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(1) 1999年の火星

1月29日に夏至を迎えた火星はどんどん地球に近づき、 5月2日、地球に最接近しました。今年の火星は2年前と同様に 太陽から遠く離れていましたので、太陽から受けるエネルギーの 少ない時期でした。しかし、火星の北半球では夏で、雲の観測好機でした。 ここでいう雲とは水の氷粒からなる雲のことです。火星北半球の夏季には 中低緯度地方に朝雲や夕雲が見られます。 それらは火星の朝方と夕方の地域を広範囲に覆います。 文字通り朝雲は時間と共に明るさが減少し、日中には消えてしまいます。 しかし、夏至前後の朝雲は日中になっても消えずに残ります。 そして太陽が西に傾く15時頃から再び明るさを増し、夕雲へと変わっていきます。 それゆえ低緯度地方は雲の帯で取り巻かれます。 この雲帯は晩春から初夏にかけて見られます。

もう少し注意してこの雲帯を眺めますと、朝夕の地域では南北の幅が 広くなっています。正午付近の地域では幅が狭くなり、明るさも 減少しています。院生の中串孝志さんは大シルティス地方の雲帯を精力的に調べ、 正午付近では、暗い地域(大シルティス)はその両隣の明るい地域より雲が薄く なっていることを突きとめました。 そしてそれがブルークリアリング現象の大きな原因になっている事を見出しました。 ブルークリアリングは、写真観測が可能となり、青色光でも火星観測が できるようになった20世紀はじめからの謎でした。それに関する論文は きわめて少ないですし、理論も曖昧です。1997年、ツーソンで行われた火星 大気現象のワークショップで、「ブルークリアリングとは何か」という 問題提起がありましたが、それには誰も答えられませんでした。 中串さんはあえてその難問に挑戦し、ブルークリアリング解明の 糸口を作りました。それは特筆すべき発見です。



火星北半球中低緯度帯のタルシスとエリシュームには周囲からの 高さが20000m以上の巨大な山がいくつかあります。その地方が午後になると 山に明るい雲が見られます。それは昼雲と呼ばれています。昼雲は早春から 盛夏まで見られるのですが、最盛期は、朝雲や夕雲と同じく、晩春から初夏に かけてです。昼雲は朝雲が衰える正午頃から目立ち始め、夕方の縁に近づく まで明るさを増していきます。夕雲より明るい場合が多いですから、夕雲に 囲まれても見分けることができます。朝雲、夕雲、昼雲は毎日同じ場所に 発生し、規則的な日変化を何ヶ月にもわたって繰り返しています。

図はエリシューム地方の様子を示しています(4月25日撮影)。 右側の写真は青フィルターをかけて撮影したもので、雲が明るく写っています。 中央付近の明るい斑点はエリシューム山にかかる昼雲です。そこから左のほう に明るい雲帯が見られます。左側の写真は赤フィルターをかけて 撮影したもので、地面の模様が写っています。いづれも上が北です。

(赤羽 徳英 記)


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