ISMO 2013/14 Mars Note (#11)

and

Forthcoming 2016 Mars (#01)

北の秋分以後のクサンテからルナエ・ラクス近傍での擾亂

南 政次


English


 

の記事はClyde FOSTER(CFs)氏の6 Oct 2014 (λ=209°Ls) at ω=050°Wでの黄塵の観測報告を基調にしてクサンテからルナエ・ラクス近傍での擾亂を扱うものであるが、6 Octの観測については既にCMO#430 Ser3-0870 2013/14 Mars Report で報告し、そこで報告した以上には付け加えることはないと思う。ただ、CFs氏の觀測は視直徑δ=6.0"で美事に局所黄雲を捉えており、2014年接近の觀測で特筆すべき一つであり、また2016年にも特に南アや豪州での観測が期待できる譯であるし、出來るだけ廣い觀點で位置づけをしてみたいと思う譯である。

  そのCFs氏の觀測はCMO/ISMO Galleryに次の像が揚がっている。Ref. 1)參照

 


 

この黄塵はGでは出ているが、Bでは然程でなく相当乾いた黄塵であろうと思われる。夜には擴散する典型的な乾いた局所的黄塵であったと思われる。この黄塵は近内令一氏が18 October 2014 at 01:23 JST 投稿のCMO #428 Ser3-0841頁掲載のLtEに言及されているようにMRO-MARCIにも捉えられていて、アウロラエ・シヌスの北に泡立つようにこの黄塵は明確に見えている。

MROによる黄雲の表現と地上からの表現には平衡しない點もあり、MRO-MARCIにはアガトダエモン内に這う黄塵が顕著だが、地上からは然程ではない。これは窪地の黄塵は光の入射角度によって、必ずしも外にはいつも明白というわけでないということであろう。

  CFs氏はこの前後も数日に亙ってRGB分解像をとり続けた點が素晴らしい。6 Octの黄塵はクサンテに在ったといった方がよく、必ずしも表題のルナエ・ラクス周邊ではないともいえるが、それは後で。

 

 

 實は、CMO#430の報告の最後の行に紹介した2003年の觀測もλ=214°Lsで捉えられており、しかもクサンテ北部で起こっているので、2014年のCFs氏発現の黄塵と類似性がある。

  N.B.bis: By the way, in 2003 at λ=214°Ls,  not so different from the present season, some CMO members as VALIMBERTI, PAU, NG, KUMAMORI, ISHADOH, and MINAMI detected a local dust in Xanthe near Nilokeras on 2 July 2003. This was summarised in CMO #289 and so please try to refer to Ref. 2)

  但し、このとき大接近前で視直徑もδ=16.9"の大きさがあったので、2014年の条件より好かった筈である。

そのときのヴァリンベルティ氏と呉氏の画像は左に見られる通りである。時間差は可成りあるが、指摘できるほどの明確な差を顕すほどの鮮鋭度はないと思う。

このとき同じ日のMGS-MOCの短冊画像を下右に示す。この左側の短冊がヴァリンベルティ氏などの観測を裏付けるものである。

 

  Ref. 2)で述べたように、可成り違った季節(λ=316°Ls)に似たような場所に似たような黄塵が検出されているのは面白い(右図の右側の短冊参照)。見たところ、両者とも黄塵のバーストと思われる輪郭を示しているが、その縁が非常に似ている。これは、この黄塵がこの土地の高低と濃厚に密接に関係していて、むしろ季節的要因が薄いと思わせる。高低といってもこの辺りは低地であってわずかに坂になっている程度の差であろうと思う。しかし、それが可成り特徴(textured?)のある擾亂を起こしているわけである。

 

 

  この稿の目的は、2014年に起こった現象の追跡であると同時に、2016年に似たような現象が起こるかもしれない、ということを起草することにあるが、季節的な變化を探すならば、所謂大接近の直前の接近を當たって對應をみるのが好いだろう。

 Ref. 3)はその一例である。その中で述べたように、1954年にはλ=202°Lsでルナエ・ラクスが濃く見えていることに気付き、λ=227°Lsではルナエ・ラクスが非常に濃いのみならず、その北側に黄塵が見えていたと思えるので(3 September 1954)λ=200°Lsλ=230°Lsの間は要注意と考えて好いだろう。一方、同じRef. 3)に據れば、1969年の場合はルナエ・ラクスが非常に濃く感じられたのはλ=205°Lsλ=207°Lsと記している。尤も、筆者は當時、世界の火星観測者と火星観測に關して交信し観測を交換していた譯では無かったから、ここで時候に關してピンダウンしても局所的な帰結だけであって何時も通じるものではないことは自戒しているし、普遍化もしない。從って、目下の處、強く言えることは、北半球の秋分(λ=180°Ls)以降、ルナエ・ラクス近傍を注視することを求めたい、ということである。

 

 暗色模様が濃化するのは多分この模様を高気圧が覆って砂塵を動かすためであるし、その周りには上昇気流が起こるような小型の循環的なストーム・セルが生じるのであろうと思う。その意味で2003年のλ=214°LsCFs氏のλ=209°Lsもここに含まれるということになろうかと思う。

   尚、秋分後が問題になるのは、高気圧の發生と関係する。地上より上空の方が早く冷えることによって下降気流が生じるわけで、これが高気圧の現れと関係し、また時にはダウンバーストのようになるかもしれない。花模様の黄塵はこれによるとが多いだろう。一方、下降流は近くに上昇流を伴って循環型のセルを作るが上昇気流が強くなると補償流が生まれるので、この兼ね合いを見るのも大切である。

 

  Ref. 4) [Ref. 2)に引用しているCMO#289に據る]に依れば、北半球の黄塵活動は絶え間なく起こっていて、MGS像をチェックした1999年のλ=109°Ls~λ=274°Lsの間に様々な黄塵を含めて783個も発生している。然し、106km2以上の面積を持つものは然程多くはなく、大きいものだけに限り、更に經度がルナエ・ラクス附近に焦点をおいてピックアウトすると、λ=135°Ls150°Ls158°Ls159°Ls160°Ls162°Ls187°Ls194°Ls203°Ls210°Ls221°Ls223°Ls224°Ls227°Ls程度のものである。もちろん他の領域で大きい黄塵も起こっているし、ここでは南半球深くに起こっているものは省いた。秋分前のλ=150°Ls ~ 165°Ls のものは北極冠が極小期に入るということで、北の高緯度で黄塵活動が起こっている。矢張り1999年にもλ=210°Ls~λ=227°Lsには強い黄塵が起こり、λ=210°Ls221°Lsのものは二週間も再生を繰り返し、赤道を越えて起こった黄塵に共鳴しているものもあるようである。Bruce CANTOR達の論文は原則λ=109°Ls~λ=274°Lsを見ている筈なのだが、冬至を過ぎてλ=300°Ls~λ=318°Ls にも似たような(所謂cross-equatorial dustを含む黄塵)事象が起こると書いている。特にクリュセで。これは1998年のMGS-MOCの結果であるようだ。奇しくも上に像を引用した25 Jan 2002 (λ=316°Ls)の影像がこの時期に入る。

   ペリエ君がお好みのHuiqun WANGさん他はRef. 5)GCM (General Circulation Model)に基づいてcross-equatorial dustについて論じているが、私はRef. 2)を書いたときも今も、黄雲が動いて赤道を越えるというような描像には与しない。赤道の南側にもストーム・セルは最盛期には起こるだろうが、多分、それぞれ小さなセルが並列的に(あるいはresonancesとして)沢山起こるということであろうと思っている。その活発な時期がRef. 4)に従えば、(A) λ=210°Ls ~ 230°Ls, そして冬至後の (B) λ=300°Ls ~ 350°Ls というわけである。

 

では、上でピックアップしたλ2016年接近でどう配置されるか、概略をRef. 6)で見てみよう。

まず、δ10"以上であるのは14 March 2016ぐらいから8 September 2016ころまである。 北極冠近くの黄塵を狙うなら、秋分前のλ=160°Ls台であるから、五月の下旬から六月の上旬であろう。22 Mayが衝日であるからδ18"台を保っているので、北極冠の縁を狙えるだろう。30 Mayの最接近日にはδ=18.6"となる。φ12°Nである。 λ=180°Ls3 July(δ=16.1")λ=202°Ls12 August 2016δ=11.9"λ=209°Ls23 Augustλ=214°Ls1 Septemberで、視直徑はδ=10.4"λ=227°Ls21 Septemberδ=9.2"となっている。

 2016年の接近の特徴は地球の北半球で観測するものたちには辛いところがあって、それは19541969年、1986年、2001年と同様、apparent-declinationが南向きで火星の高度が低いということである。逆に南半球の豪州や南アの観測者にとっては恵まれている。從って、彼らには火星の北半球を丁寧に何度も狙ってほしいところである。Apparent declinationは、δ=10"になる14 Marchあたりで19.5°Sであり、衝の22 May21.6°S、最接近の30 May21.5°S3 Julyでは21°Sに近いが、以後さらに深くなって12 Augでは23.6°S1 Septでは25.1°S21 Septでは26°S近くになる。このころが底であるが、1954年や1986年には28°S近くまで行ったのだから、些し増しかもしれない。

 

最後に2001年と1986年の場合について補足する。2001年の場合、早くもλ=183°Lsに大黄雲の發生に出会ったために、λ=200°Ls以降のルナエ・ラクス近傍を見るどころではなかったのであるが、1986年にはλ=225°Ls邊りで、クリュセ地方に今度は水蒸氣による擾亂が起こったのを見ている。右図は當時の臺北市圓山天文臺の張麗霞(チャン・リーシャ)さんのTri-X像の反転圖で、確か黄色のフィルターで撮ったと覚えているが、シヌス・メリディアニ(白く見える部分)の後方に大きな明るい固まりが出ている。明るさは南極冠程度ある。筆者のその前日(15 Aug)と同じ角度の11 AugのスケッチをRef. 2)から以下に転用する。この動きは乾いた黄塵に據るよりも北極雲を起源とする水蒸氣が働いているように思える。

 


 

  2016年にはこのλ=225°Ls18 Septemberに來るので、先のλ=227°Lsと同様に九月中旬に、この方面が來る地域()で集中しては如何と考える。

 

  (追記) 前号の記事(Ref. 3)を書いた後に、確か大澤俊彦氏が筆者の名前を擧げていたのを思い出したので、調べてみると、佐藤健氏編集と覚しき誠文堂新光社の『惑星ガイドブックI』内の大澤氏の記事で、確かにp133に次のように書かれていた:「19698月、テムペ地方にあるIssedon運河一帯が急に茶褐色に濃化する現象が米国のC. F. ケープン氏、日本の南政次氏、著者(大澤)によって発見され、11月ごろまで追跡され・・・・・」。筆者()はイッセドン運河などというのは昔の名称でスッカリ忘れていて、アントニアディの地図で探しまくってやっと見付けたが、どうも私の記憶とは違うなぁという感じであった。ただ、これはRef. 3)に書いたと思うが、9 Aug (λ=205°Ls)のちょっと見の晴れ間にルナエ・ラクスがやたら濃いことをみて、12 Augλ=207°Ls)13 Aug14 Aug(λ=208°Ls)と矢張り濃いルナエ・ラクスとニロケラスを追跡観測し、15 Augから18 Augも觀測はしたが、当該域はその後16 Augまで朝方に一寸見られただけで、詳細はわからず、あとはシヌス・メリディアニ邊りの南中となった。當時私は大澤さんのお名前は存じてはいたが、文通はしていないし、私の觀測は佐伯恆夫氏が大澤さんに傳えたものと思う。大澤さんの當時のスケッチは後にも先にも拝見していないが、ケープン氏のスケッチにも出ているのならば、ローヱル天文台のアーカイヴに殘っているかもしれない。また、9 Augから18 Augまでは福井市立天文臺で觀測を行っているので、中島孝氏の觀測ファイルにも含まれていると思う。

  なお、大澤さんの引用箇所のすぐ上に「クリュタエムストラの森」が出てきて、海老澤氏は1950年四月に発見というのが別の誠文堂新光社の文獻にあるので、ひょっとしてこれもCross-equatorialの所爲かと思って、1950年のAlmanacを見てみたら四月一杯λ=098°Lsからλ=111°Ls迄であったので、別種であると判断した。 

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   文 獻

 Ref. 1)  CMO/ISMO Mars Gallery:

     http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2013/141006/CFs06Oct14.jpg

 Ref. 2) MINAMI, M. Xanthe Dust on 2 July 2003

     http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn3/289Note02j_03/index.htm

 Ref. 3)  MINAMI, M. Personal/Nostalgic Reminiscences of the Mars Apparitions in 1954, 1969, 1986 and 2001. Part I (1954 and 1969 Cases)

     http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/437/Mn_437.htm

 Ref. 4)  CANTOR, B. E., Martian dust storms: 1999 Mars Orbiter Camera observations"

(Jour. Geophy. Research, 106 (2001) 23653)

 Ref. 5)  WANG, H. H. and others, Cyclones, tides, and the origin of a cross-equatorial dust storm on Mars"

JGR Letters 30 (2002) 41-1~41-4 . 

 Ref. 6) The Astronomical Almanac for the Year 2016 (published by the USNO and Her Majesty's NAO)

 


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