巻頭論攷

火星の動畫の本來あるべき姿

南 政

CMO/ISMO #401 (25 August 2012)


English



  1) 日本人天文愛好家でもたとえば火星のHSTMGSの影像が配信されるようになってから、最早地上からの觀測の時代は終わったと考える愚かな人達がいた事は確かである。海外の觀測家でも實際にMGSからの動畫が見られるようになって、最早地上からの觀測は意味がないと考え、觀測を止めてしまった人を少なくとも独りは知っている。然程優れた觀測家でもなかったから何の影響もなかったが。

  ところで、MGSMROで作られた動畫を見て最早出る幕がない、少なくとも生きた火星をモニターの畫面上で見られると思っている愛好家は少なくないと思う。然し、こうした動畫を見て不滿を持たない人は一寸おかしいと思う。動くからといって生きた火星でないことは確かである。

 例えば、周邊部が滑らかすぎておかしい。更に、例えば、タルシス山系の白雲が朝から出ていることに氣が附かない人は觀測者としては失格である。あれは夕方顕れるものであることは常識である。とすれば、これはどういう意味でもリアルタイムの像ではない。午後の像をねじ曲げて朝方に持ってきているに過ぎない。夕方も然りである。とすれば、これは火星の一日を撮ったものではないのである。精々午後2時くらいの像を合成して一日の火星像を拵えているに過ぎない。MROの動畫を見ていると、シュルティス・マイヨルのあたりで畫像が奇妙に少し替わることが分かる。それは固定された一日から翌日の固定された像に變換される瞬間で、笑ってしまう。こうして誤魔化しながら、一週間か一ヶ月の動畫像を拵えているのである。

 こうした動畫像で火星の終日を追えないことは確かであり、たとえば、黄雲が出たときに意味のある働きをしないことは確かである。當然火星面上に顕れる突然變異に(例外を除いて)對應できる筈もない。偶然撮れたということはあるかもしれないが、それは火星の状態を追う立場としてはMROの動畫は意味をなしているとは思われない。苦勞して動畫を作るのであろうが、無駄な努力である。

 

 2) 最近意識されてきていると思うが、火星の表面觀測に於いて、朝方とか夕方の縁の觀測が重要になってきている。元來火星の表面觀測と言えば、中央部の模様の詳細を捉えることが主眼になっていたと思う。シュルティス・マイヨルの中央での觀測などは初歩の人達の人氣であるし、例えば冩眞に模様が冩れば事足りると考える人達にはもってこいの場面である。腕を上げるのにももってこいの場面でもあろう。

 然し、そのような初級時代はとっくに過ぎているのである。逆に言えば火星觀測は以前より難しくなっているのであるが、それをものともしない人達もいて、僅かに火星觀測を支えていると言える。

  特に私が強調したいのは、朝縁の觀測であって、将來、黄雲の發生に關して、朝縁の觀測の有効性が證明される時期が來ると信じている。多分注意深いチェックによって朝縁の黄雲の活動が捕捉されると黄雲の初期状態が良く分かるようになると信じる。これは翌日の同角度の觀測が伴わなければならない。問題はシーイングの持續であろう。然し、今のような動畫は何の働きもしない。

  朝方のチェックと言っても冩眞ならば意識するしないに拘わらず、朝方は冩るであろうから、問題ないように思えるが、意識するかしないかは翌日、更に翌翌日の同角度でのチェックが行えるかどうかどうか、という點で大きく違ってくる。火星觀測家は同じ角度でのリピート觀測が重要なのである。これは普段の習練に掛かっている。

 單發的觀測でも、朝縁夕縁のチェックは重要であろう。中央のシュルティス・マイヨルにだけに注意が行くというのでは物足りないのである。明らかに周邊部を細工して円味を持たせている像があるが、唾棄すべきものである。

  端っこの觀測は難しく、畫像の場合は餘程の出來映えでなければならない。しかし、監視によって一旦捉まえてしまえば、しめたもので、翌日の同角度を狙うとよい。

 

 3) そういう試練の時が最近では朝縁に突起が顕れたことで起こった。幸い北米や欧羅巴で捕捉されていたが、豫備知識が散漫だった爲に觀測に統一性が無かったのは殘念である。實は何度も強調するように、これは200311月に日本で觀測されたものと同じものであって、大事な要素は2003年に総括されている。殘念ながら、これを正確に記憶している人達は少なくて(或いは無視しようとして)關聯性が強調されなかったが、われわれはこれは朝方の黄雲ではなく、太陽の活動と關聯しているものと考えている。近い将來同じ現象が火星のアンブレラ状の幾つかの磁場の廣く分布する同じエリダニア-アウソニア周邊に起こると考えているので、怠りなく、衝後の朝方の稠密な觀測を期待する。黄雲だけの問題ではないのである。

 




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