2001年度 日本天文学会 林忠四郎賞 推薦理由 授賞候補者: 柴田一成 京都大学大学院理学研究科附属天文台 教授 研究の表題: 「宇宙ジェット・フレアにおける基礎電磁流体機構の解明」 推薦理由:  X線天文学に代表される新しい観測手段によって近年明らかにされた宇宙の姿 として、激しく活動する天体現象がある。これらは、太陽のフレア、X線で見た 太陽コロナ、恒星誕生の現場である原始星、ブラックホールを含むX線連星、 活動銀河核などがある。これらの天体の活動では、電磁流体現象が重要な役割 を果たしていると考えられている。  柴田一成氏の研究業績は、世界に先駆けて、電磁流体力学の シミュレーションや太陽観測衛星「ようこう」のデータ解析により、太陽 におけるフレア・ジェット現象の基本的なメカニズムを解明するなど、天文学 の新しい分野を自ら切り開いたことである。以下に具体的に説明する。  1980年代、注目されるようになった宇宙ジェットの電磁流体モデルとしては、 自己相似解などによる定性的な議論であった。柴田氏は、磁気降着円盤から噴出 する宇宙ジェットを電磁流体力学の数値シミュレーションで時間発展を追 いかけるという手法でジェットの再現に成功した。これらの研究により、 ジェットの加速としては磁気遠心力のみでなく、磁気圧による加速が重要な役割 を果たしていることを明らかにした。  また、柴田氏は天体活動現象の電磁流体シミュレーションに関する パイオニアの一人として、フレア・ジェットに関わる多くの基本問題に取り組 んだ。具体的には、太陽サージの磁気リコネクションモデル、太陽フレアで発見 された硬X線の磁気リコネクションモデル、磁気フレアおよびリコネクションに 伴う彩層蒸発過程の解明である。 さらに、柴田氏は太陽観測衛星「ようこう」による軟X線のムービーを理論家の 目で丹念に見て、観測家も見逃していたX線ジェットやX線プラズモイドを発見 した。これらの発見は、太陽フレアの磁気リコネクションモデルの決定的な証拠 になったと言っても過言でない。そして、柴田氏は古くから知られていた異 なったタイプの太陽フレアについて磁気リコネクションというキーワードを 使って「太陽フレアの統一モデル」を提唱した。これらをさらに発展させて、 太陽フレア、恒星フレア、原始星フレアの統一モデルを提案している。 以上見てきたように、柴田氏は宇宙ジェット・フレアの研究では 世界的第一人者で、ここ数年間で20回を越える国際会議での招待講演を要請 されている。柴田氏は日本の電磁流体シミュレーション研究を世界最高水準 にまで高め、世界に誇るグループを育てあげた最大の功労者である。このように 柴田氏は氏の独創的な研究を通じて世界の天体電磁流体力学研究の発展に多大の 貢献をされたものであり、選考委員全員一致で柴田一成氏を 日本天文学会林忠四郎賞候補として推薦するものである。