TEN Years Ago (9)  - CMO #016(10 September 1986) and #017(25 September1986) -


行に移った火星はこの期間にはまだ「いて座」にあったが、急速に遠ざかっていった。視直径は八月15日には20秒角あったが、九月15日には15秒角まで小さくなってしまった。欠けも目立つ様になり、いよいよ寂しい「衝」の後の時期の到来となった。季節は九月15日には245°Lsに達した。火星の南半球ではさらに南極冠の縮小が進んで、極冠の偏芯により見る経度で極冠の厚みの違いがはっきりわかるようになった。視直径が小さくなって、詳細は捉えられなくなったが、黄雲の発生する季節が近付いてきていた。

 <OAA Mars Section>には、この期間日本では、秋雨前線の影響で九月に入ってから天候が優れなかった事が、また台北では、一つの颱風が三度も台湾を窺うという迷走颱風の影響で風の強い日が続いて、視相は今一つ良くなかった事が記されている。しかし、台北ではこの期間も南氏と張麗霞小姐が体調を崩しながらも(南氏は薬害)欠測なしに連日の観測をしている。

 この期間には、八月中旬に観測された北極雲の活動は落ち着いたようで、明るさも南極冠に及ばなかった。ソリス・ラクス付近にもダストストームの起きた様子もなく、火星面は静穏だった。なお、この時期にアルギューレ がやや白さを増したように思うと記録されている。
またこの時期から、尾崎公一氏・湧川哲雄氏・比嘉保信氏が新しく参加しているが、湧川氏の自作15cm反射によるTP写真は当時相当に注目されたようで、1988年のTPブームの先駆けとなる。

 連載ものは一休みだが、#016には岩崎徹氏の「惑星の眼視観測用機としてのフローライト屈折の問題点」が掲載された。一つには口径による分解能の限界はフローライトといえ当然存在して、惑星観測においても、より大きな口径の反射と較べてフローライト屈折の方が良く見えるという事は無いということ。もう一つは「フローライトには色収差が無く惑星面の模様を忠実な色彩で再現してくれる」というメーカーの広告と岩崎氏が観測した色彩の評価との問題が取り上げられている。
 また、眼視での見え方について自分の観測によるスケッチをあげて、一つ上の口径の反射鏡の性能と同等との結論だが、価格の面で高価すぎるとしている。なお岩崎氏自身は写真は撮らないのだが、惑星写真撮影における性能には、相当な実力があると確信しているとのことで結んでいる。最後の予告のとおりに岩崎氏は、このシーズンに使用していた12.5cmフローライト屈折を、次回の1988年の接近の時には20cm反射に取り替えた。
 #016には、C F CAPEN氏の訃報が掲載された。また南氏の『天界』記事「S Alcyonius について」に関して佐伯恒夫氏が感想を述べられているほか、佐伯語録の掲載が見える。

村上 昌己 (Mk)


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