CMO/ISMO 2016 観測レポート#21

2017年三月のISMO火星観測 (λ=325°~342°Ls)

南 政 次・村上 昌己

CMO #461 (25 April 2017)


・・・・・・三月には視直径は4秒角台で推移して観測最終盤となった。夕方の西空にあって、「うお座」から「おひつじ座」へと進み、視赤緯 D 9°Nから16°Nと上がってきたが、暮れるのが遅くなって観測時間は短く、報告数も減って現象の追跡は難しくなった。視直径はδ=4.6"から4.2"となり、位相角はι=27°から22°と変化した。季節はλ=325°Ls~λ=342°Lsと進んで、北極雲の活動期となっていたが、傾きがφ=23°Sから17°Sと南向きでなかなか捉え難かった。

 MRO MARCIの画像では、先月下旬の活動で南半球に拡がった黄塵は落ち着いてきたが、5(λ=328°Ls)になるとマルガリティフェル・シヌスあたりが黄塵に覆われていて見えなくなっていた。この頃はISMOの観測が揃わないが、以下に見るように11Marchにマルガリティフェル・シヌス邊りの模様が黄塵で覆われている奇妙な姿を森田行雄氏が巧くキャッチした。シヌス・メリディアニの西半分も黄塵で覆われているのがMo氏の像でも察知できる。δ=4.5"でも機会があれば黄塵活動は捕捉できるということである。MRO-MARCIに據れば、その後、黄塵の活動域は南側に拡がっていたが、15日を過ぎると拡散していったと思われる。他にもマレ・アキダリウム付近等で黄塵活動が見られたが継続するものはなかった。

 この期間には北半球高緯度に雲帯が現れるようになり、だんだん顕著になっていった。マレ・アキダリウム北部からテムペあたりにかけては雲帯が明るくなるときがあった。以下で見るようにマーチン・ルイス氏の像にはそれが窺える。

 

なお、2005年接近が同様な状況の季節で視直径の大きな期間にあたり、ギャラリーで当時の画像を見ることが出来る。また、下記の記事が参考になる。

 2005 CMO/ISMO ギャラリー

 http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2005/f_image.html

「北極域の重要觀測期間(ドーズの1864年の觀測に寄せて)」CMO #305 (25 May 2005)

 http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn2/2005Coming_9j.htm

「北半球の季節」CMO #327 (25 January 2007)

 http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn2/2007Coming_3j.htm

 

 

・・・・・・この期間には、4名の報告者から3月中の観測11件の報告があった。国内からは13観測、アメリカ大陸側から26観測、ヨーロッバから12観測の内訳である。また、森田氏からは20166月の撮影の3件の追加報告があった。

 

    マーチン・ルウィス (MLw) セント・アルバンス、英国

      2 Colour Images (15, 24 March 2017)  45cm Spec with an ASI224MC

    フランク・メリッロ (FMl) ニューヨーク、アメリカ合衆国

      5 IR Images (5, 12, 19, 21*, 23* March 2017) 

25cm SCT with a DMK21AU618.AS & DBK21AU618.AS*

    エフライン・モラレス=リベラ (EMr) プエルト・リコ

      1 IR Image (2 March February 2017)  31cm SCT with an ASI290MM

    森田 行雄 (Mo) 廿日市市、広島県

      3 Sets of LRGB Images (4, 11, 19 March 2016)  36cm SCT with a Flea 3

 

 

・・・・・・観測数は少なくなったが、三月に記録された観測を時系列でレヴューする。δ4.6"から4.3"に過ぎないが、案外と要点を押さえている。

 

2 March 2017 (λ=326°Ls~327°Ls, δ=4.6", φ=23°S, ι=27°)

        Efrain MORALES (EMr)氏は31cm SCTASI 290Mを搭載してω=297°W IR685赤外像を得た。シュルティス・マイヨルが中央北側にあって濃く、その南部は少し淡く見える。マレ・テュッレヌムも適度な濃度を見せているが、マレ・キムメリウムは分離しない。ヘッラスは南部北部共に稍明るく、その東のアウソニアも明るいと思う。マレ・セルペンティスは可成り濃いと思う。ヘッラスの南外側には暗部があるが、残留南極冠は捉えられていない。

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2016/170302/EMr02Mar17.jpg

 

 

4 March 2017 (λ=327°Ls~328°Ls,   δ=4.6", φ=22°S)

       Yukio MORITA (Mo) 氏は36cm SCT Flea 3を使ってω=097°Wで、LRGB像とRGB像を得た。R像にはアウロラエ・シヌス近くから南に暗部が擴がっているが、ソリス・ラクスの形や更にその南方の暗色模様については確固とした内容がない。RGBなどカラーでも暗色模様はそのまま殘っているが火星の模様らしくない。

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2016/170304/Mo04Mar17.jpg

 

 

5 March 2017 (λ=328°Ls,   δ=4.6"~4.5")

     Frank MELILLO (FMl)氏は 25cmSCTDMK21AU618.ASを搭載しIR610畫像をω=274°W得る。 δ=4.5"ながらシュルティス・マイヨル、マレ・テュッレヌム邊りはリアリスティックな描冩。ヘッラスは少し抜けていて、マレ・ハドリアクムが南に延びている。東北部のリム領域は明るい。

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2016/170305/FMl05Mar17.jpg

 

 

11 March 2017 (λ=331°Ls~332°Ls,   δ=4.5"~4.4", φ=21°S)

     Mo氏がω=024°Wで、LRGB,RGB像などを得た。 LRGB像がよりシッカリしていると思うが、先ずシヌス・サバエウスの邊りに濃い筋が見え、しかし、シヌス・メリディアニは顕著ではなく、それに續くマルガリティフェル・シヌスの邊りは異様で暗色模様が反転して見え、寧ろ朝方のアウロラエ・シヌス近くに濃い部分が出ているので、マルガリティフェル・シヌスの邊りには黄塵が出ていると察せられる。


Images credit: NASA/JPL-Caltech/MSSS

MRO MARCI Reportによると、11Marchにはマルガリティフェル・シヌスのところに幅広く黄塵が南北に流れて居るのが 見える。序でに言えばシヌス・メリディアニの西半分も黄塵の下であり、Mo氏の像と符合する。なお、前後をMRO-MARCIで見るとマルガリティフェル・シヌスの領域には破れ提灯になっていて、判断は難しいが、6Marchぐらいからマルガリティフェル・シヌスの邊りには黄塵が支配し、シヌス・メリディアニも半分隠れたり、西側が明確になったりしている事がある。なお、3Marchなどでもマルガリティフェル・シヌスは淡くなっている模様だ。

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2016/170311/Mo11Mar17.jpg

 

 

12 March 2017 (λ=332°Ls,  δ=4.4")

       FMl氏がω=210°WIR610像を撮った。マレ・シレヌムからマレ・キムメリウムの流れが濃く出ている。その南にシモイスが見えているか。北半球朝方にケルベルスが出ているか?

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2016/170312/FMl12Mar17.jpg

 

 

15 March 2017 (λ=333°Ls~334°Ls, δ=4.4", φ=20°S)

     Martin LEWIS (MLw)氏が224MC44cm Dobsonianに載っけてω=111°Wで撮像した。MLw氏らしい色合いだが、これまでのなかで最も火星色に近い。δ=4.4"ながら、ソリス・ラクスが濃く圓形を成し、アオニウス・シヌスやマレ・シレヌムの尻尾が濃く見えている。アガトダエモンやチトニウス・ラクスなども見え、ガンゲスが夕端近くに見えている。ポエニキス・ラクスも見える。なお、パエトンティスから南には朝霧のようなものがでている。南極冠も稍痕跡が感じられる。北端から夕端に掛けての處理も好い。

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2016/170315/MLw15Mar17.jpg

 

 

19 March 2017 (λ=335°Ls~336°Ls, δ=4.3", φ=19°S)

     Mo氏がω=307°Wで、LRGB, RGB像など。Rでシュルティス・マイヨルが感じられる程度で、カラー像にやや反映されているが、模様としては捉えられない。

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2016/170319/Mo19Mar17.jpg

 

     FMl氏がω=144°WIR610像。マレ・シレヌムが稍濃く見えている。その南に少し離れて暗部が見える。

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2016/170319/FMl19Mar17.jpg

 

 

21 March 2017 (λ=336°Ls~337°Ls, δ=4.3")

      FMl氏がω=123°WIR610像。DBK21AU618.AS使用。何か細かな模様が這っているらしく見えるが、ソリス・ラクスをexplicitに検出できないので、もし淡化しているのでなければ細かなものに意味を見付けるのは難しい。

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2016/170321/FMl21Mar17.jpg

 

 

23 March 2017 (λ=337°Ls~338°Ls, δ=4.3", φ=18°S)

       FMl氏がω=101°WDBKカメラによるIR610像。前回はseeing4/10であったが、今回は7/10。今度はソリス・ラクスが輪郭は淡いが存在は明確である。アオニウス・シヌスとマレ・シレヌムの尻尾も見える。北半球の模様も幾つか見える。

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2016/170323/FMl23Mar17.jpg

 

 

24 March 2017 (λ=338°Ls~339°Ls, δ=4.3")

         MLw氏がω=019°W224MC像。シヌス・サバエウスがシヌス・メリディアニ付きで濃く見えている。尻尾の登り具合も好い。マルガリティフェル・シヌスは然程濃くないが、回復しているように見える。しかし、まだアウロラエ・シヌス邊りより淡い。ノアキスの濃淡も好い描冩。夕端でヘッラスは北半球夕方より白い。ニリアクス・ラクス邊りは可成り大きく濃く見え、その北は明白に白雲。三月はこれにてお終い。δ=4.3"でまだ十分見える。MLw氏のところ(St Albans)からは高度29°、時刻は夕刻18:33GMTであった。

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2016/170324/MLw24Mar17.jpg

 

 

 

・・・・・・  追 加 報 告 

    森田 行雄 (Mo) 廿日市市、広島県

       3 Sets of LRGB Images (26 June 2016)  36cm SCT with a Flea 3

 

・・・・・・・ 追加報告のレビューは、観測シーズン終了後のReportでまとめることになる。

 画像は以下のリンクから見ることが出来る。

Mo: http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2016/index_Mo.html


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