アンタレス研究所訪問 

   

§2:太陽の季節太陽には季節がない。自転はあるが、朝方も夜もない。おまけに「合」もないから観測に年中休みがない。メリハリのないこと夥しく、只管、出現黒点群数gと黒点総数fから「相対数R」を算出することだけが眼中である。尤も相対数に長周期の増減があるのが季節に相当するかもしれない。現在第23周期の極大の直中にあるとされ、R=160180前後を保っている。ただ、ときどきショー(天體秀)がある(Mk氏によるとJuly 2000にはR=309)

 「相対数R」が頭打ちになり、そろそろ極大も過ぎたかと言われ始めたこの2001年三月に、十一年振りの大黒点が出現した。AR#9393というEF型の複雑な暗半部を持つ見事な肉眼黒点であった。昨年(2000)九月に出現して騒がれた巨大黒点(AR#9169)を凌ぐ。CM通過の28 Marにはこの領域でMタイプという大きな規模のFlareに限っても六回発生させた。その後2 Apr 21:30 GMTにはXタイプという最大規模のFlareが発生し、21:50 GMTにはX17レベルという記録的な規模を記録した() 。第22周期の16 Aug 1989以来だそうである。

 23:00 GMTには高エネルギープロトンフラックスが増加を始め、成田空港では航空機との交信が二度三十分近く雑音で途絶している。この電波障害現象は約六時間も続いた由である。

 大暴れしたこのAR#93934 Aprまで観測され、その後19 Aprに再びAR#9433として回帰し、再度お騒がせであった。2 Mayに再び没するまで十回に渡りMタイプのFlareを発生させつづけ、CM通過前後の24 Apr26 AprにはCME放出現象が見られた。殊に28 Aprの表面爆発は大きく、28 Apr 05:00 GMTから29 Apr 16:00 GMTに渡って地磁気嵐(magnetic storm)を発生させている。白色光Flare観測の歴史は1859年のR. C. Carringtonにまで遡るが、この時は約十八時間後に地磁気嵐が起こった。

 相対数Rを定義したJ. R. Wolfは、口径8cm倍率64倍の屈折で1848年から1892年まで四十五年間観測を続けた。以後観測法はコピーされている。百三年後、太陽観測衛星SoHOが打ち上げられ、その三年後TRACE望遠鏡が打ち上げられた。こうして様々な波長で太陽面を捉えなおす事が漸く始まって以来、今回は初めての極大期なのである。プロトンフラックスを予想していなかったため昨夏損傷を受けた日本の天文観測衛星「あすか」は、先ごろその役目を終えた。「相対数」を越えた新しい視点での太陽観測の新しい季節は、まだ始まったばかりである。(Ts)

・・・・・『火星通信#243 (10 May 2001) p2984

                   

()追記:このFlareのレベルは後にX17からX20に格上げされた。この#9393に伴う2001年四月の活動によるFlareCMEが、六月以降に見られた火星の「2001年大黄雲」の引き金になったのではないかという見解がCMOの火星観測家のあいだで出ている。


 

 

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