2009/2010 CMO『火星通信』火星觀測ノート (5)
北半球春分後の夕方の蒼い模様
CMO #377 (
南 政 次
0° はじめに
既に朝方の場合に就いてはCMO#375のNote (3)に於いて稍詳しく調べ上げた。特に、ウォーカー(SWk)に代表されるアエテリアの暗斑の朝方での緑化には注意を惹起した。今回は夕方に關して若干の觀測結果を述べる。全體としては、然程好い觀測結果は得られ�ていない。水蒸氣の南下が遅かった所爲もあろうが、ccd處理に於いて、模様の濃化を強調する餘り、細かなニュアンスを失っているものが多いと思う。
1° マルガリティフェル・シヌス
前回も觸れたが、マレ・アキダリウムと南のアウロラエ・シヌスが見えている場合、既に北の春分の邊りからマレ・アキダリウム邊りは濃い茶系なのに對し、南半球の模様は靑色系であった。例えば筆者(Mn)の30Oct(λ=002°Ls)2009ω=043°Wの觀測等では顕著で、クリュセ-クサンテが赤く見えていた。
然し、ここで採り上げるのは、矢張り筆者の7Nov(λ=006°Ls)2009ω=016°Wにおいて、マルガリティフェル・シヌスが靑色系というより、スカイブルーに見えたことである。まだ、シヌス・メリディアニが出ていて、こちらの方はさほどの淡い色合いでなかったが、マルガリティフェル・シヌスがそのように見えたのは見事であった。ι は39°であるから、CMに達すか達しないかのマルガリティフェル・シヌスは夕没まで3時間半ほどあるわけであるが、一應夕方の現象と考えられた。筆者もこんな綺麗なスカイブルー色系のマルガリティフェル・シヌスを見たのは初めてだが、2007年に黄雲のためにこの邊りが淡化し、稍復活を始めていることと關係があるかと思われた。
尚、アントニアジは"Le 0m83 nous a toujours montré par de bonnes images
cette baie franchement verte (η=309° à 71°)"(シーイングの好いときはムードンの83cm鏡では常にこの灣は見事な緑色をして見えていた)と書いているので、ccdでももう少し工夫があってしかるべきであろう。尚、η=309° à 71°はλ=222°Lsから344°Lsぐらいに相當するので2011/2012年は未だ好機である。
2° 夕方のシュルティス・マイヨル
夕端でのシュルティス・マイヨルが稍蒼く見られるのは、十二月に入ってからで、1Dec(λ=017°Ls)からであるが、全體に宜しいとは言えない。リビュア雲が未だ盛んでない所爲もあるのかも知れないが、追求も足りない。ピーチ(DPc)氏の31Jan(λ=046°Ls)ω=356°W、002°W、009°Wではリビュア雲が掛かって、暮れゆくシュルティス・マイヨルが稍蒼く見えている。但し、�朝霧の方が強いようである。この日は最接近日に近いから英國で同じ様な角度で撮られ、同じ様な色合いのシュルティス・マイヨルの出ているものもあるが、氣がないので省略する。DPc氏の1Feb(λ=046°Ls)ω=339°W、344°Wにも現れているがB光の省略がある。眼視ではビヴェール(NBv)氏が1Feb (λ=046°Ls) ω=330°W、354°Wと好い角度でリビュア雲等を描冩しているが、暗色模様には變化がなく寧ろ茶系統を滲ませている。
12Feb(λ=051°Ls)ではパーカー(DPk)氏がω=335°Wという好い角度で捉えており、リビュア雲は捉えらえているが、B光で模様を強く出し過ぎたために(この人の欠點)、シュルティス・マイヨルの色合いが濃くなってしまった。それに比べて、(この邊りで今期の最高の像が出るのだが)、阿久津(Ak)氏の22Feb(λ=055°Ls)ω=357°W、007°Wではシュルティス・マイヨルが寧ろ空色になって夕端に見えている。B像でリビュア雲も捕らえられている。Ak氏の23Feb(λ=056°Ls)ω=351°W、001°Wでも似ている。ωが前日と5°Wずれているが、却って好いかもしれない�。24Feb(λ=056°Ls)にもAk氏は同じ角度ω=352°W、001°Wで撮るのだが、シーイングが前日よりよくなりω=001°Wの像は見事である。両者ともB光が好く、リビュア雲をうっすらと出している。同じ24Febには森田(Mo)氏がω=004°Wで撮っているが、出遅れである。熊森(Km)氏は角度の好いときに撮っているが、普通のカラーにLを被せるために色彩の描冩には向いていない。
なお、後に全く現れない例が出てくる。典型的なのはDPc氏の7Mar(λ=061°Ls、ι=26°)ω=001°W、005°Wなどで、リビュア雲が全く現れておらず、シュルティス・マイヨルは他の暗色模様と同様の色合いで沈んで行く。その後、蒼い夕方のシュルティス・マイヨルが見られないわけではないが、氣が入っているとはいえず省略する。但し、リビュア雲の盛衰は別の問題として重要である。
3° おわりに
今回はリビュア雲が衝後にあたっていたため、その威勢が好く現れて居らず、その爲にシュルティス・マイヨルへの影響も短時間で終わることが多いのだが、豫め、角度の計算などして、追求するようにすると好い。初めに述べたように、暗色模様の描出だけに心を砕くのではなく、乏しい色彩から乏しいながら色の違いを描出することこそ觀測である。
尚、白霧の下の蒼い模様についての考察は、既にだいぶ前になるが、
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/note/9901/01j.html
で行っている。朝方についてだが夕方についても同じ考え方が出來る。