pocket semi 2013

このページについて

ポケットゼミ(ポケゼミ)とは、京都大学の新入生を対象にした少人数セミナーです。 詳細はこちらを。 このページは2013年前期に開講するポケゼミ「人文社会科学からアプローチする宇宙」用のページです。


授業の概要及び目的

(シラバスから少しだけ追加してます)
「我々はどこから来たのか、我々は何者か、我々はどこへ行くのか」とはフランスの画家ポール・ゴーギャンの描いた絵のタイトルである。この問いは古代から続く人類の根源的な問いであると共に、世界14カ国の宇宙機関が「宇宙探査の目的」として掲げている問いでもある。宇宙に関する学問といえば天文学や航空宇宙工学などいわゆる理工系の学問というイメージが強いが、宇宙を知ろうとすることは即ち我々自身の存在とその未来を探ろうとすることであり、そこには哲学を始めとした人文社会系の学問との接点がある。 物理学において、高エネルギー加速器実験や極低温などの極限的な状況が通常では現れない 物質の根源的な性質を探るのに用いられ、生命科学や心理学において、対象を普段とは違う環境に さらすことでその隠れた性質を探るのに用いられるように、宇宙という物理的にも社会的にも これまでとは極端に異なる環境に人類が出てゆくことは、人間とその集団が作る社会、 文化の性質について新たな知見をもたらすと期待される。

また、気象衛星、通信放送衛星、GPSなど宇宙インフラは今や我々の社会に欠かすことのできない存在になっている。また国際宇宙ステーションや宇宙観光旅行など、宇宙空間での人間活動ももはやかつてほど特別なものではなくなりつつある。宇宙が身近な存在になった結果、宇宙空間で犯罪が起きたら誰が裁くのか?有人宇宙船は成功率が何%になったら打ち上げを了承するのか?といった、人文社会科学が答えるべき現実の課題が出現しつつある。

このように宇宙と人文・社会科学の関係には、二つの側面がある。 京都大学では2008年にできた 宇宙総合学研究ユニット を中心に、JAXAや神戸大学など他機関とも連携しつつ、 理学、工学、人文社会科学の分野を横断した総合的な宇宙研究を 世界に先駆けて進めてきた。その結果として、2013年度には 応用哲学会文化人類学会で 初めて宇宙関係のセッションが開かれる。 新しい学問が生まれつつあるダイナミックな知的営みに触れてみたいという 意欲ある受講生を歓迎する。

   

授業計画と内容

開講期:前期(希望者があれば後期になっても自主ゼミとしてやるかもです)
曜時限:火曜5限(初回は4月16日)
教室:共北36

まず始めの2-3回でいくつかの文献を紹介し、宇宙と人文社会科学にどのような接点があるのかを概観する。 取り上げるトピックスは宇宙政策、宇宙産業、宇宙法、科学技術社会論、倫理学、社会学、文化人類学、 宗教哲学、芸術などである。以降は個々の受講生がそれぞれの興味に応じて文献の紹介やアンケート調査などを行い、 ゼミ内での発表と議論を通して理解を深めて行く。

参考文献リスト

磯部の手元にある参考図書リストです。従って選択にかなりのバイアスがかかっています。この後も追加します。 宇宙と何の関係が?という本もあるかもしれません。そのこころはゼミで解説しますが、基本的な姿勢は、 宇宙に開かれた生存圏に生きる人類文明の未来を考えるには、人間とその社会、文化、そしてそられが よって立つ環境と科学・技術について、あらゆる角度から考えなければならないということです。 履修生は一週間に一冊以上のペースで読むつもりにして下さい(ムツカしい本はもすこしゆっくりでも)。

全体的なもの

哲学・宗教・神話系

宇宙論や素粒子論が提示する哲学的問題や、人類の宇宙観、宗教と宇宙の関係など。

  • 宇宙を哲学する (双書 哲学塾)、 伊藤邦武、岩波書店、2007年
  • 偶然の宇宙、伊藤邦武、岩波書店、2002年
  • ジェイムズの多元的宇宙論、岩波書店、2009年
  • パースの宇宙論、岩波書店、2006年
  • ハンナ・アレント、人間の条件、ちくま学芸文庫、1994年
  • 人間について、ボーヴォワール、新潮文庫、1955年
  • 身体の宇宙性ー東洋と西洋ー、湯浅泰雄、岩波書店、2012年
  • 神話と意味、レヴィ=ストロース、みすず書房、1996年
  • 神話の力、キャンベル&モイヤーズ、ハヤカワノンフィクション文庫、2010年
  • 宗教を生み出す本能ー進化論からみたヒトと信仰ー、ニコラス・ウェイド、NTT出版、2011年
  • 宗教とは何か、テリー・イーグルトン、青土社、2010年
  • 日本人の宇宙観、 荒川 紘、紀伊国屋書店、2001年
  • 日本神話の源流、吉田敦彦、講談社学術文庫、2007年
  • 平安京のコスモロジー、鎌田東二(著・編)、創元社、2010年
  • 古事記ワンダーランド、鎌田東二、角川選書、2012年
  • 古事記、梅原猛、学研文庫、2001年
  • 密教、松永有慶、中公文庫、1989年
  • 空海の世界、山折哲雄監修他、佼成出版社、1991年
  • 精神の星座、蛭川立、サンガ、2011年
  • 天の科学史、中山茂、講談社学術文庫、2011年
  • 日本人と浄土、山折哲雄、講談社学術文庫、1995年
  • 宇宙考古学、坂田俊文、丸善ライブラリー、2002年(神話系というより、衛星データを使って考古学をする話です)

歴史、人類学、文明論系

人類の歴史と様々な民族の文化を学ぶことを通して、近未来から遠未来の人類社会について考える。

  • レヴィ=ストロース講義、C.レヴィ=ストロース、平凡社、2005年
  • 野生の思考、クロード・レヴィ=ストロース、みすず書房、1976年
  • はるかなる視線、クロード・レヴィ=ストロース、みすず書房、2006年
  • 人種と歴史、、クロード・レヴィ=ストロース、みすず書房、2008年
  • 自由の女神のもとへー移民とエスニシティー、ジョン・ハイエム、平凡社、1994年
  • アメリカ史、紀平英作編、山川出版社、1999年
  • 文明の生態史観、梅棹忠夫、中公文庫、1974年
  • 日本とは何かー近代日本文明の形成と発展ー、梅棹忠夫、NHKブックス、昭和61年
  • 梅棹忠夫の「人類の未来」、梅棹忠夫・小長谷有紀編著、勉誠出版、2012年
  • 文化の誕生、杉山幸丸、京都大学学術出版会、2008年
  • 多様化世界、フリーマン・ダイソン、みすず書房、1990年
  • 宇宙をかき乱すべきか、フリーマン・ダイソン、ちくま学芸文庫、2006年
  • 銃・病原菌・鉄、ジャレド・ダイアモンド、草思社、2000年
  • 文明崩壊、ジャレド・ダイアモンド、草思社、2005年
  • 昨日までの世界、ジャレド・ダイアモンド、草思社、2013年
  • 21世紀の歴史、ジャック・アタリ、作品社、2008年
  • 帝国後、エマニュエル・トッド、藤原書店、2003年
  • 世界の終焉、ジョン・レスリー、青土社、1998年
  • 科学は大災害を予測できるか、フロリン・ディアク、文春文庫、2012年
  • ナウシカ解読ーユートピアの臨界ー、稲葉振一郎、窓社、1996年
  • 未来の考古学ーユートピアという名の欲望、フレドリック・ジェイムソン、作品社、2011年
  • 人間の安全保障、アマルティア・セン、集英社新書、2006年

社会学系

宇宙開発にはよく「夢」や「希望」という言葉が使われるが、宇宙は本当に夢や希望を与えてくれるのか? そもそも夢や希望は今の社会に必要なものなのか?「宇宙」を「科学技術」に置き換えるとどうだろうか? 科学のもたらす負の側面とどう向き合うか?科学技術社会論的なものを含む。 恐らく磯部の興味によるバイアスが他ジャンルと比べても特に大なので注意。

  • 希望学[1]希望を語る、東大社研・玄田有史・宇野重規編、東京大学出版会、2009年
  • 希望のつくり方、玄田有史、岩波新書、2010年
  • 希望難民ご一行様、古市憲寿、光文社新書、2010年
  • 絶望の国の幸福な若者たち、古市憲寿、講談社、2011年
  • 僕たちの前途、古市憲寿、講談社、2012年
  • 希望について、立岩真也、青土社、2006年
  • 自由からの逃走、エーリッヒ・フロム、東京創元社、1951年
  • 定本 想像の共同体、ベネディクト・アンダーソン、書籍工房早山、2007年
  • 下流社会、内田樹、講談社、2007年
  • 日本辺境論、内田樹、新潮新書、2009年
  • 呪いの時代、内田樹、新潮社、2011年
  • 二千年紀の社会と思想、見田宗介・大澤真幸、太田出版、2012年
  • 社会は絶えず夢を見ている、大澤真幸、朝日出版社、2011年
  • 豊かさと環境、秋元英一、小塩和人編著、ミネルヴァ書房、2006年
  • レジリエンス 復活力、アンドリュー・ゾッリ&アン・マリー・ヒリー、ダイヤモンド社、2013年
  • 贈与論、マルセル・モース、ちくま学芸文庫、2009年
  • 贈与と交換の教育学、矢野智司、東京大学出版会、2008年
  • 「フクシマ」論 原子力ムラはなぜ生まれたのか、開沼博、青土社、2011年
  • フクシマの正義 ー「日本の変わらなさ」との闘いー、開沼博、幻冬舎、2012年
  • エコ・デモクラシーーフクシマ以後、民主主義の再生に向けてー、ブール&ホワイトサイド、明石書店、2012年
  • 災害社会、川崎一郎、京都大学学術出版会、2009年
  • もうダマされないための「科学」講義、菊池誠他、光文社新書、2011年
  • ポスト3.11の科学と政治、中村征樹、ナカニシヤ出版、2013年、
  • 疑似科学と科学の哲学、伊勢田哲治、名古屋大学出版会、2003年
  • 科学技術をよく考える、伊勢田哲治他編、名古屋大学出版会、2013年
  • 科学哲学ーなぜ科学が哲学の問題になるのかー、アレックス・ローゼンバーグ、春秋社、2011年

SF系

研究テーマとしては、SFの中で取り上げられる宇宙観、生命感とその変遷などがある。 他の分野に比べても参考文献は無数にあるので、手元にあるものを適当に挙げてるだけです。 マンガもあり混じってます。古いのが多いので、こういう古いのを、少し前のドラえもんやガンダム、 最近の宇宙兄弟やプラネテスなどと比較すると面白いかも。

  • ドーン、平野啓一郎、講談社、2009年
  • 闇の左手、アーシュラ・K・ルグィン、ハヤカワ文庫、1978年(=>この本は文化人類学的観点から見ても面白い)
  • 所有せざる人々、アーシュラ・K・ルグィン、ハヤカワ文庫、1986年
  • 暗黒星雲、フレッドホイル、コスモス・ブックス、1974年
  • 竜の卵、ロバート・L・フォワード、ハヤカワ文庫、1982年
  • 地球になった男、小松左京、新潮文庫、昭和46年
  • 地球へ...、竹宮惠子、スクウェア・エニックス、2007年
  • エデン2185、竹宮惠子、小学館、1985年
  • 百億の昼と千億の夜、光瀬龍・萩尾望都、秋田文庫、平成6年
  • 11人いる!、萩尾望都、小学館文庫、1994年
  • 竹取物語、星新一訳、角川文庫、1987年

宇宙政策、宇宙ビジネス、国際政治系

日本の宇宙政策は現在変革期にある。これまでの研究開発中心の体制から、 安全保障分野を含む実利用重視へとシフトし、一方でコストに見合った成果が 分かりにくいとされる有人宇宙開発などは縮小の傾向にある。

  • 宇宙開発と国際政治、鈴木一人、岩波書店、2011年
  • 日本の宇宙戦略、青木節子、慶應義塾大学出版会、2006年
  • 日本の宇宙開発、中野不二男、文春新書、1999年
  • 図解 宇宙ビジネス、的川泰宣監修、アスキー・メディアワークス、2011年
  • 内閣府宇宙政策委員会の資料

問い合わせ先

磯部 洋明 (いそべ ひろあき)
Office: 〒607-8471 京都市山科区北花山大峰町 京都大学花山天文台内
Email: isobe@kwasan.kyoto-u.ac.jp