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(19) モートン波とEIT波

太陽を波長6563 の水素原子の吸収線()で見ると、 太陽表面から数百km上空の「彩層」と呼ばれる層を観測できます(図1左)。 この彩層において、フレアの発生に伴って、フレアを中心に波のようなものが 太陽面上を伝わっていくのが観測されます(図1右)。この彩層で見られる波は、 第一発見者の名をとって「モートン波」と呼ばれています。

モートン波に関する理論としては、1968年に出された"sweeping skirtモデル"が 最も受け入れられています。このモデルによると、彩層のさらに上の層である 「コロナ」にも彩層と同じように、フレアに伴う波があることが予言されます。 このモデルが予言する「コロナのモートン波」の候補として注目されているのが、 極端紫外線を用いたコロナ観測で見られる、フレアに伴って太陽面上を伝播する 「EIT波」です(図2)。

モデルによると、「モートン波」と「コロナのモートン波」は、同じ波面、 同じ速度を持つことが予言されます。したがって、EIT波がコロナのモートン波か どうかを検証する最も直接的な方法は、あるフレアに対して、モートン波、EIT波 両方が発生したイベントを解析すればいいのですが、モートン波は非常に観測され 難いので、そのようなイベントはまだ世界で2例しか報告されていません。 また、EIT波がコロナのモートン波かどうかを検証することができるほどデータの 質が良いものは1例しかありません。

その1例が、飛騨天文台のFlare Monitoring Telescopeによってモートン波が 観測された1997年11月4日のイベントです。私たちのこのイベントに対する解析で、 モートン波、EIT波では、平均伝播速度はそれぞれ、約720km/s、約200km/sと 大きくことなり、波面の位置も異なることがわかりました。したがって、少なくとも このイベントに関しては、EIT波はコロナのモートン波ではない、という結論に至りました。

(衛藤 茂 記)


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