96/97 report 009

1996/97 Mars Observation Reports -- #009--

1997年三月前半の火星面觀測( 1 Mar 〜 15 Mar )


『火星通信』同人・南 政 次 (Mn)
♂・・・・・・・シーズンは酣(タケナワ)であるが、13Marには北半球の夏至(090゜Ls)を迎えた。この期間、季節は085゜Lsから091゜Lsまで來たわけである。視直徑δは1Marに13.3秒角であったが、5Marには14.1秒となり、殆ど極大である。黄經衝は17Mar8hGMT、赤經衝は18Mar11hGMTであるから、期間末には位相角ιは3゜になった(衝でもゼロになることは滅多にない。今回は南端に小さい缺が通過する)。尚中央緯度は23゜Nで安定している。尚、衝の頃觀測時間は10:30GMTから19:30GMTに亙る。從って、現在はアメリカの朝方から直ぐ日本にバトンが渡り、日本の朝方の觀測を即ヨーロッパの夕方が引き 継ぐ。

♂・・・・・・・今回『火星通信』に觀測を寄せられた方はわが國からは十二名、觀測数239點、海外からは期間外の報告も含めて十四名、觀測数 82點であった。具体的な名簿は『火星通信』をご覧になるか、英文の部を参照されたい。他に、火星課宛に二名から計9+9點(四十分ごとに数える)の報告があった。

♂・・・・・・・HSTの10Marの撮像に関する予告は6Mar付けで入り、即刻、Mk氏の方から公式にCMO e-mail/FAX-Noticeで國内関係者には速報された。内容は#186 p2026に掲載のニューズレターとMk氏による解説である。當日はしかしながら多くの地方で天氣は悪く、本州では僅かAk(阿久津富夫)氏が16:58GMTにR像を得られたのみの様だが、沖縄のId(伊舎堂弘)氏は好いシーイングのもとで13:20 GMTから18:10GMTまで觀測され、Hg(比嘉保信)氏もまた16:00GMTから20:00GMT迄ヴィデオを回された。これらは何れも秀逸なので、これから発表されるHST像との比較が可能であろう。

♂・・・・・・・・・
 0)     この期間、日本からはシュルティス・マイヨルの南中からエリュシウムの南中までの範囲であった。シヌス・サバエウスやシュルティス・マイヨルは好く眺められた。シーイングは地域差もあろうが、概ね良好であったようで、特に那覇のId氏の觀測は際立つ。

 1) 北極冠とダークフリンジ: 前號でも述べたように(p2018)、北極冠は極小状態に近く、細いダークフリンジの現出していることは19Feb (080゜Ls)邊りからわが國からヒュペルボレウス・ラクスが見えだして以降、判明したのであるが、これの北極冠の周囲を取り巻く様子は、向きによって濃度や太さが異なり、複雑である。この点に注 意を払っているのはId氏他、筆者、Nj(中島孝)氏などで、Iw(岩崎徹)氏は北極冠についてのコメントは續くのであるが、フリンジについてのコメントはない。Id氏の4、5、6Ma r(086゜Ls〜087゜Ls)のスッチにも出ている通り、ヒュペルボレウス・ラクスから東方に延びるフリンジは暫く濃く太いが、LCM=300゜W〜260゜Wぐらいで稍惚けるのである(前號參照)。Mnの3、4、5Mar (086゜Ls〜087゜Ls)の觀測でも然りであるが、これが9Mar (088゜Ls)邊りから可成り濃くなり出し、所謂リマ・ボレアリスが明確になり始めた。 Mnの觀察ではLCM=281゜W以降、LCM=320゜Wまで全周フリンジが明確であった。11Marも同様な觀測である。Id氏は必ずしも強調しないが、10Mar LCM=302゜Wでは黒々と描いている。最もこれは程度の問題で、例えば、24Feb (083゜Ls)の唐那・派克氏のR像 (MarsWatch) には全周出ているという見方もできるのであるが、寧ろ同じくMarsWatch掲載の24Febのマーク・シュミットの像の方が暗示的である(これはMk(村上昌己)氏から情報を得た)。彼の像は一時間毎の聨續CCDで、四十分毎でないのが残念だが、LCM=214゜Wではダークフリンジが見えず、LCM=231゜Wで途中まで上がってきていて、LCM=244゜Wでは濃いフリンジが正中してクッキリするという寸法である。従ってこの時点で、ダークフリンジに非対称性があり、特にリマ・ボレアリスの邊りは未だ十分深く溶け込んでいなかったと考えて好いであろう。

 2) オリュムピア: オリュムピアは例えばId氏は6Mar LCM=280゜Wで捉えている。然し淡いもので、Id氏も戸惑っている。筆者の5Marの觀測でも前述の様にダークフリンジは西半分が矢鱈濃く、それに反して東半分のリマ・ボレアリスが明確で無い爲に丁度北極冠がフェードアウトする様にオリュムピアが弱く見えているといった状態であった。然し、9Mar以降リマ・ボレアリスが明確になって、好く分離するようになった。 一方、11Mar (089゜Ls)以降LCM=200゜W邊りが日本から觀察出來るようになった。ここからはオリュムピアがリマ・ボレアリスの南に鎮座しているのが明白であった。これは、ドルフュスの例えば#183 p1984のFig.1には稍抵触することで、ドルフュス氏によれば、LCM=200゜Wには暗點があることになっているが、これは存在せずオリュムピアの延長が續いていると思われた。従って、オリュムピアの西端はLCM=200゜W以西である。
 ところで、LCM=200゜Wに拘るのは、#185 p2002で報告したように、10Feb (076゜Ls)のLCM= 200゜W前後で北極冠の朝方1/4が黄土色に明るさを落としていることを觀測しているからであるが、今になって事態が解る。當時は未だリマ・ボレアリスが明確に現出するに至っておらず、オリュムピアも北極冠に取り込まれている状態であったわけである。と同時に、オリュムピア以西に相当する部分が急速な溶解を始めていたと考えられる。その部分が黄土色に変わっていたのであろう。勿論リマ・ボレアリス乃至その延長もその中に含まれる。もう好い一つ資料があって、それはクアッラ(GQr)氏およびその仲間の9FebのCCD像で、#186 p2021に引用してあるものの一連のカラー像である。これらにはリマ・ボレアリスが出ているとは言い難いが (IR像にはダークフリンジが既に出ているが)、オリュムピアとその遙か以西まで淡化が起こっているのが分かる。
  [實は、この像について深く考えていなかったのであるが、近着の理査・麥肯氏のBAAレポート(No 6, 14 Mar)にMk氏のe-mail/Fax Noticeの要約に續けて、反証と称するものが二三書いてあり、その中にGQr氏の像に触れて色の変化がないとしてあるので、もう一度見てみたのである。UKでの同じ角度の觀測も否定的なのだそうだが、質が問題であろう。]
 北極冠の部分早期溶解も南極冠の場合と同じく黄土色に変色しながら進むと考えて好いようで、10Febの例はオリュムピア以西について好い機會を捉えたと言える。問題は、ヨーロッパにNoticeを送ったのに拘わらず、080゜Ls頃の状況を埋められなかったことである。

 3) カスマ・ボレアレ:
Id's drawing 06Mar1997 Id氏は前節からカスマ・ボレアレを見ているが、福井では 3Mar LCM=273゜Wで北極冠の裏側から濃い切れ目として入っているのを觀測した(Mn)。 Id氏は6Mar LCM=300゜W、11Mar LCM=302゜W等で全貌を検出している。ただ横向きになると入り口のポイントが難しくなる。

 4) エリュシウム・モンス:  エリュシウムは月初めから夕端に明るく見えていたが、内部に入ってエリュシウム・モンスが雲で顕著に見え始めたのは、日本からは9Mar (088゜Ls)頃からで、既にスミス-スミスの意味でVery Activeであった。矢張り午後より鋭くなってくるようで、福井では9MarはLCM=240゜W以降觀測している。LCM=272゜Wでは未だ内部のコンパクトな光斑である。LCM=291゜Wには夕端に來たが、輝いてGフィルターでは北極冠より明るく見えた。Id氏も10MarLCM=241゜Wからこぢんまりと見ているが、LCM=270゜W、280゜Wでは鋭い光斑として描いている。11Marも同様である。11Mar福井ではLCM=230゜Wから分別。Mk氏も12Mar LCM=260゜Wで夕靄と區別して見ている。尚、エリュシウム・モンスの活動は、ファルサレッラ(NFl)氏の18Feb (080゜Ls) LCM=250゜Wのスケッチやシュムード(RSc)氏の23Feb (082゜Ls) LCM=270゜Wで小さく明るく出ている他、既に唐那・派克氏の24Feb (083゜Ls) LCM=260゜WのB光に明るく出ており、他のデータがなければVAはこの頃からということになる。

 5) マレ・アキダリウムの朝: 既に位相角が小さくなっている所爲もあろうが、この時季のマレ・アキダリウムは朝霧に然程侵されることがなく、朝方からその雄姿が見える。福井では5Marに好シーイングに暫く恵まれたが、筆者はLCM=304゜Wで斜交いに全容の見えている綺麗な様子を眺めることが出來た。Id氏は4MarにLCM=303゜Wで、6MarではLCM=310゜Wで全貌を描いている。但しテュミアマタの朝霧は未だ肉眼でも見えるから、少々は掛かっていると思う。Ak氏の3Mar LCM=315゜W、4MarのLCM=311゜W、 326゜WのB光では矢張りマレ・アキダリウムに淡い朝霧が掛かっている事は明白である。 Hg氏の10Marの像などでも誇張されて出ている(後述)。

 6) 夕靄・朝霧: シュルティス・マイヨルを覆う夕靄や、クリュセの朝霧は今回も何人かの觀測者によってチェックされている。Iw氏の1Mar (085゜Ls) LCM=341゜WやMk氏の4Mar (086゜Ls) LCM=342゜Wが典型である。Ak氏の4Mar LCM=342゜WのB光では夕端から明るきクリュセに掛けて白い帯が出ている。これはアメリカなどで赤道雲と呼ぶものだろうが、淡い霧であろう。福井では11Mar (089゜Ls) LCM=310゜Wなどででもシュルティス・マイヨルを越えてアエリアに這い出している夕靄の様子が観察されている。アエリアは朝方でも白く明るい。9Mar (088゜Ls) LCM=240゜W、250゜W等。しかし、10Mar LCM=250゜Wで輝くほどでないとしている。Id氏は暗色模様中心で夕靄朝霧については殆どチェックしないから、コメントがあれば餘程である。アエリアはCM近くでもコアを持つほど明るい(3Mar LCM=280゜W 〜 LCM=310゜Wなど、O56を使うとハッキリする)。

 7) カシウス: ウトピアの西端はウトピアの東に比べて太く濃い。その南の突端、ウトピアの先端は右にカーヴしていることはHSTの像などでお馴染みだが、實際に見るとまた格別である。Id氏は4Marから寧ろ極端なくらいこの様子を何度も描いている。 これが見えると、ボレオシュルティスの暗斑群やノドゥス・アルキュオニウスが小さく孤立点として見える。ウムブラは原義は薄暗いのであろうが、Id氏は5Marに明部としているほか、10、11Marには寧ろ明斑として描いている。

 8) その他: ヒュペルボレウス・ラクスは觀測のキーになるが、今回も精彩の缺くIw氏も3Mar LCM=334゜W等で捉えている他、Mk氏が4Mar LCM=342゜W、5Mar LCM=348゜Wでマレ・アキダリウムから分離して描いている。三月後半、四月初旬の課題でもある。 ヘッラスの午後夕方は顕著だが、朝方は然程明るくない。朝霧が掛かる様子で、寧ろエリダニアの方が明るい場合がある(11Mar (089゜Ls) LCM=240゜W等)。
 Hg氏のカラーのヴィデオ像は、3CCDになって格段に向上し、特に、朝霧・夕靄の描像が優れている。肉眼以上に誇張されているのであるが、これは新しい眼として価値がある。9Mar (088゜Ls)のエリュシウム・モンスの描像など際立っている。像としては7Mar LCM=302゜W等が安定している。もう一つ、特記するのは、Hg氏の四十分ごとの撮影ぶりで、9、10、12Marには四時間ばかり、一夜に七回から八回撮像という活躍である。多分編集上そうなっているが、オリジナルはもっと長いものだろうと思う。何れにしても、ディジタル影像なので、パソコンに取り込めば下手な冷却カメラより好い像が得られるかも知れない。
 Ns(西田昭徳)氏の5Marの像は、特にLCM=300゜W邊りの像が好く、未だ生像だが、細かな模様、例えばノドゥス・アルキュオニウスやボレオシュルティス等が出ている。処理が出來れば、20cmでは出色になろう。

♂・・・・・・・・ 海外の報告のレヴューは先ずアメリカ側から:

 TCv(ケーヴ)氏のスケッチ: 1Feb (072゜Ls) LCM=116゜Wで北半球に明斑を描いているが、同定はされていないよう である。6Feb LCM=071゜Wでヒュペルボレウス・ラクスを見ていて、10Feb等でも詳しく 描いているが、却ってマレ・アキダリウムとの関係は可笑しい。23Feb LCM=263゜Wでは エリュシウムは描いているが、エリュシウム・モンスは出ていない。8Mar LCM=098゜W はシーイング良好とあるが、不思議な模様である。9Mar LCM=143゜Wも不明、誤認があ る上に、アルバ等が出ていない。12Mar LCM=098゜Wで朝方にオリュムプス・モンスを描 いている。

 NFl(ファルサレッラ)氏のスケッチ: 18Feb(080゜Ls)にLCM=250゜W邊りでエリュシウ ム・モンスを描いている。妥當で、この頃からであろうか。前回e-mail画像での 26Feb(p2020)の他、27Feb LCM=160゜W邊り、28Feb LCM=148゜W、1Mar LCM=140゜W邊り、 2Mar LCM=130゜W邊り、更には3Mar LCM=115゜W邊りでも例の暗帯を觀測していて、結構で あるが、一日に一時間ほど見るだけのようである。アスクレウス・モンスは分離して いない。

FMl(メリッロ)氏のスケッチとTP写真: 1Mar LCM=209゜Wではエリュシウムが未だ朝で、 寧ろpaleであるとしている。8MarのTPはLCM=133゜W、11MarはLCM=110゜W、13MarはLCM= 073゜Wで何れもWr47で撮られている。露出は75秒掛かっているようである。8Mar (088゜ Ls)にはオリュムプス・モンスが夕方に“綿ボールのように”見えると有り、13Marに は朝方が特に明るい。

 RSc(シュムード)氏のスケッチ: 本文でも触れたように、23Feb LCM=270゜W邊りで、 エリュシウム・モンスを描いている。2Mar 4:30GMTの觀測終了後三時間後に隣のア パートから出火。煙が來た様だ。12Mar LCM=080゜W邊りで、夕端に明るいヘーズ。

 DTr(トロイアニ)氏のスケッチ: 最近は亀裂で騒がなくなったが、活動はしている ようで、4Feb LCM=044゜W、6Mar LCM=067゜Wはフロリダのスター・パーティの時のもの、 シーイング10/10の由で詳細に富んでいる。描き方は亂雜だが。構成は好い。7Mar LCM =119゜Wは午前のタルシス山やオリュムプス・モンスなどが出ているようだが、アルバ は見ていない。11Mar LCM=075゜W邊りではいわゆる赤道帯雲を描いているが、どうして cloudなのか解らん。

♂・・・・・・・・ 次にヨーロッパ側の觀測:

 JDj(ディジョン)氏のCCD: どれも同じ圖柄で、2Marは LCM=067゜W、8MarでLCM=039゜Wで大抵の模様は出ている。マレ・アキダリウムに近いテ ムペが明るい。Mk氏の23Febの觀測(#186p2016)と同じであろう。地面が稍靄で輝くと 考えられる。

 HGr(グロス)氏のスケッチ: グロス氏とは長いお付き合いだが、文面を頂いたのは 今回が初めてかも知れない。8Mar (088゜Ls)LCM=356゜Wでは朝霧を濃く描いている。 10Mar LCM=345゜Wではヒュペルボレウス・ラクスに氣付いたようだ。

AHt(ヒース)氏のスケッチ:初觀測は1Mar LCM=114゜Wのようである。11Mar LCM=027゜W では朝縁のカンドル邊りにWr47で北極冠ぐらいの明斑を見ている(Intには出ない)。 その夜、LCM=006゜W、016゜Wでも觀測。12MarにはLCM=355゜W:シヌス・サバエウスが濃 度6に對して、未だマレ・アキダリウムは5.5。クリュセが朝方で明るい。

ANk(ニコライ)氏のスケッチ: 28Feb (086゜Ls) LCM=133゜Wにはクサンテの夕雲が描か れているが、オリュムプス・モンスなどには至らない。解像力の所爲か、この頃から 輝きが落ちていたからか。10Mar LCM=339゜Wではシュルティス・マイヨルと先行する夕 靄が出ている。

 ESg(シーゲル)さんのスケッチ: 4Mar LCM=056゜Wと8Mar LCM=017゜Wで、どちらも朝方 の縁がフィルターを透して明るい。後者ではカンドル邊りにクリーム色の明部がある ようである。夕方の方は青白い靄。

 GTc(タイシャート)氏のスケッチ: 6Marから11Marの聨續スケッチで、このころ西 ヨーロッパは天気が好かったらしい。6、7、8Marにはクリュセが中央部で明るいとし ている。北極冠が極端に小さい。そのためマレ・アキダリウム北部の觀察が誤る。

♂・・・・・・・・ 追加報告について:

 KHb(ホイプナー)氏のスケッチ: LCMの記述がないが、 マレ・アキダリウムの邊りであろう。コメントはコピーが悪く讀めない。

 DNc(ニーコイ)氏のスケッチ: LCMの記述がないので、一見して何処か分からないの が多い。しかも左右逆像のようである。北極冠の周りに詳しいようだが、判断のしよ うがない。

 HSw(サドウィッシャー)氏のCCD: 16Feb LCM=020゜Wのものでシヌス・サバエウス、マ レ・アキダリウムなど多くの模様が出ているが処理過剰か、形がどれも可笑しい。新 しい像がe-mailで送られてきているが、17Marなので次回報告。


♂・・・・・・・・次號#188は10Aprの発行で、16Mar〜31Marの觀測を扱う。
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