Ten Years Ago (221)

 ---- CMO #278 (10 September 2003), CMO #279 (25 September 2003) ----

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn0/cmo278/index.htm

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn0/cmo279/index.htm


 

今回もCMO#278 (10 September 2003)CMO#279 (25 September 2003)の二号の紹介となる。

 

じめにCMO#278 (10 September 2003)は、13回目の観測レポートとLtEからなる構成である。

史上まれにみる接近期となった八月後半(λ=242°Ls~252°Ls)の観測を取り扱ったレポートには、世界中の観測者78名から392観測が寄せられた。内訳は、日本から15296観測(但し、Id, Nj, Wk氏の観測はカウントされていない)、アメリカ大陸27168観測、ヨーロッパ28163観測、アジア・オセアニア832観測となっている。この期間の27 Aug (λ=249°Ls)に「みずがめ座」で最接近となり視直径δ=25.1”に達した。視直径はδ=24.5"から最大となり、期間末にはδ=25.0"に戻ったが、δ=25秒角台が22 Augから十日間も続いた。δ=25秒角を越える大きさにまでなることは、メーウスの接近表に拠れば1924年以来で、今後は2050年まで訪れることはなく、経験したことのない未曽有の大きさであった。衝は28 Augの一日遅れで訪れた。中央緯度φ19°Sで推移し南極側に傾いていた。位相角ι12°から最小となり陰は北回りに朝方に移った。31 Aug にはι=6°になっている。

 

レポートは、概況のあとに、注目点を列挙している。[ヘッラス-トリナクリア]では砂塵が舞ったように見えるとある。次いで、[砂漠の赤味の地肌]が戻っている所を指摘している。[暗色模様のワインカラー状況]では、連日の様子を地点ごとに取り上げてある。「ワイン色に見えるところは浮遊ダストが弱いところだろうと思われる」としている。[高緯度黄塵(?)]として、ブダ(SBd)氏の19 Aug (λ=244°Ls)ω=233°Wの画像に捉えられた南極冠周辺の高緯度のΩ=210°Wの明部を取り上げている。この明部は28 Aug (λ=250°Ls)まで日本・アジア側から追跡されたが、31 Aug (λ=252°Ls)には拡散したようだとされている。 「この現象は南極冠の溶解の速い部分の外側に當たるから、溶解に依って局所的に擾亂が起こったと考えられる」と、Mn氏はコメントしている。[南極冠]とその周囲の様子は、1)ノウゥス・モンス、2)テュレス・モンス、3) アルゲンテウス・モンスの分離、4) パルワ・デプレッシオ、5) 南極冠の偏極、と小見出しを付けてそれぞれを詳説している。[高緯度の朝霧または朝霜]として、20 Aug (λ=245°Ls)あたりから見え始めた南極冠近くの、朝霧か朝霜の明るさを取り上げている。[朝霧・夕霧]では、20 Aug (λ=245°Ls)の様子が「朝方と夕方は白く霧が起っているようで、特にシュルティス・マイヨルの西側縁は非常に白い状態であった」とあり、以後も各観測者により朝夕の霧が捉えられている。[朝方、北邊の暗色模様]では、朝方のシュルティス・マイヨルの様子や、アエテリアの暗斑、ノドゥス・アルキュオニウスなどの北半球の様子を取り上げている。[アルシア白雲とオリュムプス・モンス]では、夕方のアルシア白雲の活動が続いていることと、オリュムプス・モンスが衝効果の反射で明るく認められ、気象的ではない明るい典型的な姿として紹介されている。[北極雲]では北縁に見え難い北極雲の様子の継続した観測結果がなかなか捉えられていないことを嘆いている。[マレ・キムメリウム(承前)]では視直径が大きな時に見えたマレ・キムメリウムの詳細についての記録がある。他には火星の衛星に関する記述も載せられた。

レポート後半には、この期間の南(Mn)氏の沖縄での様子が画像と共に記録されている。最接近の頃の宮崎勲(My)氏の自宅の40cm反射を使用させてもらっての観測状況を中心に記されていて、他に天久での最終観測と撤収の模様、沖縄での観測の感想も述べられている。Mn氏は八月末までで沖縄遠征観測を切り上げて31日に福井へ戻った。「23Juneから丁度七十夜の滞在で、23June (λ=209°Ls)Mn-244D (ω=094°W at 16:30GMT)から30 Aug (λ=251°Ls)Mn-679D (ω=200°W at 17:00GMT)まで436枚のスケッチを得た。」とある。曇られて観測出来なかったのは三夜のみであった。

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn0/278OAAj/index.htm

 

CMO#278LtE には八月25 から 九月9日までの来信が記録されている。外国からは以下の34名の諸氏、John BARNETT (VA, the USA), Nocolas BIVER (France), Jeffrey BEISH (FL, the USA), Stefan BUDA (Australia), Rolando CHAVEZ  (GA, the USA), António CIDADÃO (Portugal), Brian COLVILLE (Canada), Daniel CRUSSAIRE (France), Tom DOBBINS (OH, the USA), Mario FRASSATI (Italy), Matin GASKELL  (NE, the USA), Ed GRAFTON (TX, the USA), David GRAHAM (the UK), Alan HEATH (the UK),  Silvia KOWOLLIK (Germany), Paolo LAZZAROTTI (Italy), Ralph MEGNA (CA, the USA), Frank J MELILLO (NY, the USA), Eric NG ( 偉堅, Hon Kong), Don PARKER (FL, the USA), Damian PEACH (the UK), Christophe PELLIER (France),  Francisco RODRIGUEZ (Spain), Kai-Li RUE (Taiwan), Richard SCHMUDE, Jr  (GA, the USA), Clay SHERROD (AR, the USA), Elisabeth SIEGEL (Denmark), José SURO (FL, theUSA), TAN Wei-Leong ( 韋龍, Singapore),  Randy TATUM (VA, the USA), Gérard TEICHERT (France), Maurice VALIMBERTI (Australia),  John WARELL (LPL, AZ, the USA), Ferruccio ZANOTTI (Italy)

国内からは次の九名の方々から寄せられたものである。阿久津富夫(栃木)、浅田 正(福岡)、伊舎堂弘(沖縄)、岩崎 (北九州)、熊森照明(大阪)、宮崎 (沖縄)、森田行雄(広島)、岡野邦彦(東京)、湧川哲雄(沖縄)

 

 

いでCMO#279 (25 September 2003)には、2003 Great Mars CMO Report (No.14)LtETYA(97)が掲載されている。

14回目となったレポートは九月前半の火星面の様子が取り上げられている。この期間、火星は「みずがめ座」を逆行中で、季節はλ=252°Lsから261°Lsに移り、南半球大黄雲の発生時期になっていたが、大きな擾乱は観測されていない。視直径はやや下がりδ=25.0"からδ=23.4"となったが、まだ十二分な大きさである。位相角ιから15°に、陰は朝方に移っている。傾きφ19°Sと南極を大きく見せていた。

観測数は日本では天候が安定してきて伸びているが、海外の観測者は視直径が最大になった後は大幅に減ってしまった。Mn氏は、まだ視直径はδ=20"以上の大きさなのに、水が引くように観測数を減らしているのは解せないことだとしているが、本来は観測者がもっと少ないのが常態なのであろうと、今回の大接近における火星観測ブームを批判している。

常連報告者はペースを守っていたが、報告者は20名ほど減って59名から487観測の報告数であった。内訳は日本国内から12277観測、アメリカ大陸21103観測、ヨーロッパ1775観測、アジア・オセアニア932観測で、ヨーロッパからの観測報告が少なくなっているのは、天候の為だったかとしている。

 

レポートは福井に戻ったMn氏の、この時期の感想が前置きに置かれて、その後に、注目現象毎に解説がされている。まずは、[縁、朝靄、夕霧、南半球高緯度]と見出しが付けられ、「夏至近くになって水蒸気が可成り北に移って朝夕は濃くなり、朝霧と夕霧が同じ様に見える。一方、南半球高緯度の縁は、黄色いダストが濃い」と、現状の火星面の状況を良像を紹介して概観している。[南半球高緯度とワインカラー領域]ではアオニウス・シヌスからソリス・ラクスにかけてワインカラーにみられた現象を取り上げ、「浮遊するものにムラが出てくると、ワインカラーが見られるということであろう」としている。  [劉佳能(キャノン・ラオ)氏現象] 9 Sept (λ=257°Ls)に香港で朝霧の中に捉えられたワインカラーの領域のことで、前記のソリス・ラクス周辺の現象の延長線上に見られたものである。同様な現象は単発的にはかなりの画像に認められるが追求はされていないとしている。次いで、[トリナクリアからヘッラスに掛けて]に視点を移し、「トリナクリアからヘッラス東部に真っ直ぐに立っている明柱がボンヤリ認められるが、動かないところをみると新しい沈澱かとも思う」と、している。[オシディス・プロモントリウム?]は、シュルティス・マイヨル北の東岸に見えた明るい斑点に関しての考察である。南極冠と周辺域に関しては、[テュレス・モンスの崩壊][アルゲンテウス・モンスとリマ・アングスタ][ノウゥス・モンスとその前方]と見出しを分けて詳しい解説を載せている。

続いて、[ビル・シーハン、リック天文臺で觀測]と題して、シーハン(WSh)氏の28 Augから12 Sept 2003まで二週間にわたるリックの91cm屈折を使っての観測の様子を紹介している。大接近直後で視直径は申し分なく、シーイングも好いときに重なっていて、多くのスケッチが得られている。

最後には、視直径が最大を過ぎて下がってきたこの期間の、常連観測者の観測報告のトーンダウンに関して苦言を述べられている。

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn0/279OAAj/index.htm

 

CMO#279LtEは、九月10日から九月24日の期間に寄せられたものが取り上げられている。国外からは以下の24名、Peter BERRY (FL, the USA), Nocolas BIVER, Jeff BEISH, Rolando CHAVEZ, Tom DOBBINS, Mario FRASSATI, Ed GRAFTON, David HANON (GA, the USA), Silvia KOWOLLIK, Paolo LAZZAROTTI, Canon LAU ( 佳能, Hong Kong), Eric NG, K C PAU ( 國全, Hong Kong), Don PARKER, Damian PEACH, Christophe PELLIER, Bill SHEEHAN (MN, the USA), Clay SHERROD, Elisabeth SIEGEL, Johan WARELL, Sam WHITBY (VA, the USA), Bill WILLIAMS (FL, the USA), Barbara WILSON (TX, the USA),  Ferruccio ZANOTTI。国内からは阿久津、浅田、熊森、宮崎、森田の各氏5名からであった。

 

Ten Years Ago (97)は、日岐敏明氏によりCMO #137 (25 September 1993)が取り上げられた。二十年前の九月には観測期が終わり解析の時期になっていて、観測ノートが二編取り上げられている。

一つは、1992/93 CMO NOTE(7) 29 Dec 1992 (λ=018°Ls) 南アウソニア突然顕著」と題されて、西田昭徳(Ns)氏撮影の写真に捉えられた午前中の南アウソニアに見られた明るさに関しての記事である。

二つめは、1992/93 CMO NOTE(8)「春分頃の北極冠の周縁--特に Ω=080°W180°W」で、1992年十一月下旬に観測された北極雲を透かして見られた暗線に関してである。極雲の透明度により、暗線の見え方は変化するが、北極冠のダークフリンジが透けて見えているとの結論であった。

Mn氏の「夜毎餘言」(XXXVIII)は、「割箸と焼畑と」と題された自然破壊とリサイクルがテーマの話で、途中に永井靖二(Na)氏の朝日新聞(福井版)の焼き畑農業に関しての連載記事の紹介がある。台湾では割り箸の材料は竹で、削り直して再度利用されることなど、Mn氏が体験されたことで締めくくられている。 

『一点点・一天天』では「ISBNISSN」と題して、書籍につけられている十桁の国際標準図書番号(ISBN: International Standard Book Number)の説明がされている。「シー・エム・オー・フクイ」では、西田(Ns)氏の夏休みのオーストラリア天文遠征の話が英文で披露されていて、南極の星々を撮した静止周回画像が取り上げられている。

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn3/279tya97.htm 

 

村上 昌己 (Mk)


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