Ten Years Ago (220)

 ---- CMO #276 (10 August 2003), CMO #277 (25 August 2003) ----

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn3/cmo276/index.htm

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn3/cmo277/index.htm


 

今回も前回同様にCMO#276 (10 August 2003)CMO#277 (25 August 2003)の二号の紹介となる。

 

じめにCMO#276 (10 August 2003)では、観測レポートとGreat 2003 Mars coming (12), そしてLtEが取り上げられている。

 

 観測レポート2003 Great Mars CMO Report 11回目で七月後半の観測がレヴューされている。火星は「みずがめ座」にあって順行中で、赤緯は13°Sほどであった。季節λ222°Lsから232°Lsに移り、視直径δ19.2"から22.2"へ増加して最接近直前の様子となった。中央緯度φ21°Sから少し減って20°Sとなった。位相角ι32°から24°へと欠けが小さくなっている。観測時間は夜半から朝方にかけての時間帯であった。

 観測報告者は50(403観測)をかぞえた。日本からは7名(179観測)、北アメリカ18(89観測)、ヨーロッパ19(111観測)、アジア・オセアニア6名(24観測)であった。報告数は南政次(Mn)氏が三ケタで突出しているが、浅田正(As)氏、熊森照明(Km)氏、ドン・パーカー(DPk) シルヴィ・コヴォッリク(SKw)氏、クリストフ・ペリエ(CPl)氏などが多くの観測をこなしている。新人も多く、撮影機材は23名がToUcamを使用していて、後処理の技術的な問題は多いが惑星CCD撮像が手軽に出来るようになってきた時期であった。

 レビューは日付を追って対象別に解説があり、ダスティなアルギュレ、ヘッラスの朝方での様子、 29 July (λ=231°Ls)のクリュセ-エオス黄塵(八月に入ってからも観測された)。そのほか、25 Jul (λ=228°Ls)からはイシディス・プラニティアに、六月に見られたものに似ている黄塵と見られる明るさが捉えられている。南極冠と周辺の様子は細かい観察があり、パルワ・デプレッシオの拡大、テュレス・モンスとテュレス・コリスの輝点、南極冠の偏芯の様子、ノウゥス・モンス、アルゲンテウス・モンス、外への吹き出し、などが取り上げられ、南極冠の明るい縁についての理解として、南半球の春分以降は南極冠中央の方が溶解が速く進み、縁においてもCO2の昇華は進み、凍り附いたH2Oは露呈するようになり、南極冠周縁の輝きは増すであろうとして、ヴァイキングのIRTM(赤外温度Mapper)の図もあげて見解を述べている。次いでソリス・ラクス周辺の詳細をとりあげ、29 JulyMn氏が体験したクラリタスの明滅の様子も披露されている。他にも、トリナクリア、 オリュムプス・モンスの陰、アルシア白雲、クレータの同定などが詳説されている。

 文末には、アメリカで見られた火星掩蔽の時の、フロリダでのグレージング観測の様子と、8月初めに予想されたソリス・ラクス周辺のピカリ現象の予告がある。また、Mn氏の那覇での観測状況が屋上からのパノラマ写真と共に掲載されている。

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn3/276OAAj/index.htm  

 

Great 2003 Mars Coming (12)は、「2003年の火星観測暦表 (その四)」が西田昭徳(Ns)氏により草されて、2003年九月1日から十月31日までの物理表が提供されている。

   http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmohk/coming2003/12j.html   

 

LtEには25 July から 9 August の期間に寄せられた、外国から46名、国内からは11名の来信が紹介されている。

Barry ADCOCK (Australia), Paolo BALDONI (Italy), John BARNETT (VA, the USA), Don BATES (TX, the USA),  Jeffrey BEISH (FL, the USA), Stefan BUDA (Australia), Bob BUNGE (MD, the USA), Andrew CHAIKIN (MA, the USA), Brian COLVILLE (Canada), Jamie COOPER (the UK), Daniel CRUSSAIRE (France), Tom DOBBINS (OH, the USA), Mario FRASSATI (Italy), Camilo FUMEGA (Spain), Bernd GAEHRKEN (Germany), Ed GRAFTON (TX, the USA), Alan HEATH  (the UK), Carlos HERNANDEZ (FL, the USA),  Zlatko KOVACEVIC (Croatia), Silvia KOWOLLIK (Germany), Paolo LAZZAROTTI (Italy), Joachim LORENZ (Germany), Richard McKIM (the UK), Frank MELILLO (NY, the USA), David MOORE (AZ, the USA), André NIKOLAI (Germany), Ben PACE (Australia), Don PARKER (FL, the USA), Tim PARKER (JPL/CIT, CA, the USA), Damian PEACH (the UK), Christophe PELLIER (France), Eric ROEL (Mexico), Jesús SANCHEZ (Spain), Stefan SEIP (Germany), Bill SHEEHAN (MN, the USA), Clay SHERROD (AR, the USA), Robert SCHULZ (Austria), Elisabeth SIEGEL (Denmark), Jose SURO  (FL, theUSA), Maurice VALIMBERTI (Australia), Erwin Van Der VELDEN† (Australia), Step WALLER (TX, the USA), Sam WHITBY (VA, the USA), Marcus WIENECKE (Germany), Tom WILLIAMSON (NM, the USA), Ferruccio ZANOTTI (Italy)の外国の各氏と、阿久津富夫(栃木)、浅田 正(福岡)、日岐敏明(長野)、伊舎堂弘(沖縄)、石橋 (神奈川)、岩崎 (北九州)、熊森照明(大阪)、森田行雄(広島)、岡野邦彦(東京)、長 兼弘 (石川)、湧川哲雄(沖縄)の国内の各氏である。

 

 

いでCMO#277 (25 August 2003)は、レポート、Great 2003 Mars Coming (13)LtETYA(96)の構成である。

 レポートは2003 Great Mars CMO Report (12) で八月上半期の観測がまとめられている。火星は「みずがめ座」で七月30日に「留」となり逆行に移っている。いよいよ接近間近となって、視直径(δ)1日のδ=22.4"から15日にはδ=24.4"まで大きくなって八月末の最大視直径に近くなってきた。季節(λ)λ=232°Lsから242°Lsまで推移し、南極冠の偏極の観測された珍しい時期であった。Novus Monsの分離の季節でもある。中央緯度(φ)20°Sないし19°Sで、位相角ι23°から13°へと減って丸みが付いてきた。

 観測報告者は70(532観測)にまで増加して、内訳は国内15(258観測)、北米19(82観測)、ヨーロッパ30(170観測)、アジア・オセアニア6(22観測) となっている。ALPOの集会などドッビンズ氏に招かれてアメリカ国内やアジアの観測者の欠測があり残念なことであった。国内では八月初めに梅雨明けとなったが、観測はまだ低調である。沖縄では台風10号接近で欠測日が出ている。観測数はMn(86観測) が頭抜けているが、阿久津富夫氏(21観測)、淺田 正氏(14観測)、岩崎 徹氏(22観測)、シルヴィ・コヴォッリクさん(59観測)、熊森 照明氏(19観測) クリストフ・ペリエ氏(14観測)、クレイ・シャロド氏(23観測)、常間地 ひとみさん(34観測)などが観測数が多い。岩崎氏、常間地さんは沖縄でMn氏との合同観測を行った。筆者(Mk)もピカリ観測の時などを含めて(19観測)であった。

 

 記事には、黄色みがかって暗色模様が淡く見えている火星面の状況が前置きとして語られている。次いで「カプリ・コルヌ黄塵」と題され、先月末にクリュセ-エオス黄塵として取り上げられた擾乱のその後の様子が述べられている。 2 Aug (λ=233°Ls)にはエオスの南西側のカプリ・コルヌに黄塵が顕著になり、アメリカからアジアにかけての観測で捉えられている。その後も活動は沈静化しながらも日本からの観測に期間末まで捉えられていて、日を追っての状況が記述されている。

 「南極冠とその周邊」は詳説されていて、分離していると思われるノウゥス・モンス、周邊部の輝點としてアルゲンテウス・モンスやテュレス・モンスのようすがある。南極冠の偏芯に関しては、溶解が速くなっているところは輝度を落として黄土色になり、経度によっては片側半分が薄暗くなっているのが各観測者により捉えられている。南極冠内のパルワ・デプレッシオや周辺からの吹き出しまたはカスケードに関しての見解もある。

他には、ワイン色の地肌が見えるところ、ヘッラスと周辺の様子、1988年の様子と相当違うトリナクリアの様子、 マレ・キムメリウム、アエテリアの暗斑など視直径が大きくなって詳細が見え始めて以前との違いに気付かれたところの指摘がある。

 ピカリ現象に関しては、De=Ds=20.1°Sになるときが八月初めにあり、その値からソリス・ラクス付近での可能性が予報され集中観測態勢が計画された。国立天文台との連携観測は不調に終わり、沖縄那覇での観測チームと、筆者(Mk)と母校の天文台で高校生現役を含めたOBチームの二つが30 Julyから3 Augの連日、ビデオ記録と眼視観測の両方で監視を続けた。結果は両所共に天候の不調のこともあり閃光を捉えられた観測はなかった。相模原の石橋(Is)氏も単独で2 Augから4 Augにかけての連夜にビデオ観測をしたが捉えられていない。その後には、兵庫県武庫川の松本達二郎氏が15 Augに双眼眼視装置を使っての観測でシュルティス・マイヨル南西の附け根、ホイヘンス・クレーターのあたりに、ごく小さい明るい白斑があるのに気付いた観測の紹介記事が続いている。文末には、この期間の那覇での観測の様子がつづられている。

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn3/277OAAj/index.htm

 

Great 2003 Mars Coming (13) は、「2003年の火星の見掛けの大きさと経緯度、位相の変化 (その3)」で、西田昭徳氏の作図により、衝前の八月初めから十一月初めまでの経緯度図が掲載されている。

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmohk/coming2003/13j.html   

 

LtE には10 August から 24 August 2003 の来信が集められ、John BARNETT, Don BATES, Nicolas BIVER (France), Jeff BEISH, Raphael BENAVIDES (Spain), Angel CAPARRÓS (Spain), Rolando CHAVEZ  (GA, the USA), Brian COLVILLE, Daniel CRUSSAIRE (France), Mario FRASSATI (Italy), Ed GRAFTON, George HALL (TX, the USA), Harold HILL (the UK), Michael KARRER (Austria), Silvia KOWOLLIK, Paolo LAZZAROTTI, Canon LAU ( 佳能, Hong Kong), Patrick LAU ( 啓業, Hong Kong), Frank MELILLO, Jim MELKA (MO, the USA), David MOORE, Eric NG ( 偉堅, Hon Kong), Don PARKER, Christophe PELLIER, Gianni QUARRA (Italy), Jesús SANCHEZ, Clay SHERROD, Jürgen STÖGER (Austria). Jose SURO, TAN Wei-Leong ( 韋龍, Singapore), Randy TATUM  (VA, the USA), Dan TROIANI  (IL, the USA), Maurice VALIMBERTI,  John WARELL  (LPL, AZ, the USA), Sam WHITBY, Tom WILLIAMSON, Ferruccio ZANOTTI の外国からの46名と、国内からは、阿久津、浅田、伊舎堂、石橋、岩崎、熊森、宮崎 (沖縄)、森田、岡野、湧川の各氏10名のものがある。 

 

 TYA#9620年前のCMO#136 (25 August 1993)の内容が日岐敏明氏から紹介されている。観測シーズンオフの事もあって、LtEが巻頭にあり、OAA Mars Section では1993観測期の国内20名の観測者のリストを取り上げて、観測数・使用機材などを紹介している。Mn氏の夜毎餘言(XXXVII)は「アルカディアのアマテラス」と題して、神話におけるデメテルとアマテラスの類似性を紹介している。神話に取り上げられる地名などは火星の地名として用いられることが多く、由緒を知っておくのも火星観測者の教養でも愉しみでもある。Webでは「ずれずれ艸 その十七」に収められている。

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn3/278tya96.htm 

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn0/Zure17.htm   ずれずれ艸 その十七

 

村上 昌己 (Mk)


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