドームレス太陽望遠鏡観測装置の整備


(a) ファブリペローフィルターの導入(学長裁量経費 教育基盤設備充実経費)

ドームレス太陽望遠鏡での撮像観測は、これまで透過幅0.25 の リオフィルターを用いて行われてきました。 より迅速に透過中心波長を変更して、高精度・高時間分解の撮像観測が できるように、リシウムニオベート固体結晶エタロンを用いたファブリペロー フィルターを導入しました。 これは、固体結晶に印加する電圧を変えることに よって、透過中心波長を変えることができるものです。その主な仕様は、

  • 透過中心波長: 6562.8
  • 透過幅: 0.25
  • 波長可変範囲: 中心から長短それぞれ2.5
  • 口径: 50mm
  • 温度制御: 変動幅0.03度以内の恒温セル
です。 透過波長の変更は、パソコン制御のもとで行われます。


(b) 高分解単色像データの収納システムの増強・整備

高分解単色像システムでは、1フレームが8MBの大きなサイズの データとなっています。 これまでは、2つの37GBリムーバブルディスクを 交互に用いて、観測時のデータ格納、データのDDSテープへの保存を行って きました。今年度に、データの予備的な整理、及びクイックルック用 ムービーの作成システム等が整備されました。 これに伴い、これらの処理を、観測と並行して行えるように、新たに 37GB(10000rpm)のリムーバブルディスクを増強しました。 

(2) 飛騨天文台データ通信への高速専用回線の導入


12年度秋に、飛騨天文台ではデータ通信用に、それまでの384 Kbpsの 電話回線に換え、近隣のSINETノード校まで1.5 Mbpsの専用回線を 設置し、より高速な大容量の天体観測データの送信などが 可能となりました。 以下にその回線経路の概略、導入の目的を図示します。




(3) 太陽フレア監視望遠鏡(FMT)データの公開




昨年度に引き続き、飛騨天文台太陽フレア監視望遠鏡 (FMT) の画像 データや活動現象の、データベース化と公開を進めて来ました。中でも 12年度の特徴的な事項として、下の2点があげられます。

(A) 現在の太陽全面の様子をリアルタイムに近い状態でインターネット上 で閲覧する事が可能になりました(右図参照)。 ただし、これらの画像は観賞用に加工してあり、研究用には不向きであ ると思われます。

(B) FMTで観測された活動現象の分類リストから、少なくとも目立った現象 に関しては複数種類の波長での生の画像データをインターネット上で公 開し、観賞用としても研究用としても利用できるよう になりました(下図参照)。 画像データの形式はGIF形式で、オリジナルの数値情報がほぼ再現さ れています。




(4) 飛騨天文台60cm反射望遠鏡の赤経・赤緯軸高精度エンコーダの取
り付け


この望遠鏡での観測対象はこれまで惑星等の明るい天体が主でした。そのため 観測視野への天体の導入は赤経軸のみに取り付けられた精度15分のエンコー ダ出力をもとに、ガイド望遠鏡で目視をしながら行なうようになっていました。 しかしこれから惑星と比べて数万分の1以下の明るさしかない恒星の活動現 象を観測していくにあたり、この手法では導入に大変な手間が掛かり観測効率 を著しく落としてしまいます。そのため天体の位置のみから観測視野に導入で きるよう、赤経軸及び赤緯軸にOMRON社製の高精度インクリメンタル型ロー タリーエンコーダを取り付けました。これにより望遠鏡方向の取得精度が赤経 方向1秒、赤緯方向10''となり、天体の位置さえわかればどんな暗い天体 でもすぐに視野に導入できるようになりました。


(5) 花山天文台の計算機ネットワークの整備


計算機関連では以下の整備を行ないました。

  1. 太陽観測衛星TRACEデータアーカイブ用RAIDハードディスクの導入
  2. フレアーモニター望遠鏡データアーカイブの作成
  3. 解析用パソコンと大容量ハードディスクの導入

飛騨天文台で観測された太陽の可視光画像は、観測衛星による X線画像や極紫外線画像と比較解析することで、より多くの情報を 引き出すことができます。

そのために必要なデータアーカイブとして、今年度は、 太陽観測衛星TRACE用に2台のRAIDハードディスク (それぞれ容量300GBと400GB)を導入しました。 また飛騨天文台フレアモニター太陽望遠鏡による太陽全面画像の アーカイブを作成しました。 現在これらのデータにネットワークを通じて アクセスできる態勢が整っています。

さらにこれらの大量の画像データを処理・解析するために、大容量 ハードディスク(80GB)を塔載した解析用パソコン、及び解析支援ソフトウェア IDLを多数導入しました。


(6) 雷被害防止用避雷装置設置


しばしば起こる花山天文台での雷被害への対策として、平成12年度予算で 避雷装置を設置しました。

構内電柱上の開閉器、避雷器の接地抵抗がこれまで高く、正常な動作が 期待できませんでしたので、本館脇で接地工事を行いました。 本館脇のキュービクル内および新館分電盤に保安器(大阪ヒューズ LP-BW2B)を 取り付けました。

さらに、24時間運転を行っている花山計算機システムサーバ計算機(kipsu系列、 kipsufを除く)および主要プリンタに避雷器を取り付けました。 計算機システム用避雷器は電源系にサンダープロテクター TP-102A(大阪 ヒューズ製)、 ネットワーク系にサージプロテクター MTJ08ERJ45を、 kipsuaに付いているファクスモデムにはファクシミリ用 保安器 LP-301A(大阪ヒューズ製)を取り付けました。

これらの装置の設置により、休日夜間など花山天文台に人の いないときの突然の雷雨にも対処できるようになりました。

(7) 花山天文台ザートリウスH-alpha太陽全面撮像光学系の設計製作


花山天文台ではザートリウス製18cm望遠鏡にHalle社のLyotフィルターと Kodak社のCCDカメラを取り付けて、太陽H-alpha単色像のルーチン観測を 行っています。 ザートリウス望遠鏡の焦点距離は約3mで、約28mmの太陽像が 結像されているのに対して、現在は1,6001,000 ピクセル (14mm mm)のCCDカメラを使用しているため、一度に 撮影できる視野は太陽面の約1/6に過ぎません。 この為、太陽全面のパトロール観測を行うのに、午前、午後それぞれ 約30分位の時間が掛かかり、その間協同観測のターゲット領域の連続 観測が抜けるという問題点があります。

これを解決する為に、太陽全面を一度に撮影することを考えました。 その為には、まず望遠鏡からの光を太陽全面に亘って蹴られなく Lyotフィルターを通さねばなりません。 又、この際同時にLyotフィルターへ入射する光束の角度を 限度内に収める必要があります。 更には、太陽全面がCCDカメラの受光面サイズに収まるように 縮小することも必要となります。 これらを同時に満たす光学系を設計製作しました。 なおこの時使用するCCDカメラはKodak社のメガプラス4.2i 2,0002,000 )として設計しました。 CCD撮像PCシステムのソフト開発が現在未だ進行中ですが、これらの システムが実際に稼動すれば、ザートリウスによる太陽観測が より効率良く行われるものと期待できます。  


(8) 花山天文台ザートリウス望遠鏡の極軸調整


前述のザートリウス製18cm屈折望遠鏡の極軸に 狂いが生じており、モータードライブによる追尾を行っても 観測対象の黒点群を1時間程度しか視野内にとどめておけませんでした。 そこで、黒点を用いて極軸のずれを測定し、その結果をもとに 極軸の調整をしなおしました。

極軸のずれを測定した結果、赤経成分が西へ0.3度、赤緯成分が北へ0.4度 ずれているいることが分かりました。 このずれの程度は、仮に、この望遠鏡が花山天文台設立当時の 約70年前に極軸をきちんと調整されて設置されていたとしても、 70年の間の歳差運動により生じる程度の大きさでした。

極軸の調整は、測定したずれをもとに、まず東へ0.3度、南へ0.4度 動かして調整したのち、再びずれを測定し、まだずれている分を さらに細かく調整するという方法で行いました。 合計3回の調整を行った結果、ずれを0.1度以下に押え、数時間の 追尾が保証されるようになりました。


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