前ページ 目次 次ページ

(4) 太陽フレアとガンマ線バースト

ガンマ線バーストとは、わずか数秒ー数分の間に、地球の大気に影響を 与えるくらいの強力なガンマ線を放出している宇宙最大の爆発現象である。 ガンマ線バーストのフラックスの時間変化を見た太陽の研究者は、それが 太陽フレアのものか、ガンマ線バーストのものかを区別できないという。 それくらいガンマ線バーストは一見太陽フレアに良く似ている。果たして これは共通の物理を示すものなのか、それとも単に見かけの類似性に 過ぎないのだろうか?

ガンマ線バーストは1970年代に発見されて以来、発生場所や距離さえ 良くわからない謎の天体であった。ところが、近年の観測技術の発展に より、その驚くべき正体が判明してきた。 その特徴をまとめると、次のようになる。

  1. 宇宙論的距離にある。これは解放されたエネルギーが膨大であることを 意味し、もし等方的爆発ならば、全エネルギーは10の54乗エルグにもなる。
  2. エネルギースペクトルのピークはガンマ線領域(0.1-1 MeV)にあり、 スペクトルは非熱的シンクロトロン放射であることを示す。
  3. ガンマ線を発しているガスはローレンツ因子100程度の超相対論的速度で 運動している。さらにガスはジェット状に細く絞られているという証拠が 発見された。これを考慮すると、全エネルギーは10の52乗程度になり、 連星コンパクト星の合体か、超新星爆発でエネルギーが説明可能となる。

多くの性質は活動銀河核から噴出するジェットの性質と類似しており、 宇宙ジェットに対して発展させられてきた電磁流体ジェットモデルの 適用が議論されている。(そのため、ガンマ線バーストについては全くの 素人の私でさえ、国内はおろか国外のガンマ線バースト会議にも 招待されるようになった。) 一方、ジェットの足元にある降着円盤では激しい時間変動が観測されており、 太陽X線の時間変動との類似性が知られている(Ueno et al. 1997)。 また、近年の降着円盤の電磁流体シミュレーションの発展により、これらが フレア類似の磁気リコネクション過程と関係している可能性も 理論的に指摘されている(Kawaguchi et al. 2000)。 興味深いことに、ガンマ線バーストの時間変動はX線連星系降着円盤の 時間変動と良く似ている。 また、近接連星系ジェット・フレアや原始星ジェット・フレアの観測の 進展によって、ジェットとフレアは密接に関連しているらしいことも 判明してきた(Hayashi et al. 1996)。


以上を総合すると、ガンマ線バーストと太陽フレアの見かけの類似性は、 単なる偶然ではなさそうである。ただし両者には明確な違いもある。 太陽フレアには特徴的なエネルギーや寿命というのはないが(分布は べき型)、ガンマ線バーストにはある(分布は log-normal)。 この違いは何だろうか? 

私の考えはこうである(柴田ら 2001)。 太陽フレアは太陽表面で発生している現象である(つまりX線やガンマ線は 太陽表面で発生している)のに対し、ガンマ線バーストのガンマ線は 中心エンジン(ブラックホール/中性子星+降着円盤?)から 出ているのではなく、ジェットから出ていると考えられている。 両者を直接比較するのは適切ではない。 ガンマ線バーストと比較すべきは、フレアから放出された物、すなわち、 コロナ質量放出である。 太陽フレアの場合、小さなフレアは数限りなく発生しているが、 コロナ質量放出に付随しているフレアは空間的に大きなサイズのものが多い。 実際に、われわれ自身でもコロナ質量放出のデータの解析を進めたところ、 コロナ質量放出に付随するフレアのX線強度分布や速度分布に ガンマ線バーストに見られるようなlog-normal分布が見つかった(青木ら、2002)。 フレアから放出された磁気プラズマが首尾よくそのままの形で 惑星間空間に到達するには、ある程度のサイズやエネルギーが必要である。 これが特徴的なエネルギーや寿命を作っているのではないか。ガンマ線バーストでも 類似の過程が中心エンジンのところで起きているのではなかろうか。


参考文献

Hayashi, M. R., Shibata, K., and Matsumoto, R., ApJ, 468, L37-L40 (1996)

Kawaguchi, T., Mineshige, S., Machida, M., Matsumoto, R., and Shibata, K., PASJ, 52, L1-L4 (2000)

柴田ら、2001、天文学会秋季年会 A13a

青木、八代、柴田、2002、天文学会秋季年会 A25a

Ueno, S., Mineshige, S., Negoro, H., Shibata, K., and Hudson, S., ApJ, 484, 920-926 (1997)


(柴田 一成 記)



前ページ 目次 次ページ
PDFファイル(クリックして下さい)