Forthcoming 2007/2008 Mars
(3)

北半球の季節

CMO #327 (25 January 2007)

南 政 次、村上 昌己


English here


いよいよ北半球の季節の接近の始まりである。北半球の現象は単純と考えられてきた向きがあるが、既に北半球は南半球におとらず興味ある気象現象が見られることが知られている。例えば、北半球起源の黄雲がある。これは極-極型の循環に伴って、赤道を越えるときのもの。北半球起源の黄雲は殆ど顧みられてこなかったが、現在でも水蒸氣を伴う点についての意識が濃いとは言えない。多分北極雲の働きとも関係し、これから観測を密にしなければならない事柄が幾つもある。例えばドーズ・スリット現象も好事的な意味合いだけでなく、未だ関連は知られていないが、北半球起源黄雲とも関連があるかも知れないのである。

 ◆先の接近の際、 CMO #305 (25 May 2005)1864年のドーズの観測に触れ、その後われわれがドーズ・スリットと呼び習わした北極雲内の暗線分について喚起をおこなった(ドーズの15Nov1864 at 00:00GMTの観測に依る。スリットをshort and rather thick dark lineと呼んでいる)Webでは

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn2/2005Coming_9.htm

を見られたい。その中で、ドーズ・スリットは2005年にも検出が可能であるが、2007年にも同様に可能であることを明言した。その根拠とした法則は筆者の一人(Mn)1984年に『天界』に書き、CMO では#106 (15 June 1991) p910 他、何度も説明しているもので---Webでは

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn2/Cahier03.htm  

にある---、その内容は似た接近を見つけだすのに魔法数7.390・・・という無理数が存在し、これに近い有理数を持つ回帰年を近似値として選べばよいというものである。先の2005年と同じく2007年も可能というのは、141年回帰の魔法数は7.333・・・、143年回帰の魔法数は7.444・・・で両者は7.390を挟むからである(1864+141=20051864+143=2007Nov1864年は元治元年、清朝では同治三年)

 同じくドーズのスリットは1990年にも顕著であった事実を同じところで述べているが、1990 - 1864=126年回帰は魔法数7.375・・・を持ち、より7.390・・・に近いから、より1864年接近に近い接近だったということになるのである(1943年はもっと近かったかも知れない、が戦時中で記録があるかどうか)

 そこで、一般的な事柄にも適用を考えて、先ず、2007/2008年接近のみならず、2005年、更には遡って、1990/91年、1992/93年のコンビ、それに1973年と1975年の六接近についてλの関数として視直径δ、中央緯度φを描いてみたが、それを英文の部に紹介してある。φは特に北半球を見る目安として重要である。2007/08年のデータは太くしてある。

 残念ながら1864年のデータは揃わないが、2005年と2007年の中間と見れば好いであろう。実際、1864年の最大視直径δMax17.5"で、いかにも2005年のδMax=20.2"2007δMax=15.9"の中間値である。多分φの曲線もその中間を行くであろう。

  2005年の北極雲とその下の暗部との絡みは、例えば9Oct05(λ=303°Lsφ=11°S)にペリエ(CPl)氏のω=077°W、フラナガン(WFl)氏のω=153°W、グラフトン(EGf)氏のω=162°Wに見られるが、再びヨーロッパに渡ってカッレル(MKr)氏がω=355°Wでドーズ・スリットとニロケラスの北で黄白斑を撮し出している。11Oct05(λ=304°Ls)ω=341°Wで阿久津(Ak)氏は角度が浅いが、セブでは夜が明けたのであろう。12Oct05(λ=305°Lsφ=12°S)の朝方のラッザロッチ(PLz)氏のは少し遅れたが、夜半前のMKr氏のω=010°Wには再びドーズ・スリットと黄白光斑が見える。15Oct05(λ=306°Lsφ=12°S)にはコヴォッリク(SKw)さんがω=011°W~041°Wでスリットを追跡している。CPl氏もω=017°W025°Wで美事である。ただ、φが浅いのは不可抗力だが残念である。16Oct05(λ=307°Lsφ=12°S)にはタイラー(DTy)氏のω=009°W、ピーチ(DPc)氏のω=019°W、アデラール(JAd)氏のω=024°W等が面白い。22Oct05(λ=311°Lsφ13°S)WFl氏のω=026°Wはドンピシャである。

 実は図から分かるとおり、2005年の場合、λ=300°Ls310°Lsの季節ではδが大きいのだがφが南を向いている点で多分1864年より不利であった。一方、2007年の場合はこのあたりでφは北を向くのだがδが不足である。しかし、ドーズの場合λ=337°Lsあたりと考えられるから、この現象は長く見られるはずで、2007年の場合は結構なδのもとで、最良とも言えるφで観測が出来る。φ7°Nまで上がる分けであるから、北半球丸見えに近い。やや詳しくくだくと、λ=310°Lsではφ=1°Sだが、λ=320°Lsではφ=3°Nλ=330°Lsではφ6°Nλ=345°Lsではφ7°Nというわけである。

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn2/2005Coming_9.htm 

に引用したMn1990年のスケッチはλ=321°Lsで、δ2005年に負けるがφ2005年よりほどよくなっているのがわかる。なお、この時の連作は

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn2/1990oct_nph.gif  

に四日間、四十分ごとに纏められている。この年のスリットは必ずしも毎日見えるものではなかったことに注意する。1992年にはφは更に下がったが、δが伴っていないことが図から解る。

 1973年はλ=300°Lsの時点でδは最高であったが、北半球奥地は殆ど見えなかった上、この時点で大黄雲が発生した。もし北半球起源であったとしても把握しきれなかったろうと思われる。図から見ると1975年は2007年とよく似た接近であったといえる。しかし、ドーズ・スリットの検出については寡聞にして聞いていない。宮本正太郎氏は退官されて觀測されていない。ただ、花山と飛騨で229枚のRもしくはB(時にはG)TriX写真(非合成)が撮られている(Contri. Kwasan and Hida Obs. Kyoto Univ No233, 1976)。良像も混じってウトピアあたりで北極雲がBで複雑な様相を示すが、マレ・アキダリウム方面の画像は少なく、20Nov75 (λ=346°Lsφ=2°S)ω=017°WB像がありマレ・アキダリウムで北極雲は薄くなっているように見えるがスリットは見えていない。

 1975年のMnの場合は不作で、マレ・アキダリウムの機会はλ=355°Ls ~ 360°Lsλ=014°Ls ~ 018°Ls頃しかなく(どちらも京大・宇宙物理の15cmにて)、これらには顕れていない。2007年も同じ様な期間後半部での観測が好機となるから今回は集中した更なる観測が望まれる。

 

 扨て、これもCMO #305 (25 May 2005)で触れたことだが、この頃λ=350°Lsは北半球起源の黄雲発生の第二期(Bとした)λ=310°Ls~350°Lsの終末に当たる。したがって、北極雲の観測とともにマレ・アキダリウムやウトピア周辺の黄塵監視は欠かせない。

 しかし、南半球への波及はさておいても、また北極雲が弱くなってからも北極冠域は要注意である。北極冠周辺での黄塵はλ=360°Ls後の北極冠が蒸発を始める北半球初春にも続くから周辺部の監視は重要で、以下に述べる様にこれらのλは、今回の観測期では最接近後の2007年十二月末に訪れるので、視直径の大きな内にチェックできる可能性がある。ただ今回は、この頃は図から判る様にφが南を向くのは残念である。北極域の黄雲は必ずしも定期的ではないようだが、HSTMGSで捉えられていて、HSTでは1996年のプレスリリース"Springtime Dust Storm Swirls at Martian North Pole"

http://hubblesite.org/newscenter/archive/releases/solar%20system/mars/1996/34

にあり、λ=011°Ls (18 Sept 1996)λ=024°Ls (15 Oct 1996)の一ヶ月離れたω=165°Wの二日間の画像があり、北極冠の中に黄雲の筋が写っている。これは、CMO#181(25 Nov 1996) CLICK CMO - CMO CLICKS (3) p1950 で採り上げたものである。続けてλ=044°Ls (29 Nov 1996 )にも、同じωで撮した画像があり、こちらの画像にも北極冠内の黄塵が写っている。

http://hubblesite.org/newscenter/archive/releases/solar%20system/mars/1996/34/image/f/ 

 以上の三つはそれぞれΩ=167°W173°W159°Wに切り口がある。これらの北極雲内黄塵は北極雲内を通過する前線によって上げられた黄塵と考えられているが、P B JAMES et al "North Polar Dust Storms in Early Spring on Mars" Icarus 138 (1999) 64にはλ=020°Ls(2Jan1993)で起Ω=052°Wに切り口のある黄雲が同種のものとして挙がっている。画像はペリエ(CPl)氏のサイト

http://www.astrosurf.com/pellier/HST2janvier1993Acidalium  

で見られるものであろう。なお、これらの時期ではMariner 9では観測に引っ掛からなかったようである。一方、MGS観測ではそうではない。可成り頻繁で、有名なものとしてλ=042°Ls (29Aug 2000)において見られた北極冠からの吹き出し黄塵が知られている(2000年の懇談会の話題であった)。この影像は

http://www.msss.com/mars_images/moc/9_12_00_dust_storm/mars_and_earth_storms.jpg 

にある。2002年には四月中旬に北半球の春分を迎えたが、六月終わりまでのλ=030°Ls頃までの北極冠近辺での黄塵はかなり頻繁で、その各週での動きはMGSによって捉えられ、

http://www.msss.com/mars_images/moc/weather_reports/ 

で把握できるから、参照されたい。

 また、北極域から離れるがアルバ付近での白雲活動もボーム・プラトー(~λ=060°Ls)の後に知られているから、注意が必要である。ただこの頃はδも小さくなっているが、次の接近の前哨戦として追跡があってよいと思う。1995年の例は次にある:

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn0/95Note13.htm 

  接近後半では北半球特有ではないがオリュムプス・モンス等の夕雲が活動を開始するので、機会を逃さず記録するのが望ましい。

 他に、1992/93期にデンマークのシーゲル(ESg) さんが何度も検出したノウゥス・ポンス(命名はヴァレッル(JWr)氏による、マレ・アキダリウムに掛かる新しい橋という意味、2005年には幾つか例が出た)の検証などがあるが、また別稿で扱う。

 最後に、近日点あとの接近の特長として、最接近までの道のりが長い。北半球の冬至まではφは南に偏っていて、北半球の観測は難しい。九月の中頃までそういう状態が続くわけで、當然南半球の現象に集中することになるが、北半球起源の黄雲は四月、五月には始まっているわけであるから、その頃から北半球の季節は始まるという覚悟があってよいと思う。          


Back to the CMO Home Page / Back to the CMO Façade