CMO/ISMO 2020 観測レポート#08
2020年八月の火星観測報告
(λ=250°Ls ~λ=269°Ls)
村上 昌己
CMO
#497(
♂・・・・・・ 『火星通信』に報告のあった八月中の観測と追加報告を纏めて、今期8回目のレポートとする。日本からの報告は、梅雨が明けて天候の回復したこともあり、連日の報告があった。熊森氏の晴れ間をうまく使っての毎日の観測が有り難い。近内氏からも大きな口径での画像が入り始めている。阿久津氏も自作のニュートン反射が稼働態勢に入ったようである。吉澤氏は、福井の足羽山の望遠鏡で40分インターバル観測を実行している。森田氏も連日の撮影をしていて、まだ未処理・未報告の画像が多数有るとのことである。アメリカ側からの報告は安定して入り、ヨーロッパ側からの報告も人数が増え始めている。
火星は、上の図のように、八月には「うお座」の東部へ進んで赤緯を上げていった。火星の出は22時ころとなり、夜半前には観測が出来るようになっていた。南中高度も高くなり、夜半過ぎには十分な高度に昇っていた。
視直径(δ)は、14.5"から18.9"と眼視観測にも十分な大さになった。季節 (λ) は、250°Lsから269°Lsと南半球の夏至間近かにまで近づいてきた。傾き(φ)は20°台から17°台に戻ってきている。まだ南極域がこちらを向いて、Novus Monsの最終段階が観測できた。位相角(ι)は43°台から33°台にまで減って、欠けが小さくなってきている。
♂・・・・・・ 火星面の様子として、8月になると浮遊ダストはほとんど薄くなって、視直径の大きくなってきたこともあり、北半球のPhlegraあたりの淡い暗色模様も北縁近くに認められるようになって、Elysiumあたりの形も判るようになってきた。この季節に見られる現象としては、融解が進む南極冠とその周辺部分での活動。Arsia Monsの山岳雲のふるまい。北極雲の生成開始等が上げられる。また衝前の位相角の大きな時期にあたり、午後から夕方にかけての地形の凹凸の陰影の描写も興味のあるところである。
近着のデミアン・ピーチ氏(DPc)の画像には、7月の極冠の偏芯の様子が捉えられている。13 July(238°Ls)と23 July(244°Ls)の画像を極投影にして合成した画像を示す。両方の画像共に、Novus Mons後方から、火星面経度(Ω)=210°W付近を中心に南極冠が早く融解して明るさの落ちている範囲が良く捉えられている。
この期間に、Ω=210°W付近を捉えた森田行雄氏(Mo)の、16 Julyの画像の一部も示す。Novus Monsの後端が右側に見えている。南極冠の明るさは弱い。
8月になっての南極冠とその周辺の様子としては、Novus Mons の分離と縮小をまず概観する。
上に取り上げた各氏の画像は、7月下旬に分離をしていたNovus Monsの縮小の様子を追ったもので、月末には、僅かの残滓が認められるだけになっている。λ=270°Ls過ぎには消失するとされているので、季節通りのようである。
Novus Monsの消滅までに関しては、下記の論攷を参照されたい。
CMO 2005 Mars Note (10) "Remnant” Novus Montis 「ノウォス・モンスの殘照」 CMO #327
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn3/CMO327.pdf
次には、Ω=150°W付近に見られた、南極冠からの飛び出しの様子である。Ω=150°W付近はチュレス・モンス(Tyles Mons, Ω=150°W, 70°S)の有るところで、雪線が70°を越えているところであり、モンスかも知れないし、ダストの活動のようでもある。10日間ほどで目立たなくなってしまった。一連の画像には北半球の高山の陰影の様子も映し出されている。
上記の極投影展開図にも見られるが、Argyre南方の南極冠周縁に二つ玉で観測されている輝部は、遅くまで融け残るところだが、8月下旬には分離して暗線(Rima Angusta)が見えるようになってきた。
南極冠の周辺部にもう一箇所、明るく目立ったところが、Solis Lの南のΩ=090°W付近に見られた。縮小しているようだが、8月末になっても明るく認められている。
次にはArsia Monsの山岳雲を取り上げる。この期間を通じて、各氏のB光画像に捉えられている。北半球にあるタルシス三山の他の高山やOlympus Monsには、この季節に山岳雲の発生はなく、ポークアウトしているのか暗斑状に写っている。Arsia Monsの山岳雲は、かなり内側から捉えられていて、ペリエ氏(CPl)の9Augustの画像での火星面の時刻は、13h50mと午後の早い時刻から明るくなっている。阿久津氏(Ak)は、UV光での画像も撮影されていて、B光より明るく写るようで、ターミネーター方向に伸び込んでいるのが捉えられている。カラーカメラでも捉えられていて、ロバート・ヘフナー氏(RHf)の 28Augustの画像(ω=158°W)に認められる。
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/200828/RHf28Aug20.png
終わりに、地形の凹凸が捉えられている画像を取り上げる。熊森氏よりの、「8月28日の画像は良く写っていて、マリネリス峡谷、アガトダエモンが谷として写ってるようなので、WinJUOPOSのシミュレーションと並べてみました。私は谷として捉えていると思っています。楽しく遊んでおります。」という便りに添えられていた画像である。
下には、吉澤康暢氏の40分インターバル撮影での、Olympus Monsの振る舞いを取り上げた。朝方の火星面から夕方にかけての自転による10°ごとの移動と共に、日照と反対側の影がだんだん濃くなって行くのが感じられると思う。他にもタルシス三山などの地形の陰影が捉えられている。
このような傾向は、2005年の同様な接近の時にも捉えられていて、当時のドン・パーカー氏(DPk)の画像にリンクを付けておく。パーカー氏はSBIGのST9XEカメラを使用しての撮影である。ToUCam全盛の時代だったことを思い出させる。詳しい情報は画像内にコメントと共にレタリングされている。B光画像には、Arsia Monsの山岳雲が見事に捉えられている。
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2005/050904/DPk04Sept05.jpg
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2005/050904/DPk04Sept05_RG.jpg
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2005/050904/DPk04Sept05_B.jpg
南氏によるCMO#309、#310 の観測レポート記事も参考にして欲しい。『火星通信』の紙面がPDFで閲覧できる。
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn2/CMO309.pdf (2005年8月後半・9月前半、270°Ls〜289°Ls)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn2/CMO310.pdf (2005年9月後半、289°Ls〜299°Ls)
この年のインデックスは、下記の第2シリーズインデックスページ(CMO#300〜)の下段にある。
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn0/hp_Indexes.htm
地形の陰影を捉えた画像は、他の各氏からも沢山寄せられている。9月に入っては、近内令一氏(Kn)などにより、さらに描写の良い画像が捉えられていて、次回のお楽しみにして欲しい。
♂・・・・・・『火星通信』に寄せられた八月中の観測は、以下のようである。
わが国からの報告は、今月より観測報告を寄せられた近内氏と吉澤氏を含めて、八名の方から215観測(追加観測2)の報告があり、天候の悪かった先月の四倍以上に達している。国外からは、アメリカ大陸方面から、ゴルチンスキー氏が29観測、グラフトン氏から20観測、ウオーカー氏からは11観測など、八名から87観測が送られてきている。ヨーロッパ側からは、報告者数が増えて、五名から29観測(追加観測2)の送付があった。ピーチ氏は詳細は不明だがイギリスでの観測に移行したようである。冬を迎えた南半球からは、南アフリカのフォスター氏から4観測。オーストラリアの、ウエズレイ氏から四月以来の2観測の報告と観測を始めた工藤氏からの報告が入った。合計して、24名からの338観測で、7月の三倍近い報告量となった。
阿久津 富夫 (Ak)
常陸太田市、茨城県
AKUTSU, Tomio (Ak) Hitach-Oota,
16 Sets of RGB +
23 IR + 10 UV Images (2, 4,~6, 11, 13, 15, 19, 29 August 2020)
45cm spec with an ASI 290MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_Ak.html
デビッド・アーディッチ (DAr) ミドルサセックス、英国
ARDITTI, David (DAr) Stag Lane, Edgware, Middx, the
5 Colour + 1 R + 6 IR Images (1, 2, 4,
7, 19, 22, 31 August 2020) 36cm SCT with a Flea 3
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_DAr.html
リチャード・ボスマン (RBs) エンスヘデー、オランダ
BOSMAN, Richard (RBs) Enschede,
The
2
Sets of RGB + 1 R Images (8, 10, 16 August 2020) 36cm SCT with a
Basler 640
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_RBs.html
マチュイ・チュピタ (MCz) シュチェチン、ポーランド
CZEPITA, Maciej (MCz)
2 Colour Images (12, 16
August 2020) 15cm speculum with a
Fujifilm JX600 camera
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_MCz.html
ビル・フラナガン (WFl) テキサス、アメリカ合衆国
FLANAGAN, William (WFl)
Houston, TX, the
9 Sets of LRGB
Images (13,~16, 19,~21, 24, 30 August 2020)
36cm SCT @f/22 with a PGR GS3-U3-32S4M-C
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_WFl.html
クライド・フォスター (CFs) センチュリオン、南アフリカ
FOSTER, Clyde (CFs) Centurion,
4 Sets of RGB
+ 4 IR Images (1, 3, 9, 15 August 2020) 36cm SCT with an ASI 290MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_CFs.html
ペーター・ゴルチンスキー (PGc) コネチカット、アメリカ合衆国
GORCZYNSKI, Peter (PGc)
Oxford, CT, The
22 Sets of RGB +
18 IR images
(1, 3, 6, 9,~11,
13,~15, 17, 19, 20, 23, 25, 26, 28, 30, 31 August 2020) 36cm SCT with an ASI 290MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_PGc.html
エド・グラフトン (EGf) テキサス、アメリカ合衆国
GRAFTON, Edward A (EGf) Houston, TX, the
20 Colour
+ 1 B Images (3*, 5, 7,~16, 18,~22, 25, 30, 31 August 2020)
36cm SCT @ f/27*, 17 with an ASI 120MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_EGf.html
ロバ−ト・ヘフナー (RHf) 大阪府、日本
HEFFNER, Robert (RHf) Osaka, JAPAN
9 Colour
+ 3 R(610nm)* + 2 G* + 2 B* Images (8, 14*, 21, 26, 28*,
30 August 2020)
28cm SCT with an ASI 224MC & 290MM *
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_RHf.html
石橋 力 (Is) 相模原市、神奈川県
ISHIBASHI, Tsutomu (Is) Sagamihara,
17 Colour + 1 B
Images (3, 5, 11, 13, 15, 19, 20, 23, 24, 27,~30 August 2020)
31cm speculum, with an ASI 290MC
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_Is.html
近内 令一 (Kn) 石川町、福島県
KONNAÏ Reiichi (Kn) Ishikawa,
9 Colour
Images (13, 19, 24, 26 August
2020) 41cm SCT with an ASI
290MC
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_Kn.html
工藤 英敏 (Kd) ケアンズ、オーストラリア
KUDOH,
Hidetoshi (Kd) Cairns,
1 Colour
Image (10 August 2020) 20cm Spec with a QHY5L-II-C
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_Kd.html
熊森 照明 (Km) 堺市、大阪府
KUMAMORI,
Teruaki (Km) Sakai, Osaka, JAPAN
34 Colour* + 22
B + 22 IR Images (1, 3, 5, 6, 9, 11, 13, 15, 16, 18,~21, 23,~26,
28, 31 August 2020)
36cm SCT @ f/37 with an ASI 290MM & ASI
224MC*
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_Km.html
フランク・メリッロ (FMl)
ニューヨーク、アメリカ合衆国
MELILLO, Frank J (FMl) Holtsville, NY, the
5 Colour
+ 5 (610nm)* Images (1, 9, 20, 25, 30 August 2020)
25cm SCT with an ASI120MC & DMK21AU618.AS*
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_FMl.html
エフライン・モラレス=リベラ (EMr) プエルト・リコ
MORALES RIVERA, Efrain (EMr)
Aguadilla,
3 Sets of RGB
+ 5 Sets IRGB + 1 IR + 1 CH4 Images (2, 7, 16, 26, 27 August 2020)
31cm SCT with an ASI 290MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_EMr.html
森田 行雄 (Mo) 廿日市市、広島県
MORITA, Yukio (Mo)
Hatsuka-ichi,
7 Sets of LRGB
Images (3, 4, 8, 29 August
2020) 36cm SCT with an ASI 290MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_Mo.html
尾崎 公一 (Oz) 稲沢市、愛知県
OZAKI, Kimikazu (Oz) Inazawa,
50 Colour images (1,
5, 9,~22, 24,~26 August 2020) 44cm
Spec with an ASI 290MC
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_Oz.html
デミアン・ピーチ (DPc) ウエスト・サセックス、英國
PEACH, Damian A (DPc)
Selsey, WS, the
11 Colour + 3 B Images
(7, 9,~12**, 16*, 20*, 27* August 2020)
76cm
Richey Chretien*, 25cm telscope**
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_DPc.html
クリストフ・ペリエ (CPl) ナント、フランス
PELLIER, Christophe (CPl) Nantes,
1 Set of RGB
+ 2 Colour + 2 B + 3 IR Images
(5, 9, August 2020)
31cm speculum with an ASI 290MM, 224MC & 183MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_CPl.html
ミカエル・ロゾリーナ (MRs) ウエスト・バージニア、アメリカ合衆国
ROSOLINA,
Michael (MRs) Friars Hill, WV, the
2 Colour Drawings
(5, 25 August 2020) 35cm SCT, 326×,
355×
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_MRs.html
ゲイリー・ウォーカー (GWk) ジョージア、アメリカ合衆国
WALKER, Gary (GWk) Macon,
GA, the USA
11 Set of RGB
Images (1, 4, 6, 8, 11, 17*, 18*,
20*, 27* August 2020)
25cm refractor, 30cm Dall-Kirkham* with an ASI 290MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_GWk.html
アンソニー・ウエズレイ (AWs) クイーンズランド、オーストラリア
WESLEY, Anthony (AWs)
2 Colour Images (29, 30 August 2020) 42cm speculum with a BELY-PGE-31S4M-C
camera
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_AWs.html
ティム・ウイルソン (TWl) モンタナ、アメリカ合衆国
WILSON, Tim (TWl) Jefferson
City, MO, the
1 RGB
+ 1 IR Images (19, 26 August 2020) 36cm SCT with an ASI290MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_TWl.html
吉澤 康暢 (Ys) 福井市、福井県
YOSHIZAWA, Yasunobu (Ys) Fukui, JAPAN
37 Colour Images
(14, 16, 18,
20, 24, 29 August 2020) 20cm
refractor* with an ASI 290MC
* Observatory of the Fukui City Museum of Natural History
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_Ys.html
♂・・・・・・ 追 加 報 告
MORITA, Yukio (Mo) Hatsuka-ichi,
2 Sets of LRGB
Images (30, 31 July 2020) 36cm SCT with an ASI 290MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_Mo.html
PEACH, Damian A (DPc)
Selsey, WS, the
2 Colour Images
(13, 23 July 2020)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_DPc.html