巻頭論攷

惑星天文学におけるアマチュア天文家とプロの天文学者との共同研究活動についての科学的論文

クリストフ・ペリエ

近内令一譯

CMO/ISMO #411 (25 June 2013)


English



  Experimental Astronomy誌は、天文学的な研究を実施するためのテクニック、研究法、器材についての研究を掲載することを目的とした科学雑誌である。この雑誌の近々の号で、CMOで紹介するのにふさわしい論文が掲載される。すなわち“惑星天文学におけるプロの天文学者とアマチュア天文家の共同研究のための観測分析機材の用法”と題する文献には、惑星研究についての幅広い分野でのプロアマ共同作業の可能性が提示される。

 

I-この論文の由来

 

  この論文のアイデアは、三年ごとにフランスで開催される科学的共同研究の国際的会合の一つで打ち出された:すなわち、CNRS (Le Centre National de la Recherche Scientifique 国立科学研究センター) のプロアマ共同研究スクールの第四回会議 (La Rochelle20125) で決定を見た。この会議はCNRSAUDE (Association des Utilisateurs de Détecteurs Electroniques 電子検出器使用者協会) の共催で2003年から開催されており、主として分光観測や天文測定学の分野を扱っている。

 

  2012年の第四回セッションでは、ここ数年での目覚ましい成功によるアマチュアの惑星研究への貢献に乗って、史上初の惑星観測に特化したプロアマ共同研究活動のスクールが開催された。まず三名による研究発表が行われた:すなわちRicardo Hueso-Alonsoによる巨大惑星の大気についての概説、Marc Delcroixによる2010年の土星の巨大ストームについての研究、そしてJean-Luc Dauvergneによる惑星撮像法についての解説の口演が実施された―筆者はミーティングには参加したが、発表はなかった。このスクールはフリー座談会で幕を閉じたが、その席上でBesançon 天文台のプロの天文学者Olivier Mousisが、プロアマ共同研究が可能と思われる惑星天文学の様々な異なる分野でのトピックについて詳述する論文を作ろう、というアイデアを打ち上げた。

 

  この仕事はOliver Mousisが指揮を執って翌年も続けられ、現在誌上掲載のための最終点検が行われている。この論文にはプロアマ両陣営から59人もの共著者が名を連ねており、多人数過ぎてここでは紹介し切れない。CMOの読者諸氏に馴染みの深いアマチュアを挙げれば:Christophe PellierJean-Luc DauvergneMarc Delcroix、そして Anthony Wesley

また加えて身近な科学者には例えばJohn Rogers (BAA木星課長)Richard Schmude (ALPOコーディネーター)Ricardo Hueso-Alonso 及び Agustin Sanchez-Lavega ( Basque country大学)François Colas (天体力学及び暦算研究所 IMCCE)Glenn Orton (JPL)Paolo Tanga (NiceSophia Antipolis大学)、そしてLeigh Fletcher (Oxford大学) 等。

 

II-研究テーマについて少々

 

  惑星の分野にきっちり限って考えるならば、プロアマ共同研究で最も実り多いと考えられるのは、金星、木星、土星、そして天王星であろう。金星については、雲の形状の長期での変化を監視し、種々の波長域での自転速度を調べ、そして1μmでの熱放射の恩恵を受けての地表の詳細の撮像に挑むことになる。木星においても短期及び長期の雲の形状の変遷を追跡し、土星では同様の観測に加えて2010年の巨大ストームのような並外れた特殊な活動にも着目し、また天王星については、昨年から近赤外線撮像で縞模様や、おそらく明るい斑点を画像に記録できるという新観測分野が開けてきた。

  これらのトピックに加えて挙げられる研究方面は、彗星、惑星間物質 (塵、流星、火球)、いまやよく知られた巨大惑星への小天体衝突 (あるいは月面への小天体衝突による閃光) の検出、小惑星、恒星の掩蔽、そして太陽系外惑星の検出、等々である。もちろん、観測を上手く実施するのに必要な技術や道具立てを検討するためにいくつかの章が割かれる。この論文は濃密であり、必要に応じて共同活動が求められるときに、プロアマ双方にとって有用となる、信じがたく豊富な内容、量の情報に満ちている。

 

III-火星に関して

 

  CMOの読者にとっては火星の扱いはもちろん特別の興味のあるところであろう。本論文作成のほとんどの期間を通して、火星は興味に値するトピックとして一顧だにされなかった;軌道周回宇宙船による完全な気象監視や、地表探査機による十分な観測内容で充実しているから、という理由からである。しかしながら我々は粘って最終的に、火星についての短い項を加えた;記念すべきプロアマ共同惑星観測活動の礎石となるべく我々がかくも期待するこの論文に火星についての記述が欠落することは耐え難い恥辱となるであろうし、また地上からの火星観測研究は余人の言うほど時代遅れではないと確信するからである。

  宇宙船による観測も含めた、惑星の気象的活動に関する長期の監視の必要性が認識されるようになってきた。この観点からすると、ここ一世紀半この方、地球以外の惑星の研究が系統的な天文学的観測の主題となって以来積み重ねられた地上からの惑星観測の記録全容の重要性が再認識されている。これは総ての惑星について言えることで、とりわけ巨大ガス惑星では重要である。たとえば木星では長期、ないしおそらくは超長期の気象学的活動のサイクルが存在すると考えられており、この観点からは、宇宙時代以前の一世紀半に渡って実施されてきた地上からの木星観測記録はその科学的価値を全く失っていない。

  これは火星についてもある程度真実である。大気をまとった惑星はいずれも、その気候の長期の変化、そして年々見られる短期の変化を必ず経験すると考えられるからである。そのようなわけで、解像度にこだわらない大きなスケールでの火星の全球的監視体制 (現代的な視点分野からの) は依然として有意義であり、それ故我々は火星の白雲の活動、ダストストームの生成消長、そしていわゆる“火星像周縁の雲活動”等々の観測に信念を持って励み続けよう!

  Experimental Astronomy誌にこの論文が掲載された暁には直ちに紹介したい。

 




日本語版ファサードに戻る / 『火星通信』シリーズ3の頁に戻る