創刊30周年記念寄稿

創設30周年記念にCMOの存続を祝して

サミュエルホィットビー

近内令一譯

CMO/ISMO #443 (25 January 2016)


English



先立つ時代の思い出から始めることにしましょう。

 

1965年、とある一週間ほどを私は祖父母と過ごしました。お祖父ちゃんは早起きで、私の一日も彼と一緒に始まりました。明るくなる前に豚と牛に餌をやります。ある朝、私は南東の空に異常なまでに見事な彗星を見つけて驚喜しました。尾の長さは楽々25度に達し、多分もっと長かったでしょう。地元の新聞にはこの彗星についてなにも載っていませんでした。テレビでもなんのコメントもありませんでした。ほんの数日前に白昼の広い空にこの彗星が肉眼で認められたことを私は知りませんでした。この彗星の名前が判らなかったので、私は冗談で、独立発見したホィットビー彗星と呼んだものです。実際のところスカイ・アンド・テレスコープ誌がこの壮観極まりない訪問者を池谷・関彗星であると明らかにしたのはおよそ一か月後のことでした。

 

まあ言ってもしょうがないのですが、私が気に入っていた科学の先生はこの彗星を見られるほど早起きするのはえらく骨だと考えていたようで、この世紀の大彗星を見逃してしまったようです。

 

私の若かりし先史時代にはこのようなスローなコミュニケーションは当たり前でした。まあそんなもんでしたね。しかし具合の悪い成り行きもありました。惑星の大事件が、追跡に参加できたかもしれない観測者が知る前に終わってしまうかもしれません。迅速な通知は絶対に必要でした。たとえば、我々の赤い惑星にダストストームが起こったとき、できるだけ完全な記録を収集するためには総ての観測者に速やかにその発生を周知させる必要があります。火星を連日観測し続けて、観測結果を分かち合わなければならないのです。

 

スローなコミュニケーションの問題への一つの回答が、我らが愛すべきCMOでした。ダストストームを含む火星の気象現象のたいへん早期の認識が得られ、観測者同士で知らせ合うことができます。異常な現象が起こったとします。そうすると、地球と火星の自転周期が非常に近似しているということが意味するのは、火星を全周的に記録したいと望むならば、世界中に散らばった観測者が必要になるということです。CMOは色々な国からの観測者たちを歓迎し、これによって火星全面のほとんど切れ目のない追跡を可能にする献身的な観測者たちのネットワークが確立されたのです。私が思うに、多くの観測者たちが一致団結して協力するよう励まされたというのがCMOの実らせた最も重要な成果でしょう。

 


 

私は火星について非常に精通した何人かの人々に会って多くのことを教えてもらいました。他の観測者たちが懸命に頑張っているほどには私自身は熱心に観測しませんでしたが。

 

我々の火星観測を迅速に分析、批評してもらうことは、必ずしも愉快ではないかもしれませんが、有益なことでした。もし本当に馬鹿げたことを仕出かしたときには、われわれの尊敬する編集者が速やかに指摘してくれることを心当てにできます。

 

インターネットでほとんど瞬時のコミュニケーションが可能になった現在では、南博士と彼の同僚たちに鍛え上げられた百戦錬磨の観測者たちが“さあ来ぃ ! ”と所定の位置で火星を待ち構えています。

 

南博士がCMOを創設され、ご自身の誕生日をまた迎えられたことにお祝いを申し上げます。お誕生日お目出度うございます!そして我が友にさらなる幸多からんことを!

 

CMOの読者諸氏、我々の赤い惑星について書いた私の詩をお楽しみください。

 

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火星の色

 

サンドバーグが言うにはリンカーンの将軍が

大統領執務室に詰め寄ってくるだろうと

いとも好戦的な顔付きで

そしてリンカーンは尋ねるだろうと、“火星よ、要件はなんだね?”

火星は戦時に流される血のように赤いか

はたまた耐え難い怒りに燃える顔のように赤いか

それが火星が戦争の神と見做される所以、

されども火星はまた薔薇やルビーのようにも

さなくば愛しき人の、キッスを求めて一途にすぼめる唇のようにも赤く。

本物の赤い火星の砂漠はもし、人類が植民したならば、

ただ人々の目を母なる地球に向かせるのみ、

掛け替えのない故郷はどこかと。

かくして火星はなんとも稀にして貴重な、

理解し合い、二度と奪い合うことの無い世界に。

 

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サンドバーグはロバート‧フロストとほぼ同年代の詩人で、エイブラハム‧リンカーンの伝記を書きました。この伝記はサンドバーグに大きな経済的成功をもたらしました。しかしながら、歴史家たちから高い評価を得られなかったのは、これがリンカーンの聖人伝と見做されて退けられたからでしょう。

 

心より、

サム‧ホィットビー

 




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