CMO/ISMO 2020 観測レポート#14
2020年十二月の火星観測報告
(λ=324°Ls ~λ=341°Ls)
村上 昌己
CMO
#503 (
♂・・・・・・ 今接近14回目の観測レポートを『火星通信』に報告のあった十二月の観測をもとに纏める。この期間にも火星は「うお座」にあり、足早に順行を続けて「おひつじ座」へ向かって視赤緯を上げて行き、25日には10°Nに達した。日没も早くなり、17時頃には南東の空に昇っているのが肉眼で認められた。光度はやや落ちたが、まだマイナス等級であった。わが国では冬型の気圧配置となるとシーイングは悪化するし、視直径も落ちて詳細な観測は難しくなっていった。外国からの報告数も大きく減ってしまった。
12月には、視直径(δ) は月初の14.6秒角から10.4秒角まで減少した。季節(λ) は、324°Lsから341°Lsまですすんだ。傾き(φ) は、最大に南向きになった24.5°Sから、月末の22.9°Sに少し戻ってきたが、まだ南極がこちらを向いていて、南極冠はまだ融け残りが小さく認められていた。位相角(ι) は、32°から39°台まで増加して、欠けが大きく目立ってきて、朝縁近くの高い山の陰が暗く見えるようになっている。十一月発生のダストイベントは、十二月にはバーストの発生することもなく沈静化へと向かったが、浮遊ダストはかなり拡がって、暗色模様はかなり薄くなっていると思われるが、処理画像では判断は難しい。
♂・・・・・・ 十二月の火星面の様子を以下に記述する。十一月の記述できなかったものも含まれる。使用した画像は、並べるためにサイズの調整をしてあることをお断りしておく。元画像はギャラリーを参照されたい。
1) ダスト・イベントのその後
十二月中の火星像を経度を追って並べてみた。この期間にはダストの顕著な活動は見られなかった。十一月中旬から下旬にかけてダストに隠された暗色模様も旧状に戻っているようである。最後の画像は、ダストイベント以前の、Syrtis Mjから S Meridianiの経度の画像である。Deucalionis Regioで起きたアウトバーストに隠されたS Sabaeusから S Meridiani にかけても大きな変化は見られないように思う。
2) 南半球高緯度の朝方からのびる雲帯
南半球高緯度には、朝縁から伸び込む雲帯が、十二月初めから観測されている。B光画像と並べてご覧いただく。この雲帯は様々な経度で見られて、南緯60°S付近の高緯度に出現しているようである。15 Decのピーチ(DPc)氏の画像にグリッドを重ねた画像を作って最後に示してある。
この雲帯は、同様な季節(λ)に起きた2005年のダストイベントの時にはそれほど顕著でなかった。同様のλで撮影された、2005年のフラナガン(WFl)氏の画像を並べて比較して見た。
3) 最終段階の南極冠の様子
南極冠は十二月末のλ=340°Lsになっても南への傾きがφ=23°Sと大きいこともあり、まだ認められている。視直径の小さくなってきたこともあり、形状は不安定だが南極近くに直径5°ほどで残っているようである。南半球の秋分(λ=360°Ls)は、7 February 2021 のことで、それを過ぎると陰に入って南極は見えなくなってしまう。その時には視直径はδ=7.5”と小さくなっている。傾きはφ=17.3°Sとまだ南向きである。何時まで捉えられるかだが、2018年接近の時には、確実に捉えられているのは。ルイス(MLw)氏の、2 Feb 2019 (λ=335°Ls、δ=6.1”)の画像であった。視直径的にはまだ撮影は可能である。2005年では、25 Dec 2005 (λ=346°Ls、δ=12.9”)が、画像で認められる最後とされている。
4) 北極雲の活動
季節が進んで、北極雲の活動も盛んになっているが、今接近では12月も傾き(φ)は大きく、北縁の様子はなかなか明らかにならない、M Acidaliumの北部では盛り上がって大きく見えてドーズのスリットも見えることがあるが、Utopia あたりの様子は捉えられない。12月に入っては、北縁の明るさに青味の強く出ている画像が寄せられるようになっている。
11月の阿久津(Ak)氏の画像も取り上げてある。北極雲の東端に明るさのコアが見られる。また、南半球高緯度は赤味の強い色になっている。次に取り上げるB光画像では暗く見えているところである。12月に入っても、南極周辺域のこの赤味の強い傾向は変わらない。
5) B光画像での様子
ここでは、石橋(Is)氏のB光画像を11月のダストイベント発生前から日付を追って概観する。報告画像を並べてあり、視直径の変化は反映されていない。石橋氏はカラーカムに、B390フィルターをかけて撮影した画像をグレイスケール画像にして報告されていると思われる。
ダストイベント発生前から濃淡模様がはっきり捉えられていて、ダストイベント活動中の変化(特に朝縁から)は、何を示しているのがが興味の湧くところである。活動が進むと浮遊ダストが火星大気中に拡がったためかコントラストは低下している。先に取り上げた朝縁からの雲帯の伸び込みも明るく捉えられている領域と思われ、境をなして南極側の暗く落ち込んでいる様子がわかる。12月に入っては、視直径の落ちてきたこともあり、判然としたB光画像が得られなくなってしまった。
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今回のレポートと同様の季節を観測した2005年のレポートは以下のリンクから辿れる。
「2005年十一月後半・十二月前半(16 Nov〜15 Dec )の火星面觀測」(λ=325°Ls ~341°Ls)
CMO 2005 Mars Report #13 CMO#312 (10 November 2005)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn2/CMO314.pdf
2005年の『火星通信』pdf版のインデックスは、下記の第2シリーズインデックスページ(CMO#300〜)の下段にある。
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn0/hp_Indexes.htm
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♂・・・・・・ 十二月の観測報告
『火星通信』に送られてきた十二月の観測の集計は次のようである。日本からの報告は、八名の方から139観測の報告があった。寒さが加わりシーイングの悪くなったこともあり、観測報告は減っている。国外からは、アメリカ大陸方面からは、八名から40観測(追加観測5)、ヨーロッパ側からは、カルダシス氏から2観測の報告があっただけである。南半球からは、南アフリカのフォスター氏から5観測。オーストラリアからは、工藤氏の3観測の報告が入った。合計して、19名からの286観測で、観測者・報告数共に十一月の半分を下回るように大きく減った。特にヨーロッパ側からの報告が少なく観測は繋がらなくなった。
それぞれの観測者の画像はリストのリンクから辿れる。
阿久津 富夫 (Ak) 常陸太田市、茨城県
AKUTSU, Tomio (Ak) Hitach-Ohta,
3 Sets of RGB
+ 4 IR + 3 UV Images
(9, 23, 28 December 2020)
45cm Newtonian (F/4) with an ASI 290MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_Ak.html
浅田 秀人 (Ad) 京都市、京都府
ASADA, Hideto (Ak) Kyoto,
5 Colour Images (2, 5 December 2020) 31cm Newtonian (F/6.5) with an ASI
385MC
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_Ad.html
ビル・フラナガン (WFl) テキサス、アメリカ合衆国
FLANAGAN, William (WFl) Houston, TX, the
8 Sets of LRGB
+ 8 IR Images (1, 2, 5, 8,~10, 17, 18 December 2020)
36cm SCT @f/22 with a PGR GS3-U3-32S4M-C
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_WFl.html
クライド・フォスター (CFs) センチュリオン、南アフリカ
FOSTER, Clyde (CFs) Centurion,
5 Sets of RGB
+ 5 IR Images (6, 7, 9, 11, 16 December 2020) 36cm SCT with an ASI 290MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_CFs.html
ペーター・ゴルチンスキー (PGc) コネチカット、アメリカ合衆国
GORCZYNSKI, Peter (PGc) Oxford, CT, The
8 Sets of RGB
+ 8 IR images (3, 7, 9, 11, 12, 19, 27, 28 December 2020)
36cm SCT with an ASI 290MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_PGc.html
エド・グラフトン (EGf) テキサス、アメリカ合衆国
GRAFTON, Edward A (EGf) Houston,
TX, the
1 LRGB Image
(18 December 2020) 36cm SCT @ f/17
with an ASI 290MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_EGf.html
石橋 力 (Is) 相模原市、神奈川県
ISHIBASHI, Tsutomu (Is) Sagamihara,
8 Colour + 8 B
Images (5, ~7, 17, 19, 21, ~23 December 2020)
31cm Newtonian (F/6.4) with an ASI 290MC
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_Is.html
マノス・カルダシス (MKd) アテネ、ギリシャ
KARDASIS, Manos (MKd)
2 Colour + 1 B
Images (5, 22 December 2020)
36cm SCT with an ASI 290MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_MKd.html
近内 令一 (Kn) 石川町、福島県
KONNAÏ
Reiichi (Kn) Ishikawa-chou, Fukushima, Japan
3 Colour
+ 7 IR Images (6, 22, 26 December 2020) 41cm SCT with an ASI 290MC
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_Kn.html
工藤 英敏 (Kd) ケアンズ、オーストラリア
KUDOH, Hidetoshi (Kd) Cairns,
3 Colour Images (6,
13 December 2020) 20cm Newtonian
with a QHY5L-II-C
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_Kd.html
熊森 照明 (Km) 堺市、大阪府
KUMAMORI, Teruaki (Km) Sakai,
Osaka, JAPAN
19 LRGB Colour
+ 14 B + 17 IR Images
(1, 2, 4, 5, 8, 9, 11,13, 15, 19, 20, 21, 22, 25, 26, 28, 29, 31
December 2020)
36cm SCT @ f/37 with an ASI 290MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_Km.html
フランク・メリッロ (FMl) ニューヨーク、アメリカ合衆国
MELILLO, Frank J (FMl) Holtsville, NY, the
3 Colour
Images (8, 11,
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_FMl.html
エフライン・モラレス=リベラ (EMr) プエルト・リコ
MORALES RIVERA, Efrain (EMr)
Aguadilla,
3 RGB Colour
+ 5 IR-GB Colour Images (3, 9, 11, 13, 14, 21, 26, 30
December 2020)
31cm SCT with an ASI 290MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_EMr.html
中村 健三 (Nk) 諏訪市、長野県
NAKAMURA Kenzo (Nk) Suwa,
7 LRGB Colour
images (5, 9, 19, 22 December 2020)
20cm SCT
@f/53
with an ASI 290MM & ASI 462MC
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_Nk.html
尾崎 公一 (Oz) 稲沢市、愛知県
OZAKI, Kimikazu (Oz) Inazawa,
59
Colour images (1,~6, 8,~10, 12, 14, 19,
20, 23, 28 December 2020) 44cm
reflector with an ASI 290MC
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_Oz.html
デミアン・ピーチ (DPc)
ウエスト・サセックス、英國 (チリスコープ遠隔操作)
PEACH, Damian A (DPc) Selsey, WS, the UK (remote controlled the
Chilescope in CHILE)
1 Colour Image
(15 December 2020) Chilescope
:100cm Richey Chretien
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_DPc.html
シャルレス・トリアーナ (CTr) ボゴタ、コロンビア
TRIANA, Charles (CTr) Bogota, COLOMBIA
1 RGB Colour Image
(13 December 2020) 25cm SCT @f/27
with an ASI 290MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_CTr.html
ゲイリー・ウォーカー (GWk) ジョージア、アメリカ合衆国
WALKER, Gary (GWk)
Macon, GA, the USA
5 Sets of RGB
Images (3, 10, 11, 19, 26 December 2020)
25cm Mak-Cassegrain (F/20) with an ASI 290MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_GWk.html
吉澤 康暢 (Ys) 福井市、福井県 (福井市自然史博物館天文台)
YOSHIZAWA,
Yasunobu (Ys) Fukui,
Fukui, JAPAN
20 Colour Images
(1, 2, 4, 6 December 2020) 20cm
refractor* with an ASI 290MC
(*Observatory of the Fukui City Museum of Natural History)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_Ys.html
♂・・・・・・ 追加報告
デミアン・ピーチ (DPc) ウエスト・サセックス、英國 (チリスコープ遠隔操作)
PEACH, Damian A (DPc) Selsey, WS, the UK (remote
controlled the Chilescope Team in CHILE*)
4 Colour
Images (4, 5, 10, 11 November 2020) 100cm Richey Chretien*
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_DPc.html
シャルレス・トリアーナ (CTr) ボゴタ、コロンビア
TRIANA, Charles (CTr) Bogota, COLOMBIA
1 IR・LRGB Colour Image (30
November 2020) 25cm SCT @f/27
with an ASI 290MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_CTr.html