Forthcoming 2022-23 Mars (1)

2022-2023年 中接近の火星

CMO #512 (10 February 2022)

村上昌己


今年は火星接近の年にあたる。メ−ウスの接近表によると、最接近は121 02:18 TD のことで、0.544天文単位 (8145km)の接近距離で、視直径は17.19秒角に達する中接近となる。「対衝」は最接近後の128日の05:36 TDのこととなる。ここでは、視直径が4秒角を下回るようになる20237月までの、年をまたいでの、今回の火星の接近を概観することとする。

今回の接近期は下図のように、おうし座で逆S字を描いての動きとなり、赤緯も25゚Nを越えるところまで上がり、北半球では観測条件の良い接近となる。視直径が15秒角を越えているのは、1031日から1229日の間のことで、最接近を挟んで逆行をしている期間となる。

 


 

 

次に、今接近を通しての星座間の動きを示す。

 


 

年初には、朝方の空の「さそり座」でアンタレスに並んで赤味を競っていたが、1月下旬には「いて座」に入って、26日には、M20 (三裂星雲)M8 (干潟星雲)の間を通過して、26日にはM22 (球状星団)のそばを通った。36日にはM75 (球状星団) に近づき、そばには金星も明るく輝いている。

3月下旬までは、「やぎ座」で土星を加えた三惑星が接近して朝方の空に目立っていて、土星とは45日に19’ まで接近する。5月には「みずがめ座」から「うお座」に入り、海王星(18日、34’)・木星(29日、38’)と次々と接近して追い越してゆく。

 


 

6月には「うお座」を進み、「出」も夜半後と早くなり、視直径も6秒角を越えて赤緯も北側になり安定したシーイングの時には撮影には十分な大きさになってくる。季節もλ=240°Lsを過ぎて、融解の進む南極冠が偏心する時期に当たる。中央緯度の傾きも南に大きく南極冠の観察には最適である。

7月には「おひつじ座」へ入り、夜半前には出てくるようになり、夜の短い季節だが観測時間も長く取れるようになる。

721日から22日かけては「火星食」が起きる。月齢22.5の下弦の月に隠される現象だが、月の出の時刻には隠されていて、暗縁からの出現が観測できるだけである。出現時の東京での地平高度はと低く、東の開けたところでなければ観測は難しい。下記のIOTAURLから詳しい情報を得ることが出来る。

http://www.lunar-occultations.com/iota/planets/0721mars.htm

 

8月にはいると、視直径は8秒角を越えて眼視観測でも十分な大きさになってくる。上旬には「おうし座」に入って1日には天王星に近づく。20日頃にはプレアデス星団の南を通過して接近期の始まりとなる。

 

9月には、始めに取り上げた接近期の星座間の動きの図のように、ヒアデス星団の北でマイナス等級に明るくなって夜半過ぎの東の空にアルデバランと並んで光っている。1017日にはM1「かに星雲」の北を通過して行き、30(JST)に「留」となり、「最接近」と「対衝」をはさんで逆行を続ける。この期間の128日には、北米大陸からヨーロッパにかけて「火星食」が見られる。「対衝」の日に満月に隠されるという珍しさで、多くの画像が撮影されることと思われる。下記URLも参照されたい。

http://www.lunar-occultations.com/iota/planets/1208mars.htm

 

年が明けた2023113(JST)には「留」となり順行に戻る。年初の火星は、南半球の秋分過ぎのλ=003°Ls、視直径は14.7秒角とまだ十分な大きさを保っている。2月・3月と「おうし座」で順行を続けて、夕方の南の空に高く輝いているが、3月始めには視直径も8秒角を下回るようになり観測期も終盤となる。3月末には「ふたご座」へ入り、330日に散開星団M35の北を通過する。5月半ばには「かに座」へすすんで、62日には夕方の西空でプレセペ星団M44の中を通過する。そばには宵の明星の金星も光っている。この頃には視直径は4秒角台となり観測期も終わろうとしている。6月下旬には「しし座」へと順行を続けて、710日におきるレグルスとの接近を見て、今接近の火星は見納めになることと思う。

 

 

 

次には、軌道図を示して、この期間の地球と火星の位置関係をご覧いただく。視直径(δ)5秒角を越えるのは、20223月始めより、20235月過ぎまでの14ヶ月間にあたる。火星の季節を表すLs(λ)は、南半球の春分にあたるλ=180°Lsから、初冬のλ=060°Lsまでが今回の観測期間に対応している。

最接近はλ=347°Lsで南半球の秋分前の時である。

 


 

太陽(S)、地球(E)、火星(M)として、S-E-Mが離角(Elongation)で、E-M-Sが位相角(Phase Angle)となる。「対衝」の時には、離角は180°、位相角は最小になる。

 

次の図は、今回の接近の視直径(δ)の変化と中央緯度(φ)Ls(λ)を横軸にして示したグラフである。視直径のグラフは、前二回の接近時の変化も示した。また似たような接近であった2007年の視直径の変化も重ねてある。上段のカレンダーは今接近のものである。

 


 

前二回の接近に比べて、視直径(δ)20秒角以下にしかならないが、今回の接近ではλ=320°Ls以後は前回より大きな視直径で観測の出来ることが読み取れると思う。火星の観測は接近毎にずれてゆく季節(λ)を追っての観測であり、以前と同じ様な視直径の大きさで、季節の同じ火星面を観測できるには15年から17年の年月が必要になる。

中央緯度(φ)の変化は、接近前半は南向きで、視直径14秒角を越えると一時北側になるが、また南向きに戻ってゆく、視直径の大きな期間はやや南向きだが傾きは小さく、ほぼ正面から火星面を見ることになる。その後に中央緯度が北向きに変わるのは、20233月以降のことになる。これからの接近は北半球の高緯度が視直径の大きな内に観測できる様な北半球の季節に変わってゆく。

今回の接近では、南極冠の縮小がまだ追跡できる機会だが、南半球高緯度が詳しく観測できるのは、前半の視直径の小さな期間となり前回までとは違い詳しい状況を観測できるのは難しくなるだろう。とはいえ、南極冠の最終状況は前接近ではλ=345°Ls δ=5.5”まで追跡されていて、今接近では最接近時の視直径の大きな時期に当たる。中央緯度の傾きも南よりであることから、南極冠の最終段階のようすが捉えられることが期待できる。南半球の秋分(λ=360°Ls)を過ぎると南極は影の中に入ってしまい見えなくなってしまう。似たような接近の2007年の時には、秋分の前から中央緯度は北向きで南極点は見えていなかった。

 

今後も折に触れて観測のポイントを示してゆくが、似たような2007/08年接近の時の過去の記事は以下のリンクから参照できる。

 

観測のポイントは、Forthcoming 2007/08 Mars

https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn2/2007Coming_index.htm

観測結果の解析は、2007/08 CMO Note index

https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/2007NoteIndex.htm

 

 

 

また、今接近での「ピカリ現象」の予想だが、1月始めにシーハン氏からのお知らせがあり、ドッビンズ氏と連名で、12月の最接近の視直径の大きなころに、日本からの経度でEdom(エドム)あたりで見える可能性が指摘された。(英文LtE参照)

 


 

https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/ISMO_LtE2022_01.htm

 

今回の接近で、De (SubEarth Latitude)=Ds (SubSolar Latitude)となる時を、以下のNASA JPLSSD Horizons Systemで調べてみると、次の3回の機会があることが判明した。 

https://ssd.jpl.nasa.gov/horizons/app.html#/

 

1) 14 June 2022 De=Ds= 23.2°S  δ= 6.8”

2) 05 Dec. 2022   De=Ds= 4.6°S  δ= 17.1”

3) 27 July 2023  De=Ds= 25.3°N  δ= 4.0”

 

1 )の機会は、観測時間は夏至近くの早朝で、中央緯度(φ=De)は南に大きく、Solis L辺りでの現象が期待できるが、14 June, 03h00m(JST)で、中央経度(ω)は、ω=311°Wで、Edomは見えているが、Solis L辺りは見えていない。地平高度もAlt.=25°と低い。すぐに夜明けとなってしまう。

 

3 )の機会は、観測末期で視直径も小さく、確認は難しいであろう。日没直後の高度はAlt.=21°にすぎない。

 

2 )の機会は、指摘されているように絶好の機会であることは右の図を見れば明らかだと判る。

 12520(JST)の火星面の様子でエドムが正面に来ている。地平高度もAlt.=40°に達していて、これから昇ってゆく途中である。

12月上旬で寒気の影響の出る始まりとなるが、前後の数日は、夕方から長い時間の監視が可能である。  

あらためて、これまでにエドムで「ピカリ現象」が確認された状況を勘案して、観測計画を作りたいと思っている。


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