Ten Years Ago (198)

 

----CMO #252 (25 October 2001) pp3143~3158   ----

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn2/cmo252/index.htm

 


 

2001年九月後半と十月前半の観測をまとめた観測レポートは今期16回目となった。黄雲発生から四ヶ月目となっていたが、まだ暗色模様は朧気にとらえられるだけで、地表に降りたダストで砂被りになっているものと考えられた、大気中の浮遊ダストは少なくなっている様だが、局所的な黄塵はまだ発生している模様であった。

 火星は「いて座」にあり少しずつ赤緯をあげていた。「東矩」前で日没頃には南中するようになっていて、観測期後半の夜半前の観測対象だった。

 この期間に季節λ234°Lsから253°Lsに進んだ。視直径δ10秒角を下回り、中央緯度φ2°Sから10°Sまで南向きが大きくなった。位相角ιも最大の46°台を保ち大きく欠けていた。

 観測報告者は、外国から6名・40観測、国内からは7名・240観測であり、報告者は減っているが、日本の観測者は観測数をのばしている。森田(Mo)氏が赤道儀のトラブルで残念ながら観測出来なかった。

 

 黄雲・黄塵の様子は、地域別に取り上げられている。列挙すると、黄塵に覆われたオリュムプス・モンスは引き続き上部が暗点として認められている。ソリス・ラクス領域では黄塵の明帯がまだ見られていた。周囲に暗部が見えるときもあるが、ソリス・ラクス本体はまだ回復していなかった。 シヌス・サバエウスは東半分だけが見えている奇形で、続くシヌス・メリディアニ辺りも朧気に見えているだけであった。マレ・キムメリウム付近は正常に戻っているように各観測者の報告で判断できた。南半球の大陸の明部でもマレ・クロニウムが現れて濃淡が付き始めている。ヘッラスなどは小黄塵の発生場所であるが、日々の微妙な動きは視直径が落ちてきたこともあり追跡は難しくなっていた。

 南極冠は傾きが南向きになったこともあり、小さいながらもはっきり捉えられるようになり、次第に丸みが感じられるようになっていた。ノウゥス・モンスが南極冠から分離を始める季節となって、国内の観測者には観測依頼が出されたが、はっきり捉えることはかなわなかった。

 そのほか、モンス・アルゲンテウスかもしれない明部、デルトトン・シヌス、マレ・テュッレヌムの様子など、いくつかの興味を引かれる観測が紹介されている。追加報告の解説も載せられた。

 また、ハッブルスペーステレスコープ(HST), マーズグローバルサーベイヤー(MGS) の画像が十月11日に発表されたことが伝えられている。モザイクMOC (Mars Orbiter Camera) 画像が並べられて成果が強調されているが、午後二時の画像の張り合わせでは、朝の黄雲発生時の現象は捉えられていないと批判している。黄雲発生初期のTES (Thermal Emission Spectrometer ) の結果は興味深いとして紹介されている。

   http://hubblesite.org/newscenter/archive/releases/solar-system/mars/2001/31/

  HST

   http://www.msss.com/mars_images/moc/10_11_01_dust_storm

  MGS/MOC

   http://tes.asu.edu/

    MGC/TES

 

 LtEには外国より、Ed GRAFTON (TX, the USA), Don PARKER (FL, the USA), Frank J MELILLO (NY, the USA), Sam WHITBY (VA, the USA), Maurice VALIMBERTI (Australia), Giovanni A QUARRA (Italy), Phil DOMBROWSKI (CT, the USA)、日本からは、熊森照明(大阪)、森田行雄(広島)、伊舎堂弘(沖縄)の各氏から寄せられたお便りが紹介されている。

 

  「アンタレス研究所訪問」11回目は、常間地(Ts)さんによる「ものを写すこと」である。この回では表意文字である漢字の研究で名高い白川静氏の研究姿勢を取り上げた。白川氏は、膨大な古い漢字の資料をノートに手書きで写すことで、漢字の表している象形や成り立ちを研究し、従来の説と違う新しい解釈が得られて、漢字の理解を深くしたという。彼の「手を通じて記憶を確かめ、自分の中でそれを再組織する」という作業は、火星の眼視スケッチ観測にも大いに繋がるものがあるように思える。

 http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn0/Ant011.htm

 

 Ten Years Ago (74) では、CMO#110 (25 October 1991) を取り上げている。20年前の火星は「合」間近で観測期ではなく、次回接近の観測指針の「1992/93年の火星」シリーズが始まっている。表紙には最接近になる1993年年初の点描画入りグリッド図が大きく掲げられた。この接近は小接近ながら、春分頃の北半球の観測に良い機会の接近であった。

                         http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/252/tya074.html

 

                                 村上 昌己 (Mk)   


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