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(6) 数値シミュレーションにおける火星極冠の季節変動

火星の極地方に白く輝く極冠は、水や二酸化炭素が凍って形成 されたものです。そして一年中とけないでいる極冠を永久極冠 と呼びます。この永久極冠が北極と南極で若干異なることが、 火星探査機バイキングの観測で明らかになりました。 永久北極冠が水だけで形成されているのに対して、永久南極冠は 水と二酸化炭素(ドライアイス)で形成されているのです。火星地表面での水と 二酸化炭素の凍結温度はそれぞれ190K、148Kなので、 二酸化炭素のほうが水よりもとけやすいことになります。 しかし火星の公転軌道を考えると、南半球が夏の時期に 火星は近日点に位置するため、南半球の夏のほうが北半球よりも 暑くなります。なぜより暑くなる南半球の夏に、水よりも とけやすい二酸化炭素が残ることができるのか、その原因は いまだに明らかになっていません。

我々はこの違いの原因として、火星地表面のアルベド [*]に注目してみました。 アルベドが高いと地表面が吸収する太陽放射量が減るため、 地表面温度の上昇が妨げられ、凍結している 二酸化炭素が昇華せずに残ることができると考えたのです。 数値シミュレーションによって南極付近における二酸化炭素 の堆積量の季節変化を調べたところ(図1)、 たしかにアルベドを北極の値よりも高くすることで、夏の間もある程度の 二酸化炭素が昇華せずに残ることが確認できました。

しかし本当に北極と南極でアルベドが異なるのか、またその原因は何に よるものなのかは明らかになっていません。ただ大気圧が年間約25も 変動する火星特有の現象も、南極のアルベドを北極よりも高くすることで 再現できていますし(図2)、アルベドに違いがあるのは確かかもしれません。 その考えられる原因としては南北半球の標高差、大ダストストームによる ダスト分布の偏り、アルベドと太陽入射量との関係 [*]などが考えられます。 しかし火星の極地方に関する情報は非常に少なく、 現在精密な観測を行なっているアメリカのMars Global Surveyor を含め、これから火星観測が計画されている数々の 火星探査機によって極地方の詳細が明らかになることに 期待せざるをえません。

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(早川 知範 記)