1996/97 Mars Sketch (9)
from CMO #206
(25 August 1998)


--1997年火星のCCD撮像 (福井市自然史博物館天文台)の試み --


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 ここに紹介するCCD画像は、筆者(Ns)1997年の火星接近の折り、福井市自然史博物館の天文台の20cm屈折望遠鏡にて、試験的に撮像したものを処理したものである。以下、参考のために撮像の経緯と処理法について述べる。実際の撮影は『火星通信』に報告の通り、1997年二月から四月までに何回か行っているが、一回20分間に約40回露光し、その中から十数像保存し、これを一晩に数回遂行するというかたちで各々の原像を得た。
 今回紹介するのは5Marのもので、この日は四十分毎に五回撮像したが、採り上げたのは15:00GMT ω=29Wのもので、源像と処理像を並べる(#187 p2028報告のものだが、5Feb5Marの誤植)。使用した冷却カメラは武藤CV-04で、あらかじめニコンマウントを装着してある。したがって焦点合わせはカメラの実視で行った(後述するようにこれには問題があることが後でわかった)。ドーム内にノート型パソコン(東芝TECRA720 CPU:Pentium133)を持ち込み、画面を見ながら操作した。フィルターについてはR60のみを使用し、青色光の撮影には至らなかった。R60使用で画面から0.3秒露出を良像と考えたが、これには不手際があった。

 

T 処

1)画像の加算
 上のように撮った筆者の原像は、露出不足であって、CCDの持つダイナミック・レインジ(16 bit)を生かしていない旨、今年の正月に行われたセミナー「第六回惑星観測者会議」で、イタリアのクアッラ氏より指摘を受けた。実際、筆者の画像は最輝部で8bitぐらいしか生かしていなかったのである。そこで、あらためて露出不足を補うために星野画像などで行われているように、像の加算を行うことにした。ここで言う加算とは、露出不足の画像を位置合わせをしながら何枚か重ね合わせることである。適正に露出されていれば、もちろんこの処理は必要ではない。なお、筆者の経験ではこの加算処理によってCCD上のゴミの痕跡がなくなるという効果もあった。一方いわゆるコンポジット(加算+平均化)処理では、ゴミのあとは完全には消去できない。

NISHITA's CCD Image on 5 Mar 1997 (093°Ls) at ω=299°W φ=25°N

2)最大エントロピー処理
正月のセミナー(「惑星観測者懇談会」)では原画像(Fig.1)(加算ではなく)コンポジットした画像をアンシャープマスク処理法で処理した像を紹介するに留まった(Fig.2に相当する)。このアンシャープマスク処理法は原画像のコントラストをあげるには効果的だが、画像が非常に粗れてしまうことなど比嘉保信氏他から指摘があった。そこで、セミナーと同時進行のかたちで、Windows版の『HiddenImage』に相当する『Maxlm DL』を利用して比嘉氏の協力で最大エントロピー法を採用してみた。効果は歴然であった。
 一方、セミナーではクアッラ氏が筆者の像をMIPSによって処理を試み、それをわれわれは実際に拝見したのだが、比嘉氏の感想では像は最大エントロピー法と似た出方であるということであった。ただし、南氏の記憶ではわずか数回の処理ながら模様の発現状況からMIPSでの像が際立っていたという感想をお持ちである。像はソフトに依って違いがあるであろうが、残念ながらMIPSの像は残っていない。またMIPSも筆者のノートパソコンに残されているが、使用法が分からず像は再現できない。
 ここで紹介する像は、新しく上述の加算画像に『Maxlm DL』を適用したもので、Fig.3 がそれである。モニターではこの(最大エントロピー)処理では画像が荒れることなく、淡い模様が浮かび上がってくる。

316 bitデータを8 bitに変換
 武藤のCCDカメラでは16 bitのデータが得られる(ST-6LYNXX-PC12 bit)。これは64000階調の濃淡の違いをデータとして持っていることを意味するが、印刷表現の段階になると現在のプリンターの精度によって8 bit(256階調)しか表現できないことに注意しなければならない。

4)コントラスト調整
 プリンターで綺麗に表現するためには微調整が必要である。筆者の場合は8 bitにしたあとは画像を粗らさない程度にコントラストを弱く調整した(後述するように『PhotoShop』使用)。

 

U 処

1)画像の加算には『ステライメージ』というソフトを使用した(阿久津富夫氏のお薦め;三色合成も他ソフトに比べ簡単に出来るそうである)。操作としては「画像」から「コンポジット」へ行き「ウィンドウ」に加算するファイルを設定する。位置合わせは「合成方法」で「減算」にして行った方が技術的にはより簡単である。重ね合わせがうまくできたところで、「合成方法」を「加算」に直して「OK」。

2)最大エントロピー処理には前述のように『Maxlm DL』を使用した。操作としてはまず「Histogram」で画像を見ながら設定するが、その際「Planet」を選んでやればよい。つぎに、「MaxEnt」の各項目の設定をする。「Set Point-Spread Function」で「Select From Image」を選択する。「Automatic Select」ではほとんどうまくいかない。「Set Point Spread Function」の「Point Set」は試行錯誤で良い画像のできる点を探すしかない。「MaxEnt」の「Set Noise」は「Auto-Extract」でソフトに設定を任せてもうまくいくことが多い。「Extract From Image」でバックグラウンドを自分で設定しても、簡単である。この二項目を設定したら、「Run MaxEnt」で処理を実行してやる。ここで、狭い範囲での試行ができる。とんでもない画像になってしまったら、「Set Point-Spread Function」の設定を変えてまた試行を行う。数回これの繰り返しで、良い設定値を見つける。また、「Run MaxEnt」で「Number of Iterations」で処理回数を設定するが、これも試行錯誤で最適な数値を探さなければならない。

316 bitデータを8 bitに変換にはやはり『Maxlm DL』で行い、操作としては「Process」の「Stretch」で「Output Range」を「8-bit」に設定する。「Input Range」は「Screen Stretch」で行うか「Manual Settings」で調整して行う。変換したファイルは「TIFF」形式で保存している。なお、『Maxlm DL』でTIFF形式で保存したファイルはなぜか『Photoshop v4』で読むことができないので、筆者の場合は一度『Paint Shop Pro v4.2』で読み込み上書き保存した。

4)アンシャープマスク処理とコントラスト調整は『Photoshop v4』を使用した。操作としては「フィルタ」「シャープ」「アンシャープマスク」で弱めに処理。つぎに「イメージ」「色調補正」「明るさ・コントラスト」で軽く補正。

 

V 対

 ソフトを使い込んだ訳ではないので、判断を示すのは早いとは思うが、これまでの処理の経験から感想を述べておこう。
 火星の場合、やはり最大エントロピー法が最も適しているように思う。ただし、パラメーターの設定を誤るととんでもない像があらわれるので注意する。『ステライメージ2』にもウィーナーフィルターが備わっているが、今のところ『Maxlm DL』の方が結果はよい。ただ、『ステライメージ2』を十分使い込んでいるわけではないので、あくまで、現時点での筆者の結果ととらえて欲しい。
 月の場合ならば、アンシャープマスクで良い結果が出る。寧ろ最大エントロピーではうまく像が出てこない。月については『ステライメージ2』でのアンシャープマスクで簡単に良い像が得られる。『Maxlm DL』では、今のところ『ステライメージ』ほどの像はでない。
 最後に恒星をふくむ画像としては、M57FC- 125の直焦で撮像し、処理を試みたが、この場合に様に恒星が含まれていれば最大エントロピーのパラメーターの設定がし易く、処理結果も安定する事がわかる。

 

W お

 以上は1997年に試験的に撮った火星像に関して、可能な処理方法についてこれまで試してきたことを開陳した。残念ながら、実際の撮像は準備不足で、露光の問題を等閑にしたことやフィルターの選択もできなかったことが悔やまれるが、幸い処理可能な像があり、試験的にでも仕上げることが出來たのは幸いであった。1999年の火星の場合には、青色光をうまく撮り、三色合成によるカラー画像も得たいと考えている。更に観測活動に参加できるほど、撮像数が増やせればと願っている。
 報告という観点からは、A4へのプリントという問題も処理と同様に生じてくる。必要な画像はバイナリーemailで送る方法もあるが、これはやはりA4判での報告で判定を受けてからのことであろう。いまのところ、プリンターについては比嘉保信氏のようにエプソンのPM-750に専用用紙を使うのが最も良いようであるが、筆者はまだ決めていない。
 尚、武藤CV-04におけるカメラマウント工作であるが、あとで武藤から連絡を受けたことによると、実際の焦点はカメラの焦点には必ずしも合わせておらず、やや内側にくる様に調整しているようである。これは工作上無限点固定型のレンズによっては無限点手前以上に焦点がのびない場合があるからのようである。したがって、カメラマウントであってもやはり最終的にはモニター上で焦点微調節を行わなければならなかったわけである(実際に恒星像で確かめると、微妙なずれが出ている)

 最後に、正月の機会に、G・クアッラ氏、阿久津富夫氏、比嘉保信氏にはいろいろご教示、ご指導をいただきました。ここにあらためて謝意を表します。

西田 昭徳


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