CMO/ISMO 2020 観測レポート#04 

2020年四月の火星観測報告

 (λ=176°Ls ~λ=193°Ls)

村上 昌己

CMO #493(10 May 2020)


・・・・・・ 今期四回目のレポートは、『火星通信』に報告のあった四月中の観測と追加報告から取り上げる。

 

 

火星は、四月には上の図のよう「やぎ座」を足早に進んで赤緯を上げていった。土星・木星は五月の「留」に向けて順行をしていたが火星に比べ動きは小さく、だいぶ東に離れてしまった。しかし横浜では火星の出はまだ午前二時台で、月末になっても、午前五時頃の日の出時の地平高度は北半球からは30度ほどにしか上がらなかった。

季節 (λ) は、176°Lsから193°Lsと進んで、火星の南半球の春分(180°Ls)8 Aprに過ぎた。視直径(δ)6.4"から7.6"とやや大きくなってきている。傾き(φ)15°Sから21°Sと大きく南を向いてきて、融解の進む南極冠の様子が捉えられるような角度になっている。位相角(ι)40°から44°と大きくなり、夕方の明暗境界線が見えていて、午後遅くなった山岳雲の活動がまだ見えていた。火星の北極方向角はマイナスとなり、日周運動で火星が逃げて行く方向(P)が下向きに変わった。

 

*

 

南半球の春分(180°Ls)を過ぎて、南極点は白夜となり極冠の融解が周囲より早く進むようになり、中央に陰りが見られるようになって、周辺部が明るく輝く。極冠周辺ではダストの活動が見られるようになり、南半球の黄雲の発生期に入っていることもあり、視直径はまだ十分でないが注意が必要である。

 

・・・・・・ 今回は、デミアン・ピーチ氏から寄せられた三月の追加報告画像から、気に掛かっていたHellas東部の様子を紹介する。下の画像で中段が三月の連日の画像である。上段は2018年接近期の、同地域の全球的黄雲の前後の画像を並べてみた。黄雲の収まった後の九月の画像でも、Hellasの輪郭は明かで、東側(左側)M.Hadriacum(マレ・ハドリアカム)を境にして、Ausonia (南アウソニア)Eridaniaの明部が並んでいる従来の明暗模様の配置が継続していた。

ところが、中段の今期三月のピーチ氏の画像では、M.Hadriacumがはっきりせずに、HellasAusoniaの間に、南北に走る暗条が幾本か描写されている。連日の画像に現れていて、何らかの活動が捉えられていると思われたが、小さな視直径のこともあり、はっきりしたことは判らなかった。

 


その後も、同地域の良い画像の報告はなく、少し季節の進んだ四月末になっての、熊森氏からの報告を待つ事になってしまった。下段に、ピーチ氏とのωを揃えた画像を並べてみた。中段の画像のようには、南北に走る暗条がはっきりとは捉えられていない。このシリーズの画像では、Hellasは丸く地肌色に明るく、中央のZea L(ゼア・ラクス)も捉えられている。Hellas西側(右側)に明るさがある。2003年のほぼ同季節の熊森氏の画像も比較のために並べてみた。Hellasあたりは明るく抜けていて、季節的な傾向であると思われる。しかし、今年の様子では、Ausoniaから、Trinacria(北アウソニア)M Tyrrhenum(マレ・テュッレヌム)にかけてはやや淡化しているように思われ、Hellasの北のIapygia Viridis(イアピュギア・ヴィリディス)にかけても同様である。今後の視直径の増大で詳細が捉えられることと思われる。

Hellasの西側にも変化が見られるように思われる。それは次回に取り上げることとしておく。下記のリンクの論攷も参考として欲しい。

顕著期から衰退期に掛けてのHellasの動向 [1996/97 Mars Sketch (5)] CMO #203 (25 May 1998)

 http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn0/97Note05j.htm

Maurice VALIMBERTIが観測したHellas外縁の黄塵活動2014827(λ=186°Ls)

  [ISMO 2013/14 Mars Note (#03) ] CMO #430 (25 January 2015)

  http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/430/ISMO_Note_2014_03.htm

 

 

この季節の現象として、南半球のArsia Mons (121°Ω, 09°S)の午後の山岳雲が、まだ活動的である事が挙げられる。北半球の山岳雲はλ=180°Ls過ぎから弱まっていくが、アルシア雲はまだ活動的でありλ=220°Ls頃までは活動が続く。四月の報告でもフォスター氏の画像に捉えられていて、B光画像でも鮮やかに見える。この時のArsia Monsの火星地方時は(12+(ω+ι-Ω)/15)=15.9で、午後四時ころである。そのさらに夕方側のSyria(シュリア)にも白雲が見えている。

 


Arsia Monsでは、もう一度λ=280°Lsころから、午後の山岳雲が活動的になることが知られている。今接近では、衝の前のまだ夕縁の見えている九月頃からになり、視直径の大きな時にあたる。近づいたときにあらためて注意を促したい。下記の論攷も参考にされたい。

2005年のアルシア夕雲   The Arsia Evening Cloud in 2005

[CMO 2005 Mars Note (4)] CMO #321 ( 25 July 2006 )

https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn3/CMO321.pdf  (p0417-)

 

 

・・・・・・『火星通信』に寄せられた四月中の観測は、以下のようである。日本からは、熊森氏から22観測(IR画像を含む)と森田氏から追加報告を含む10観測が寄せられた。国外からは、アメリカ大陸方面から、チリテレスコープ遠隔使用のピーチ氏から追加観測を含めて10観測が、プエルト・リコのモラレス氏からは1観測であった。南半球からは、南アフリカのフォスター氏から12観測。オーストラリアからは、ウエズレイ氏から3観測、観測を開始したジャステス氏からは三月の追加観測を含めて5観測の報告があった。トータルは7名からの63観測で、二月と三月の追加観測が15観測含まれる。ヨーロッパ側からはまだ報告がない。

 

   クライド・フォスター (CFs) センチュリオン、南アフリカ

   FOSTER, Clyde (CFs) Centurion, SOUTH AFRICA

      12 Sets of RGB + 11 IR Images (5, 6, 12, 16, 17, 19, ~22, 24, 25, 30 April 2020)

                                                  36cm SCT @ f/27 with an ASI 290MM

      https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_CFs.html

 

   マーク・ジャスティス (MJs) メルボルン、オーストラリア

   JUSTICE, Mark (MJs) Melbourne, AUSTRALIA

       3 Set of RGB Images  (8, 26, 27 April 2020)   30cm Spec with an ASI 290MM

      https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_MJs.html

 

   熊森 照明 (Km) 堺市、大阪府     

   KUMAMORI, Teruaki (Km) Sakai, Osaka, JAPAN

      10 Colour* + 9 B + 12 IR Images (7, ~ 10, 14, 16, 20, 23, 24, 27,~30 April 2020) 

                             36cm SCT @ f/37 with an ASI 290MM & ASI 224MC*

        https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_Km.html

 

   エフライン・モラレス=リベラ (EMr) プエルト・リコ

   MORALES RIVERA, Efrain (EMr) Aguadilla, PUERTO RICO

      1 IrRGB Image (14 April 2020) 31cm SCT with an ASI 290MM

      https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_EMr.html

 

   森田 行雄 (Mo) 廿日市市、広島県

   MORITA, Yukio (Mo) Hatsuka-ichi, Hiroshima, JAPAN

      4 Sets of LRGB Images  (3, 5,~7 April 2020)  36cm SCT with an ASI 290MM

      https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_Mo.html

 

   デミアン・ピーチ (DPc)  ウエスト・サセックス、英國

   PEACH, Damian A (DPc)  Selsey, WS, the UK  Remote controlled the Chilescope

      6 Colour Images (3, 4, 7, 8, 10, 11 April 2020)  Chilescope (100cm Richey Chretien)

      https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_DPc.html

 

   アンソニー・ウエズレイ (AWs) クイーンズランド、オーストラリア

   WESLEY, Anthony (AWs) Rubyvale, QLD, AUSTRALIA

      3 Colour Images (17, 19, 24 April 2020)  [51cm Spec, PGR GS3-U3-32S4M]

      https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_AWs.html

 

 

・・・・・・

   JUSTICE, Mark (MJs) Melbourne, AUSTRALIA

      2 Sets of RGB Images (30, 31 March 2020)  30cm Spec with an ASI 290MM

      https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_MJs.html

   MORITA, Yukio (Mo) Hatsuka-ichi, Hiroshima, JAPAN

      7 Sets of LRGB Images (20, 23, 27 February; 4, 11, 18, 20, 23 March 2020) 

                              36cm SCT with an ASI 290MM

      https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_Mo.html

   PEACH, Damian A (DPc)  Selsey, WS, the UKRemote controlled the Chilescope

      4 Colour Images ( 2, 9, 10, 12 March 2020)  Chilescope (100cm Richey Chretien)

      https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_DPc.html

 


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