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火星低緯度氷晶雲帯の観測的研究 (博士論文)

本研究は1997年、1999年、2001年の観測に基づいた、火星北半球夏季に 出現し気候の季節変動と密接に関係しているとされる低緯度氷晶雲帯に ついての研究です。

私達は先ず放射伝達方程式を解き直接に氷晶雲の光学的厚さを算出する方法を 考案しました。 この方法はチャンドラセカールによる「discrete-ordinate」法を基礎とし、 リュー、スタムネス、スワンソン、デイル、ウィスコムらの諸般の方法を 組み合わせたものです。 鍵となるアイデアは、ある一つの大気構成成分の光学的厚さを算出するために、 他の成分の光学的厚さを適当な値に仮定することです。 さらに、地上観測データの信頼性を向上するため、新たな統計的手法を 導入しました。それは、火星面上のある特定の1地点上空の光学的厚さを求める ことをせず、ある適当な領域全体の平均値としてそれを求める方法です。

1997年と1999年の観測機は、火星は北半球夏季に当たっており、よく発達した 氷晶雲が低緯度氷晶雲帯を形成していました。 大シルティス(地域の名前)とその隣接地域とのコントラスト(ブルー クリアリング度)の日変化と、それぞれの地域上空にある低緯度氷晶雲帯を 構成する雲の日変化を比較し、 これらの地域上空の朝雲が最も発達するのが午前9時(現地時刻)であり、 コントラストの日変化がそれぞれの地域上空の氷晶雲の光学的厚さの差の 日変化に強く依存しているとの結論を得ました。 さらに、これらの値についての線形回帰分析により、大シルティス上空の 氷晶雲の光学的厚さがブルークリアリング度を決定しているのではないかと 示唆しました。

次の焦点は、低緯度氷晶雲帯の衰退期の振る舞いです。 この衰退期の振る舞いについての研究は殆どありませんでした。 私達は2001年の火星北半球秋分直前に於いて、この氷晶雲帯の光学的厚さを 0.1程度と算出しました。 また、雲帯の緯度方向の存在領域が、完全消失までおおまかには季節変動を しないことや、この雲帯(「ベルト」)は衰退期には部分的に低緯度帯を 覆う「バンド」と孤立した雲に分裂することを見出しました。 私達は、この雲の分裂が、赤道を跨いで存在するハドレー循環が局在化している ことを表しており、何らかの大気波動が可視化されているのではないかと 示唆しました。

(中串 孝志 記)



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