ISMO 2011/2012 Mars Note #11

冬至あたりに見られるヘッラス逸流白雲

クリストフ‧ペリエ

近内令一


 

  続くノートで冬期のヘッラスに言及する前に、南半球の冬至あたりにヘッラス盆地に隣接して観察される小白雲についての予備的なノートが必要であろう。この時期3月下旬から4月初旬にかけて、ヘッラスの西側に細長い淡い白雲が検出された;同様の白雲は以前の火星の接近期にも観測されているので、季節的な重要性を持った現象と言えるだろう。

 

I1990年代の遠日点期接近期にHSTによって観測された逸流白雲

 

  前回の衝サイクル (1993~2005) 中には、HST1997年及び1999年にこの雲を撮像している;この時にはアマチュアの画像にはこの白雲は捉えられていないようだ (明らかに当時の画像の質が低かったからだろう) HST1997310日の画像の一つ (λ=089°Ls、南半球の晩秋)、及び199933日の画像シリーズ (南半球の初冬、λ=105°Ls) にこの逸流白雲が認められる。図1に両画像の比較を示す。

 


1:前回の衝サイクルにHSTで捉えられたヘッラスから逸流する白雲。東西方向に細長い明瞭な外形を示している (1999年の画像では1500q前後の長さに達している)。白雲に沿って白斑が数個見られ、特に1999年の画像では顕著。STScL

 

  その比較によっていくつかの事がわかる。第一に、その東西に伸長した外形によって、この白雲は風に流されて棚引いていることが間違いない (ヘッラスの東側には雲は全く認められない)。第二に、ヘッラス盆地自体が明るい時に白雲も濃く、明るく出現する。第三に、この白雲は明らかにヘッラス盆地に繋がっている。第四に、MGSの画像に見られるように、白斑群は火星面上の霜で満たされたクレーターであることが明らかである;白雲が明るい時にクレーターも顕著に見られる。図22004102 (λ=095°Ls) に撮像された短冊画像から合成されたMGS/MSSSギャラリーを画像処理したものである。

 

 

2MGSギャラリーから画像処理した高解像度画像。2004102日、南半球の初冬 (λ=095°Ls)。上が北 (画像の上寄りにシヌス・サバエウスが明瞭に見える)。右下の端に白っぽいヘッラス盆地が見える。この巨大盆地から西側に流れ出る巻雲に加えて、雲の下には霜で満たされたクレーター群が見られる。注目すべきことに、そのさらに南方遥かに成長しつつある南極冠の近傍のクレーター群には霜が降りていない。Malin Space Science System. カラー画像処理は著者。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

II2012年に観測されたヘッラス逸流白雲

 

  2012年にも同様の季節にこの白雲が観測された。その画像が最初に確認されるのは325/26日のCMOギャラリーであり (Sadegh GHOMIZADEHの画像、λ=088°Ls)、続いてさらに明瞭に白雲を捉えた画像が3月の28日、29日、30日、及び4月の1日、2日にヨーロッパから届いている (SHARPPEACHPELLIERLEWISDELCROIX、図3参照)。したがって、このヘッラス逸流白雲の2012年の開始はドンピシャ南半球の冬至 (λ=088°~092°Ls) であった。

 


3:南半球の冬至あたりのヘッラス逸流白雲を示すアマチュアによる画像。20123月・4

 

  アマチュア画像では霜に満たされたクレーターは検出できなかった。続く数週間の期間中にこの白雲は何度か観測された(56日のDPcの画像が最後、λ=107°Ls)。その後はシーイング条件が悪過ぎて明確な検出に至らなかったようだ。それでもなお、このあたりの様子は日替わりで少々の変化を示していたようだが、定かではない。また残念ながら、この地域は大きく南に寄っているため、われわれが山岳雲について検証したような時間ごとの消長変化の検出を試みることは困難であった。MGSの高解像度画像では、この白雲は数条の巻雲様の雲の条から成っているように思われる;したがって消長変化は間違いなくあるだろうが、火星現地の日毎の繰り返し再発はないのかもしれない。

 

 

結 論:気候的道標

 

  ヘッラス逸流白雲の検出の重要性は、それがヘッラス盆地の冬期の状況の段階に深く依存関連しているところにある。この現象は、毎年同じ季節に盆地内で形成された明るい白雲が西側に延長している状態のように見え、それ故それ自体がこの地域の最終的な霜形成ステージの前兆であるに違いない (次回のISMOノートで議論をさらに展開する)。白雲の下に位置するクレーター群の内部に霜は形成され、逸流白雲の周囲のクレーター内には霜は降りない。したがって、この逸流白雲はまた、ヘッラス内部から局地的な気流あるいは卓越風によって西方向に運ばれる寒気の示現でもあろう。

 

 


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