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太陽フィラメント消失現象の三次元速度場導出と随伴コロナ活動

太陽フィラメント消失現象は、時にコロナアーケイド形成を伴って、 CME(Coronal Mass Ejection)となり、惑星間空間に噴出する。噴出したCMEは、 地球方向に飛来すると、しばしば地磁気嵐を引き起こすため、「宇宙天気」予報 を行う為にも、線で観測される太陽フィラメントが、惑星間空間に噴 出したのか、それとも太陽引力圏に留まったのかを知る事が非常に重要である。

通常、線中心波長でのみ観測を行うと、フィラメントの速度場を求め ることは不可能であるが、飛騨天文台に設置されているフレア監視望遠鏡(FMT) は、線中心だけでなく、 でも撮像観測を行っている ので、フィラメントの三次元速度場を求める事が可能である。私は、Beckers' cloud modelを元に、FMTで観測されたフィラメント消失の開始直前データから、 フィラメントからの線ラインプロファイルを導出する方法を確立し、 これと消失の時観測像上でのフィラメントの近傍背景彩層に対するコントラスト の時間変化から、フィラメントの視線方向速度を導出する新しい方法を研究した。

この方法では、散乱光の影響、Doppler Brightening Effect、FMT搭載望遠鏡の 波長透過幅の影響については補正を行い、背景彩層の不均一さに由来するコント ラスト値の不確定量、噴出時のフィラメントからのラインのライン幅 増大量については各々見積もりを行い、得られる速度の信頼性向上に最大限努力 した。視線に対し垂直方向の速度は、データ上のフィラメント内部に多数確認出 来る局所的なプラズマ塊(blob)をトレーサーとして、時間順に追跡し、得られる 速度場をフィラメント全体に外挿することによって求めた。最終的に導出する三 次元速度場のエラーは、最大でも23 となっている。

こうして求めた三次元速度場を用いて、フィラメントの噴出の有無に関する判定 方法も確立した。具体的には得られた速度場から、座標変換を施して、太陽表面 に対して垂直方向の速度を求める。そしてその速度が、フィラメント消失完了時 まで加速を続けていれば、惑星間空間に噴出したとし、減速していればしなかっ たとした。

これらの手法を用いて、1992年から2000年6月までにFMTで観測された、規模の大きな (サイズが60,000km以上)フィラメント消失現象35例の三次元速度場を導出し、 それぞれのイベントでフィラメントが噴出の有無を調べた。その結果、 噴出したもの(eruptiveタイプ)が23例、一度加速されたが噴出することなく減速 したもの(quasi-eruptiveタイプ)が12例と判定された。各々のタイプについて、 Yohkoh/SXTならびにSOHO/EITで観測されたコロナ変化との相 関関係を調べると、ほぼ全てのeruptiveタイプでアーケイド形成やtransient dimming領域の形成、EIT波の発生など、大規模なコロナ構造の変化が起こってい るのに対し、quasi-eruptiveタイプでは、多少の増光はあるものの、その増光が 非常に局所的であり、アーケイド形成を伴わないものに限られているという違い が分かった。即ち、フィラメントが噴出する場合には、その周囲の広範囲に渡っ て太陽磁場構造が変化しエネルギーが発散されているのに対し、噴出しない時は 磁場構造は殆ど変化せず、そのエネルギーも局所的に解放されているに過ぎない。 同時にSOHO/LASCO観測が行われているイベントについて、私の手法で 判定したフィラメント消失のタイプとCMEの有無との相関を調べたところ、 eruptiveタイプでは必ずCMEがあり、quasi-eruptiveタイプではCMEが発生してお らず、手法の信頼性を確認することができた。

(森本 太郎 記)


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