CMO/ISMO 2024/25 観測レポート#17
2025年七月の火星観測報告
(λ=104°Ls ~ λ=118°Ls)
村上 昌己・西田 昭徳
CMO
#549 (
♂・・・・・・ 今期十七回目のレポートは『火星通信』に送られてきた七月中の火星面画像よりのものである。下図のように、火星は七月には引き続いて「しし座」で順行を続けて赤緯を下げて、月末には「おとめ座」入った。日没後の西空の低空にあって、視直径も4秒角台に下がって、観測期も最終盤となっていた。
七月には季節(λ)はλ=104°Lsから118°Lsまで進み。北半球の夏至(λ=090°Ls)過ぎの観測となった。直径(δ)はδ=4.9”から4.4”まで小さくなった。傾き(φ)は25°Nから、月末には極大の26.3°Nにまで大きくなり、北極域が大きくこちらを向いていた。小さくなった北極冠がまだ捉えられている。位相角(ι)は、ι=32°から28°と少し丸みが戻ったが、南半球朝方の欠けはまだ大きい。
右図には、この期間の視直径と中央緯度の変化の様子をグラフで示した。赤い実線が今接近の視直径の変化である。傾き・中央緯度(φ)は緑色の点線で示している。黄色くマークされているところが、七月のレポート期間の様子を示している。視直径の低下を見ても今観測期も最終盤になっている。
2010年の接近時には、もう少し大きな視直径の時の観測記録が、以下のリンクで閲覧できる。
CMO#374 (16 June ~
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn5/CMO374.pdf
2012年の小接近時にも、視直径の大きな時の記事があり、以下のリンクから辿れる。
CMO#399 (1 May -
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/399/399_Repo11.htm
♂・・・・・・ 2025年七月の火星面の様子
○
火星面概況
火星は、七月には季節(λ)はλ=104°Lsから118°1sまで進み、北半球の夏至(λ=090°Ls)過ぎのころの観測となった。この期間には冬至過ぎの南半球でヘッラスが朝方から明るく見えているようになる。視直径(δ)は4秒角台まで小さくなり、詳細は捉えがたくなっているが、大きな模様はまだ捉えられている。位相角(ι)は28度台まで戻ってきたが、朝方の南半球の欠けはまだ大きい。傾き(φ)はさらに北向きに大きく、月末にはφ=26.3°Nとなり今期最大の傾きとなった。
○ この期間の北極冠の様子
傾きが大きいこともあり縮小が進んだ北極冠が小さく見えていた。今月は視直径が小さくなったこともあり極展開した画像は作らずに、比較的に北極冠が良く捉えられている画像を日付順に並べている。いずれの画像にも小さく明るく存在が認められて、大きさの差もないようで、縮小の止まった残留北極冠の様子になっている。
○ ヘッラスの様子
λ=090°Ls (南半球の冬至) を過ぎて、降霜で明るくなるのが知られている。今回も夕方から朝方の様子を:経度を追って並べてみた。夕方から午前中のヘッラスが先月と比べて明るくなっている。ごく朝方はターミネーターにかかって明るさが弱いためか、それほどはっきりせず、B光でも明るさはあまり感じられない。
○ 赤道帯霧 (ebm: Equatorial Band Mist)
赤道帯霧は活動のピークを過ぎて衰えはじめているとはいえ、まだ各氏のB光画像には認められる。フォスター(CFs)氏の連日の画像を上段に並べた。取り上げた日付の以後の画像は上に引用した図からたどれる。下段のメリッロ(FMl)氏の小さなRGB画像でもB光画像では確認できる。フィルターワークの大切さが感じられる。
いずれも、朝方のタルシス等では朝靄が濃く。クリュセからタルシス方面にのびる部分はまだ確認できる。シュルティス・マイヨルをはさんでマレ・アキダリウム方面にのびる赤道帯霧も弱く認められる。
○ 夕方の山岳雲の活動・朝靄や夕方縁の明るさ
火星像は小さくなって解像度は良くないが、上の各図に引用されているものから取り上げると。1Julyのウィルソン(TWl)氏の画像には、夕方に白斑が並んでいる。処理のゴーストの様だが、内側のものはオリュムプス・モンスと思われる。朝方のエリシウムあたりも明るさが認められる。3 JulyのTWl氏の画像も同様である。4 Julyのフォスター(CFs)氏の画像では、朝方のタルシスあたりに朝靄が大きく拡がり、高山の頂がボ−クアウトしているようにも見える。夕縁の北半球側の明るさも興味深い。
7 Julyのメリッロ(FMl)氏の画像では、タルシスあたりの明るさが捉えられている。同日のCFs氏の画像では。朝縁近いタルシスに明るさがある。テムペにもRGBでの明るさがある。
8 JulyのCFs氏の画像では。夕縁のアエリアあたりがB光で明るく、夕靄が捉えられている。北極冠のダークフリンジの外側も夕方側がRGBで明るい。同じ8 July には、ウイルソン(TWl)氏が、45分違いの2枚の画像を並べた。クリュセからタルシスあたりの明るさを捉えている。処理がきつくB光画像にキレがないが、テムペの明るさや大きなタルシスの朝靄が捉えられている。タルシス高山のポークアウトも感じられる。
9 JulyのCFs氏の画像には。アエリアの夕靄がB光であかるい。12 JulyのCFs氏の画像では。シュルティス・マイヨルがディスクに入り、夕縁のリピヤ側の夕靄があかるい。ヘッラスも夕縁で明るくB光では北極冠よりも明るく感じる。
13 JulyのCFs氏の画像は、12 Julyと同様だが、北極冠ダークフリンジの朝方の外側が明るく、オリュムピアと思われるがB光で明るくない。16 JulyのFMl氏の画像は、カメラをASI120MCに変更しての小さな画像だが色調は良く、クリュセからタルシスにかけての明るさが捉えられている。
18 JulyのCFs氏の画像には、夕縁近くのエリュシウムの明るさが捉えられている。ウトピアとダークフリンジの間もやや幅広く明るくオリュムピアも含まれていると思われる。21 JulyのCFs氏の画像も同様である。
29 JulyのTWl氏の画像は、解像度は悪いが、夕縁近くのエリュシウムの明るさが捉えられている。
♂・・・・・・ 2025年七月の観測報告
終盤となった七月には報告者はベテラン勢だけとなった。日本からの報告はなかった。フィリッピンの阿久津氏の6観測。アメリカ側からは2名より15観測。ヨーロッパ側からは1名より1観測 。アフリカのフォスター氏からの17観測で、合計では5名から39観測であった。報告数は先月と変わっていない。
イギリスのルウィス氏からは、今期の観測終了とのメールが入っている。
阿久津
富夫 (Ak) セブ、フィリピン
AKUTSU, Tomio (Ak)
6 Colour + 4 B + 4 IR Images (4, 7, 8,
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_Ak.html
クライド・フォスター (CFs) ホマス、ナミビア
FOSTER,
10 Sets of RGB + 10 R610LP Images (4, 7~10. 12, 13. 15, 18,
36cm SCT with an ASI 290MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_CFs.html
マーチン・ルウィス (MLw) セント・アルバンス、英国
LEWIS, Martin (MLw)
1 Colour Image (
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_MLw.html
フランク・メリッロ (FMl) ニューヨーク、アメリカ合衆国
MELILLO,
Frank J (FMl) Holtsville, NY, the
3 Sets of RGB
+ 3 Colour* + 1 R + 1 610nm# Images (7. 16**, 19, 22, 23, 24*,
28#,
25cm SCT with an ASI 290MM , an ASI 290MC* & ASI 120MC**
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_FMl.html
ティム・ウイルソン (TWl) モンタナ、アメリカ合衆国
7 Sets of RGB
+ 7 IR Images (1, 3, 8, 23, 24,
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_TWl.html
♂・・・・・・ 2025年八月・九月の火星 (再掲)
火星は八月・九月には「おとめ座」で順行を続け、八月8日には赤緯が南へと下がる。九月12日にはスピカの北を通過してゆく。十月はじめには「てんびん座」に入って、太陽との離角も小さくなり今観測期も終了となる。
季節は、八月には、λ= 118°Ls〜133°Lsまで進み、九月には、λ= 133°Ls〜148°Lsまで移る。北半球の盛夏の時期の観測となる。北極冠周辺のサイクロン発生の季節である。北への傾きはまだ大きく発生があれば捉えることが出来るかも知れない。
視直径が4.0秒角を下回るのは九月25日のことである。位相角は減少して少し欠けが小さくなる。傾きは八月はじめに26°N台の最大値になり、九月末には20°Nほどまでに戻ってくる、北極冠を含めて北極域が最後まで観測できるであろう。
今回は視直径も小さくなることもあり、いつものグリッド図は省略する。
今期の観測とも重なるが、次回接近期にも北半球の春分(λ=000°Ls)過ぎの観測となる。一サイクル前の観測期にまとめた下記の論考を参考にされたい。(再掲)
2011/2012年の火星(そのII) CMO/ISMO #395 (25 March
2012)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/395_MNN.htm