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飛騨ベクトル磁場測定

太陽磁場は、ゼーマン効果による偏光を観測することにより得られる。 現在、太陽磁場の観測は、地上望遠鏡、衛星搭載の望遠鏡により行われているが、 主に視線方向成分の磁場についてのみ測定が行われている。しかし、観測技術の 発達により、精密な偏光観測が可能になってきており、これにより、 磁場の視線方向成分のみならず、視線に垂直な成分の測定が可能と なっている。


飛騨天文台では、ドームレス太陽望遠鏡の高空間分解能を活かし、太陽磁場の高精度 観測を行うため、ドームレス太陽望遠鏡にベクトル磁場観測装置を設置し、現在、 その観測精度を上げるためのキャリブレーションを行っている。 太陽磁場を数十ガウスの精度で得ようとすると、偏光測定では0.1パーセントの精度が 必要であり、ドームレス太陽望遠鏡のベクトルマグネトグラフはこれを目標と している。


ドームレス太陽望遠鏡での高精度での偏光観測を行う上で、機械による偏光は 無視することができない。ドームレス太陽望遠鏡では、太陽光を焦点面に導く までに、2枚の斜鏡とガラス窓により偏光が作られていると考えられる。 太陽起源の偏光を測定するためには、この装置による偏光を補正することが 不可欠である。我々は、この補正を行うのに、望遠鏡の個々の光学素子に対して モデルを立て、実際に観測される偏光を最も再現するパラメータを求めることを 行った。太陽中心付近の静穏領域は無偏光であると仮定出来ることから、 装置による偏光で最も大きな成分である強度成分(I)から偏光成分(QUV)への クロストークを測定し、その結果、0.5パーセント以下の誤差で観測を再現する パラメータが得られた。また、無偏光の光からだけでは決定出来ない パラメータを求めるために、



黒点のストークスベクトルを用いる方法を試している。 磁場がほぼ視線方向を向いていると考えられる場所では、VがQUに比べて十分大きく、 装置によるVからQUへのクロストークがある場合、Vと同様の形をしたものがQU成分に も見られるはずである。図は、左に示した黒点のうち、磁場がほぼ視線方向を 向いていると考えられる場所(白枠中)におけるストークスベクトルを示している。 VからQUへのクロストークがよくわかる。


現段階では、望遠鏡部分の偏光を主に調べているが、高精度での偏光観測を 実現するためには、偏光を測定する装置による誤差などに対しても補正していく 必要があり、今後の課題である。また、望遠鏡部分に関しても、偏光データ間の クロストークをより正確に調べるために、直線偏光フィルターを用いて測定する などしていく必要がある。

(清原 淳子 記)



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