ウォルフ・ライエ星 WR 136 と三日月星雲 NGC 6888
ウォルフ・ライエ星 WR 136
WR 136ははくちょう座にあるウォルフ・ライエ星で、地球から約5000光年離れています。 ウォルフ・ライエ星は非常に質量が大きい天体で、WR 136 は太陽の20倍以上もの質量を持っていると推定されています。 このような大質量星は中心での核融合反応が非常に激しく起こり、高温で非常に明るいのが特徴です。 WR 136 では表面温度が約7万度、そして明るさが太陽の約60万倍にもなっています。 そのあまりの光の強さで、1秒あたり4000兆トンもの表面のガスを秒速1700kmくらいで放出しています。 また、大質量星は寿命が非常に短く、WR 136 は現在470万歳くらいと推定されていて、あと数10万年もすると超新星爆発を起こすと考えられています。 また、この星はK型かM型の伴星を持つ、公転周期約5日の連星であることがわかっており、 超新星爆発後にはブラックホールまたは中性子星と晩期型星の低質量X線連星になるかもしれません。
三日月星雲 NGC 6888
WR 136 の周囲を取り囲んでいる緑色のモヤモヤが三日月星雲 NGC 6888 です。 1792年にウィリアム・ハーシェルによって発見されました。 WR 136 が20万年ほど前に赤色超巨星になった際に太陽の質量の5倍ほどの表面ガスを吹き出し、 これは今も秒速80kmくらいで広がっています。星雲の左上から右下までの実際の大きさは約26光年くらいあります。 以前に放出されたこの低速のガスと、現在放出されている高速のガスが衝突して発生した衝撃波、 及びWR 136からの強い紫外線の光の影響で、この写真のように輝いています。
WR 136のスペクトル
(a)は波長ごとに分けた画像、(b)は波長ごとに明るさを縦軸にとったグラフ。
このスペクトルでは、通常の恒星で見られるような水素の吸収線が観測されず、輝線ばかりになっています。 その代わりに、水素、ヘリウム、炭素、窒素の輝線が強く見えていて、 しかも放出されたガスの速さに対応するドップラー効果で輝線が太くなっています。 He I, He II, C IV, N III, N IV とは、それぞれ中性のヘリウム原子、 1階電離したヘリウム原子、3階電離した炭素原子、2階電離した窒素原子、 3階電離した窒素原子が作り出す線です。 WR 136 は高温であるため紫外線が非常に強く、これらのような高階電離した原子が作られています。 また、窒素やヘリウムの輝線が強いのは、水素を主成分とする星の外層の大部分を失ったため、 CNOサイクルによる水素燃焼によって内部で作られた窒素やヘリウムが剥きだしになったからだと考えられています。 さらに外層を失ったウォルフ・ライエ星では、水素や窒素すら見えず、 ヘリウム燃焼によって作られた炭素や酸素の線が強く出るものもあります。
NGC 6888のスペクトル
(a)は波長ごとに分けた画像、(b)は波長ごとに明るさを縦軸にとったグラフ。
星雲部分では、ガスの密度が低く、連続光はほとんど放射されません。 しかし、WR 136 からの強い紫外線を受けた原子が電離し、その電子が元に戻る時に特定の波長で強い光を放ちます。 NGC 6888のスペクトルでは、その特徴をはっきりと見ることができます。 H I(中性水素原子)やHe I(中性ヘリウム原子)、[O III](2階電離した酸素原子)、[N II](1階電離した窒素原子)、 [Ar III](2階電離したアルゴン原子)、[S II](1階電離した硫黄原子)の細い輝線が非常に強く放射されていることが分かります。 [ ]が付いている線は禁制線と言い、地上のような高密度環境ではほとんど見られない線です。 しかし、星雲のように密度が非常に低いガスが強い紫外線にさらされたり衝撃波が発生していたりすると、このように強く見られます。 宇宙は、原子の実験室にもなるのです。
トップ画像
2024年7月3日 23時09分(JST)
観測装置:TriCCS
露光時間:g, r, i各バンド 300秒
写野:23.6x20.4arcmin
(横2x縦3の写野をマッピング)
Ⓒ 京都大学岡山天文台/ 東京大学
高解像度版(4041x3501pix, 14.4MB)
WR 136のスペクトル
2023年8月8日 22時13分(JST)
観測装置:KOOLS-IFU
露光時間:VPH-blue 180秒
Ⓒ 京都大学岡山天文台
このスペクトルは、2023年度の
天体観測実習に参加した学生が
撮影しました。
NGC 6888のスペクトル
2023年8月8日 22時40分(JST)
観測装置:KOOLS-IFU
露光時間:VPH-blue 450秒
Ⓒ 京都大学岡山天文台
このスペクトルは、2023年度の
天体観測実習に参加した学生が
撮影しました。