NGC 1068

NGC 1068

活動銀河核

NGC 1068は、地球から約4700万光年の距離にある渦巻銀河です。 NGC 4151と同じく中心部分がとても明るい、活動銀河核(AGN)を有する銀河です。 同じ活動銀河核を持つ銀河として、NGC 4151にも解説を掲載していますのでご覧ください。

活動銀河核は銀河の中心にある超巨大ブラックホールに物質が落ちることで明るく光っていると考えられています。 活動銀河核の明るく輝いている領域は、銀河全体と比べてとても小さく、巨大な望遠鏡を使っても点にしか見えません。 しかし、波長ごとに光を分けて強度を測る分光観測によって、図1のような構造になっていると推測されています。

活動銀河核の構造

活動銀河核統一モデル
図1:活動銀河核のイメージと、NGC 1068、NGC 4151の見え方の違い。

NGC 1068の中心部には太陽の1000万倍もの質量を持つ超巨大ブラックホールがあると考えられています。 このブラックホールに周囲のガスが落ち込むときに降着円盤が形成されます。 降着円盤内ではガス同士が速度差による摩擦で温度が上がるため、明るく輝きます。 とくに降着円盤の内縁は数十万℃にまで達し、可視光線だけでなく高エネルギーの紫外線を放射しています。 さらに内側はX線を放射する100万~1000万℃のコロナ領域につながっています。

その周囲では、希薄なガスが降着円盤からの紫外線によって電離して光っています。 この電離ガスはブラックホールの近くで強い重力により高速運動する領域(図1の広輝線領域)と、 離れた場所でゆっくり運動する領域(図1の狭輝線領域)に分けられます。 さらに広輝線領域の外側には塵でできたドーナツ状の構造(ダストトーラス)があり、一部の光を覆い隠していると考えられています。

次に活動銀河核のサイズを見てみましょう。

中心ブラックホールからの典型的な距離※1
降着円盤 108~1010 km
広輝線領域 1010~1012 km
ダストトーラス 1013~1014 km
狭輝線領域 1014~1016 km
参考
地球と太陽の距離 約1.5×108 km
天の川銀河の半径 約5×1017 km

活動銀河核の莫大なエネルギーを生み出すエンジンである降着円盤は、太陽系程度の非常に小さいスケールに収まっています。 一方、狭輝線領域の外縁部は、銀河の半径に迫るほどの大きなスケールを持ちます。

なぜこのような構造だと考えられるのか、せいめい望遠鏡で分光観測した結果をもとに、詳しく見ていきましょう。

スペクトル

NGC 1068_kools
図2:NGC 1068のスペクトル。クリックでNGC 4151のスペクトルと切り替わる。

図2の(a)は、中心核の光を波長ごとに分けた画像です。(b)は、波長ごとの明るさを縦軸にとったグラフです。 波長ごとに分ける観測を分光観測と言い、撮られた波長ごとの明るさの分布をスペクトルと言います。

NGC 1068のスペクトルは、広い波長域にわたり光っている連続光成分と、 特定の波長だけトゲのように突き出した輝線成分に分けられます。 同じ活動銀河核を持つNGC 4151とスペクトルの形を見比べてみましょう。 図2をクリックすると、NGC 4151のスペクトルに切り替わります。 どちらも連続光成分と輝線成分からなりますが、よく見るとそれぞれに違いがあります。 NGC 1068では連続光成分が全波長域で一様に暗めですが、NGC 4151では短波長ほど明るい傾向があります。 また486.1nmや656.3nmのHI輝線(水素ガスからの輝線)は、NGC 1068では幅が狭い成分しか見えませんが、 NGC 4151ではそれに加えて裾野が広がった構造も持っています。

活動銀河核統一モデル

観測されるスペクトルに違いはありますが、どちらも説明できるのが図1のモデルです。 NGC 1068はダストトーラスを真横からの視線で観測しているため ブラックホール周辺が覆い隠されており、NGC 4151は斜めからの視線で中心部まで見通せているという違いです。

NGC 4151では紫外線で明るい高温の降着円盤が見えているため、連続光成分は短波長の光ほど明るく見えます。 一方で、NGC 1068はダストトーラスによって降着円盤の光が隠されてしまっています。 NGC 1068のスペクトルで見えている連続光成分は、 大部分が銀河の中心付近に分布する星の光であると考えられています。

輝線成分は希薄なガスの電離領域から放射されています。 輝線の波長は物質によって決まっていますが、ブラックホールの重力に引かれて回転運動しているため、 ドップラー効果によって波長がわずかに変化します。 地球に向かって近づく成分は短波長側に、遠ざかる成分は長波長側に移動するので、 全体としては線幅が広がったように見えます。 ブラックホールに近い部分では運動速度が速いので輝線の幅が広く、離れた領域では狭くなります。 図1に示した狭輝線領域、広輝線領域というのは、このような特徴を反映した名称です。

NGC 4151では狭輝線領域と広輝線領域の両方を見通しているので、 ブラックホール近くで放射される幅が広がった成分と、 外側で放射される幅が狭い成分が合わさった輝線が見えます。 一方、NGC 1068は広輝線領域がダストトーラスで隠されているので、 狭輝線領域の幅が狭い成分だけが見えています。

このように、地球からの活動銀河核を見る角度の違いだけで、 スペクトルの違いを説明する考え方を「活動銀河核統一モデル」と呼びます。 しかし、実際の構造はもっと複雑で、トーラスやガスの分布・運動など分かっていないことがたくさんあります。 天文学者は、スペクトル分析などを活用し、活動銀河核周辺の極限状態を明らかにするべく研究を進めています。

 ※1: Hickox, R. C., & Alexander, D. M., 2018, ARA&A, 56, 625の図2を参考

トップ画像
2025年1月13日 20時01分(JST)
観測装置:TriCCS
露光時間:g, r, i各バンド 520秒
写野:23.8x14.4arcmin
 (横2x縦2の写野をマッピング)
Ⓒ 京都大学岡山天文台/ 東京大学
高解像度版(4085x2465pix, 1.9MB)

スペクトル NGC 1068
2024年10月21日 23時02分(JST)
観測装置:KOOLS-IFU
露光時間:VPH-blue 300秒
Ⓒ 京都大学岡山天文台

スペクトル NGC 4151
2024年5月10日 23時34分(JST)
観測装置:KOOLS-IFU
露光時間:VPH-blue 720秒
Ⓒ 京都大学岡山天文台