94/95 Mars Note (5)

岩崎徹氏の観測した1994/1995年の北極冠 (Ls 010゚-080゚)


『火星通信』 No.170 ( 25 Dec. 1995) -- 1994/95 Mars Note (5) -- より
◇今シーズンの火星は北極冠の縮小状況を観察するのに適していた。視直径δが10秒角に達したのは、19 Dec 1994 頃でLsは033゚であったから、初期状態は前回接近に譲ることになるが、再びδ10秒角に落ちてきたのは、5 Apr 1995頃で、081゚Lsであったから、後半は当然前回よりも長く観測できたわけである。

◇北極冠の観測について先ず岩崎 徹(Iw)氏を槍玉に上げるが、Iw氏は実質的に010゚Lsから観測を開始し079゚Lsまで連続して、北極冠を追っている。特に今回は、事前にIw氏にはCMO Fukui の方から、北極冠の観測に特別な配慮をして頂くべくお願いし、それに応えてIw氏は、観測において、北極冠のサイズには細かな神経を払って下さった。とりわけ今回のIw氏の北極冠観測では次の二点が特長となっている: 1)スケッチ円の大きさの大幅な変更はせず、3cm 円から徐々に1mm ないし2mm 幅で大きくし( 最大5cm)、また小さくして行ったこと、そして、2)シーイングが思わしくなく、模様の観測が不可能なときも、明るい北極冠だけは平均像を押さえる形でサイズだけ記録を残したことである。この数はかなりにのぼるが、これには彼のコード番号は付されていない。したがって、Iw氏の北極冠の観測は彼の今回の総観測数よりも多いのである。尚、1)の方法を採ったのは、スケッチ円が相対的に大きいと、極冠は小さく描かれる傾向があり、スケッチ円が相対的に小さいと極冠が大き目に描き出されるという傾向があるためで、Iw氏は自己に適正な円を細かに選んで行った分けである。

◇この項では、Iw氏の010゚Lsから079゚Lsまでの250 強の観測をとりあげるが、030゚Ls以前はδが10秒角に達していないことは考慮されるべきである(010゚Ls のときは6.9 秒角に過ぎなかった)。また、080゚Ls以後のIw氏の観測については、例の引っ越し騒動でデータが跳んでいる(Iw 氏は今期138゚Lsまで観測している) 。しかし、以下で見るように、030゚Lsから079゚Lsまでの期間については、見事な結果をIw氏は残した。

◇ここで行なう北極冠の様子の分析は従前に同じであって、A. DOLLFUS,Icarus 18(1973)142の方法に拠って居る。前回接近のIw氏の場合は#138 p1300に解析されている。今回も北極冠のサイズは南と中島がスケッチ円の直径(2r)と北極冠のCMでの厚さ(d) を測定し、西田が次の式に依って計算し、プロットした。

◇いま、ψを北極冠の中心角とし、φを地球から見た中央緯度とすると( 現在のところφは正値をとっている) 、ψはr とdで次の様に与えられる(cf. CMO #3 p17) 。

1) ψ≧φのとき cos(ψ+φ)=1 −(d/r)
2) ψ≦φのとき 2sinφ・sinψ=(d/r)

2)は極冠がスッポリ円盤像の中に入っている場合で、今回は途中でこれが起きている。 尚。ψ=φの場合は1)の式と2)の式は、倍角の公式を使えば判るように、一致する。

Fig.1 第一圖

◇第一圖はIw氏の観測による縮小曲線である。各データは生で入っており、平均化はしていない。050゚Lsから060゚Lsの間に10゚ 程度の幅が出ているが、これは経度による違いが入っているからである。これは第四圖を見れば判るが、Ω=000゚Wから080゚Lsにかけて北極冠の形に歪が見られたからで、観測誤差は5゚内外だと思われる。同じように同じ処で074゚Ls辺りで似たようなことが起っている( 第六圖参照) 。尚、第一圖には、ドルフュスの曲線( 実線) とジェームズの直線( 破線) および、ボーム達の平均値( 白丸) を比較のために入れてある。ジェームズの直線については#130p1199 に解説参照( 原典はIcarus 52 (1982)565)。

◇尚、いわゆるボームのプラトーはこのIw氏の観測結果に030゚Ls〜040゚Lsあたりに出ているように思われる。δが10秒を越えた辺りからであるから、この辺りは確かと思われる。040゚Ls以後の縮小状況もかなりドルフュス曲線に騎っていて、Iw氏の観測の今回の好調さを裏付ける。

fig.2第二圖 (028-040゚ Ls) fig.3第三圖 (040-050゚ Ls)

fig.4第四圖 (050-060゚ Ls) fig.5第五圖 (060-070゚ Ls)


fig.6第六圖 (070-079゚ Ls)

◇第二圖から第六圖まではスパイラル図で、観測時間が進めば、時計周りに動くが、観測日が進めば反時計周りに進む。第二圖で、スパイラルが切れているのは7 Dec の次の観測日が16 Decとトンでいて、029゚Ls〜031゚Lsが抜けているためである。当時のLtE を見ても、彼の観測ノートを繙いてもなぜ欠測があったのか、天候の具合など記述がないので判らないのであるが、少なくとも15 Decはシーイングが最悪であったよ うである( これはもっと記載するように)。しかし、全般的にIw氏は032゚Ls以後、Lsを連續させるし、四十分毎觀測を励行するから、フールニエ図は好く描ける。他の觀測者の見倣ってほしい點である。今回Iw氏が079゚Lsでチョン切れたのは惜しいが、δ≧10" の範囲で模範的な好い結果を残したと思う。
最後に今回の岩崎徹氏の観測についてわれわれの敬意を表したいと思う。

( 南政次、中島 孝、西田昭徳)