CMO/ISMO 2020 観測レポート#07
2020年七月の火星観測報告
(λ=230°Ls ~λ=250°Ls)
村上 昌己
CMO
#496(
♂・・・・・・ 『火星通信』に報告のあった7月中の観測と追加報告を纏めて、今期七回目のレポートとする。アメリカ側からは報告の人数も増えて厚みが出ている。日本からの報告は今年の異常とも言える梅雨の曇天続きで少なく、ヨーロッパ側からの報告もまだ入り始めたばかりである。
火星は、七月には「うお座」西部の南側を進んで「くじら座」をかすめて移動していて、火星の出は夜半前となっていた。中旬には赤緯は北になり、夜半前には出てくるようになり、高度の上がるのも早くなっている。下旬には日の出時には南中するようになっていた。
視直径(δ)は、 11.5"から14.5"に達し、十分に大きくなっている。季節 (λ) は、230°Lsから250°Lsと南半球の夏至へ向かって進んでいた。傾き(φ)は23°台から20°台に少し戻ったがまだ南に傾いていて、南極域がこちらを向いて、融解の進む南極冠の観測が面白い時期であった。位相角(ι)は46°台を推移していたが、月末には43°台にまで減ってきた。
♂・・・・・・ 7月の火星面の様子として、ダストの活動をまず取り上げる。6月下旬にChryse-Xanthe領域で発生したダスト活動は、大きく発展することなく落ち着いていった。しかし火星面は浮遊ダストで覆われていて、Tharsis MontesやOlympus Monsなど高山の山頂は低層の浮遊ダストの層から飛び出して濃く見えている状況が続いている。下図のように地上からの観測の他にも、ESAのMars Express衛星搭載のThe Visual Monitoring Camera (VMC)の画像に捉えられている。
火星面の暗色模様は、まだ浮遊ダストの影響が残り、だいぶコントラストが低いと思われるが、IR画像を使って模様を強調している画像が寄せられているのは、残念に思われる。RGB合成画像には、それぞれ各フィルターの元画像の添付が望ましい。
次には、季節が進み融解の偏芯が始まっている南極冠の様子である。下旬の各方向からの様子を眺めてみた。
7月下旬には雪線は70°Sまで後退している。Hellas南方のノウォス・モンス(Novus Mons)は、20 July(λ=242°Ls)には南極冠とほぼ分離しているようで、季節通りのようである。以後はアメリカ側からの観測に多く捉えられている。Argyre南方のモンス・アルゲンティウス(Mons Argenteus)は、南極冠周縁に二つ玉で明るく観測されている。前月に示したように南極冠が遅くまで融け残るところである。経度150°W付近に見られる、チュレス・モンス(Thyles
Mons)は、今回の報告ではあまりはっきりと認められなかった。熊森氏の 20 July の画像に突起として認められるように思えるが、ダストの活動のようでもある。この経度から東側の南極冠は他より早く融解が進むところで、右図のようにマレ・キムメリウム(M.Cimmerium)が正面に見える経度では、南極冠は薄平たく見えるようになってしまう。
ノウォス・モンスの消滅までに関しては、下記の論攷を参照されたい。
CMO 2005 Mars Note (10) "Remnant” Novus
Montis 「ノウォス・モンスの殘照」 CMO #327
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn3/CMO327.pdf
♂・・・・・・『火星通信』に寄せられた七月中の観測は、以下のようである。日本では今年の梅雨は長引いて、沖縄等南の島々では七月中に梅雨が明けたが、本州の梅雨明けは八月にずれ込んで七月中の観測報告は激減した。熊森氏の観測報告も四日間に留まった。大阪のヘフナー氏が望遠鏡をC11にアップして観測を開始した。アメリカからは、グラフトン氏、メリッロ氏、ウォーカー氏等ベテラン勢が、コンスタントに報告を寄せ始めて、報告が充実してきた。フォスター氏は赤緯が上がったこともあり、なかなかシーイングに恵まれないようで伸び悩んでいる。ヨーロッパ側からも、ぼちぼち観測が入り始めている。
わが国からの報告は長引いた曇天傾向で少なく、阿久津氏から4観測、熊森氏からは12観測(IR画像を含む)、ヘフナー氏から3観測。森田氏・尾崎氏は追加観測も含めて、まとめての画像提出で、合計47観測(追加分26観測を含む)であった。国外からは、アメリカ大陸方面から、ゴルチンスキー氏が20観測(IR画像を含む)、グラフトン氏から15観測(IR・RGB画像)、ウオーカー氏からは(RGBセット画像)14観測が送られてきている。プエルト・リコのモラレス氏からは3観測、チリテレスコープ遠隔使用のピーチ氏からは追加観測の1観測であった。ヨーロッパ側からは、ドラクロア氏(フランス)、ワレッル氏(スウェーデン)、ピーチ氏はイギリスの自宅での1観測を送ってこられて、計7観測であった。南半球からは、南アフリカのフォスター氏から10観測。オーストラリアからは、ジャスティス氏から久しぶりに1観測の報告が入った。合計して、16名からの130観測で、追加報告が28観測含まれる。
阿久津 富夫 (Ak) 常陸太田市、茨城県
AKUTSU, Tomio (Ak) Hitach-Oota,
3 Sets of RGB+ 3 IR
Images (19*, 31 July 2020) 45cm
spec, 36cm SCT* with an ASI 290MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_Ak.html
マーク・ドラクロア(MDc) トゥルヌフイユ、フランス
DELCROIX, Marc (MDc) Tournefeuille,
France
3 RGB + 2
Colour* + 5 IR Images (4, 5, 12, 27*, 30 July
2020)
32cm speculum with an ASI
290MM & ASI 462 MC*
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_MDc.html
クライド・フォスター (CFs) センチュリオン、南アフリカ
FOSTER,
Clyde (CFs) Centurion,
9 Sets of RGB + 10 IR
Images (1, 2, 4, 6, 7, 12, 17, 20, 29, 30
July 2020)
36cm SCT @ f/27 with an ASI 290MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_CFs.html
ペーター・ゴルチンスキー (PGc) コネチカット、アメリカ合衆国
GORCZYNSKI, Peter (PGc) Oxford, CT, The
12 Sets of RGB + 1 Colour*
+ 17 IR images (3, 6, 12, 14, 15, 19, 21, 23, 26~29 July 2020)
36cm SCT with an ASI 290MM & ASI 120MC*
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_PGc.html
エド・グラフトン (EGf) テキサス、アメリカ合衆国
GRAFTON, Edward A (EGf) Houston, TX, the
15 Colour Images (9, 12, 14,~19, 22, 24, 27,~31 July
2020) 36cm SCT @ f/27
with an ASI 120MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_EGf.html
ロバ−ト・ヘフナー (RHf) 大阪府、日本
HEFFNER, Robert (RHf) Osaka, JAPAN
3 Colour Images (20, 30 July 2020) 28cm SCT with an ASI 224MC
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_RHf.html
マーク・ジャスティス (MJs) メルボルン、オーストラリア
JUSTICE, Mark (MJs) Melbourne,
1 Set of RGB
Images (30 july
2020) 30cm Spec with an ASI 290MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_MJs.html
熊森 照明 (Km) 堺市、大阪府
KUMAMORI,
Teruaki (Km)
Sakai, Osaka, JAPAN
8 Colour* +
4 B + 4 IR Images (1, 20, 30, 31 July 2020)
36cm SCT @ f/37 with an ASI 290MM & ASI 224MC*
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_Km.html
フランク・メリッロ (FMl) ニューヨーク、アメリカ合衆国
MELILLO,
Frank J (FMl) Holtsville, NY, the
3 Colour +3 (610nm)* Images (12, 19, 26 July
2020) 25cm SCT with an ASI120MC
& DMK21AU618.AS*
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_FMl.html
エフライン・モラレス=リベラ (EMr) プエルト・リコ
MORALES
RIVERA, Efrain (EMr) Aguadilla,
3 Sets of RGB + 2 IR
Images (7, 11, 21, July 2020) 31cm SCT
with an ASI 290MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_EMr.html
森田 行雄 (Mo) 廿日市市、広島県
MORITA, Yukio (Mo) Hatsuka-ichi,
2 Sets of LRGB
Images (16, 20 July 2020) 36cm SCT with an ASI 290MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_Mo.html
尾崎 公一 (Oz) 稲沢市、愛知県
OZAKI,
Kimikazu (Oz)
Inazawa,
1 Colour image (31 July 2020) 44cm Spec with an ASI 290MC
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_Oz.html
デミアン・ピーチ (DPc)
ウエスト・サセックス、英國
PEACH, Damian A (DPc) Selsey, WS, the
1 Colour Image (3 July 2020) (36cm SCT)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_DPc.html
ミカエル・ロゾリーナ (MRs) ウエスト・バージニア、アメリカ合衆国
ROSOLINA, Michael (MRs) Friars Hill, WV, the
7 Colour
Drawings (2, 3, 7, 14, 20, 25, 27 June 2020) 35cm SCT, 326×, 391×, 355×, 489×
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_MRs.html
グレイ・ウォーカー (GWk) ジョージア、アメリカ合衆国
WALKER,
Gary (GWk) Macon, GA, the USA
13 Sets of RGB + 1 IR Images (3, 9, 22,~ 25, 27, 31 July 2020)
25cm refractor with an ASI 290MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_GWk.html
ヨハン・ワレッル (JWr) スキヴァルプ、スウェーデン
WARELL,
Johan (JWr) Lindby,
1 Colour + 1 IR Images (27 July 2020) 53cm speculum @f/14 with an ASI
224MC
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_JWr.html
♂・・・・・・ 追 加 報 告
MORALES RIVERA, Efrain (EMr) Aguadilla,
1 IR Images (30
June 2020) 31cm SCT with an ASI
290MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_EMr.html
MORITA, Yukio (Mo) Hatsuka-ichi,
9 Sets of LRGB
Images (23, 26, 28 June 2020) 36cm SCT with an ASI 290MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_Mo.html
OZAKI, Kimikazu (Oz) Inazawa,
17 Colour images (14, 19, 28, 29
May; 7, 15, 16, 20, 26, 28 June 2020)
44cm Spec with an ASI 290MC
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_Oz.html
PEACH, Damian A (DPc) Selsey, WS, the
UK, remote controlled the Chilescope Team in
1 Colour Image (15
May 2020) Chilescope
(100cm Richey Chretien)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_DPc.html