Fabry-Perotフィルターの中心波長・透過幅の一様性についての要求仕様

                                     2002年05月31日   上野 悟

磁場測定用に用いる Fabry-Perot フィルターの仕様に関しまして、以下の点に
ついて考察しましたので、御報告致します。
(もし以下の考察内容につきまして、おかしな点に気付かれた方、有益なコメント
をお持ちの方がおられましたらよろしく御指摘下さい。)

At 22:08 2002.05.27 +0900, R Kitai wrote:
>  磁場測定には、中心波長、透過巾の一様性が重要だと思います。案文では仮の値を
> 指定しましたが、必要な精度はどの程度が良いのでしょうか。(上野さん検討をお願
> いします。)

>         Our project require narrow band filters whose central
> wavelengths and passband-widths are very uniform over the free 
> aperture. We plan to use CSIRO filters to solar magnetic field 
> measurements. So the fluctuation of the central wavelength should 
> be within 0.005(TBD) Angstrom over the aperture. The fluctuation 
> of the passband width should be 0.005(TBD) Angstrom.


1)中心波長の一様性について
 この点につきましては以前リオフィルターの検討の際にも考察したのと同様、
 中心波長のずれは結局Q,U,Vプロファイルの単純な波長方向シフトとして
 出て来ますので、複数の波長で観測する場合は、磁場を算出する前の速度場を
 算出する段階でその影響をある程度除外してやることが可能ですので、制限は
 もっと緩める事ができると思います。
 (波長板の角度を4点取り、幅0.1Åのフィルターで鉄の吸収線中心±0.4
 Åの範囲の任意の波長で観測した場合に得られるQ/I、U/Iのプロファイル
 と、フィルター透過中心波長を±0.005Åずらしたフィルターから得られる
 それらのプロファイルの関係を示したグラフ:
 http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~ueno/SMART/FP/Center_zure.gif
 (ここでは、観測対象として、シミュレーションで求めた磁場強度1500G、
  傾斜角45°、方位角30°の磁場ベクトルを含んだノーマル光球ガスでの
  鉄の吸収線プロファイルを用いています。)
 当然ですが、丁度±0.005Åずれた所の値が得られています。
 逆に言えば、1波長だけの観測ですと、この誤差がストークスパラメータの
 強度自体の変化としてみなされるので、磁場の値に大きく影響が現れます。)

 以前の考察で、磁場の逆算時に磁場強度のエラーを10%以下に抑えるなら、
 太陽オリジナル、機器的シフト、合わせて3km/s相当のシフト以下にした
 い。従って機器的シフトは1km/s以下程度に抑えたい。という事を述べ
 ましたが、Fabry-Perot もそれは同じと考えて、「0.02Å以下」という
 条件では如何でしょうか。


2)透過幅の一様性について
 こちらはリオフィルターの検討の際にはあまり議論しませんでしたが、磁場の
 値に直接的に影響を与えるので、厳密にする必要があるかと思われます。
 例えば、先と同じく、シミュレーションプロファイルに対して波長板4角度、
 フィルター幅0.100Å、0.100ű0.005Åの3種のフィルター
 で測定を行なった場合に得られるQ/I,U/I,V/Iの各プロファイル
 の関係を
 http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~ueno/SMART/FP/width_prof.gif
 に示します。
 直感的にも分かる事ですが、各プロファイル共、極大極小値周辺での値に
 無視できない誤差が発生しています。この誤差の大きさを分かりやすくする
 ために、誤差の無いフィルターに対する差をプロットしたグラフを
 http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~ueno/SMART/FP/width_sa.gif
 に示します。
 各グラフ共、目標精度±0.001の所に横線を入れてありますので、それに
 対する誤差の大きさが見て取れると思います。
 磁場の値を逆算する際、この極大極小の値自身がとても重要になると思います
 ので、そこで誤差が大きくなる事はできる限り避けたい所です。

 そこで、更に制限を5倍厳しくし、透過幅の精度を±0.001Åとした場合
 を同様に計算してみました。その結果が
 http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~ueno/SMART/FP/width_sa2.gif
 です。
 ここまで来ますと、Q,Uに関しては随分目標精度に納まっている波長帯が
 増えました。Vはそれに比べると誤差が大きいですが、視線方向磁場の誤差に
 対する感度の低さを考慮すると、何とか許容範囲と言えるかも知れません。

 従いまして、透過幅の精度は、上記の通り「±1mÅ」と言う事では如何で
 しょうか。

 (この考察をしていて改めて気が付きましたが、磁場のより絶対的な大きさを
 得ようとする場合、フィルターの真の透過幅を正確に知っておく必要がある訳
 ですね。従って、逆算ソフトを作成する場合、フィルター製作会社に指定した
 波長幅0.100Åという仕様がもし正確に実現されていても、その値をその
 まま使用してはだめで、フィルターに入射する光が実際はテレセントリックで
 あれば、その角度幅を持って入射して来る光全体を積分した結果、透過する光
 の波長幅がいくらに広がっているのか、という所を、正確に計算するか検定測
 定し、その値を使用しなければならない、という事ですね。)

以上、長くなりましたが、よろしく御検討下さい。