SDSS J114833.14+193003.2 ー重力がつくる宇宙の馬蹄ー
SDSS J114833.14+193003.2※1は、Cosmic Horseshoe(コズミック・ホースシュー) の愛称で知られる天体です。 重力レンズ効果によって形成されたU字型のアーク(光の弧)が、馬の蹄鉄に似た形をしていることにちなんで名付けられました。 せいめい望遠鏡で撮影された画像には、オレンジ色に見えるレンズ源となる銀河(以下、レンズ天体)の周囲を囲むように、左に90度回転したU字型のアークが伸びている様子が写し出されています。
重力レンズ効果とは、質量を持つ天体の重力によって背後の光が曲げられ、像が拡大・変形される現象です。また、見かけの明るさが増します。 この現象はアインシュタインの一般相対性理論に基づいており、背景銀河、レンズ天体、観測者がほぼ一直線に並ぶと、背景の像が円形に広がる「アインシュタインリング」が形成されます。 このような場合増光率が特に高くなり、観測が非常に容易になります。
Cosmic Horseshoeはこの現象の一例ですが、リング全体が完全な円を描いているわけではなく、一部が欠けたアーク状に観測されています。 完全なリングを形成するためには、背景銀河、レンズ天体、観測者が厳密に一直線に並び、さらにレンズ天体の質量分布が軸対称である必要があります。 これらの条件が揃わない場合、像はアーク状あるいは歪んだ形に観測されます。
Cosmic Horseshoeのアークとして観測される背景銀河※2は、宇宙誕生から約28億年後の若い銀河です。 この銀河では星形成が非常に活発に進んでおり、明るく青い恒星を多数含んでいると推定されています。 1年間に太陽の約100個分に相当する質量の星々が銀河全体で誕生しており、これは天の川銀河の星形成率(年に数個の太陽質量)を大きく上回る水準です。
レンズ天体は、宇宙誕生から約90億年後の赤い巨大な銀河※3です。 重力レンズ効果の観測から、この銀河の質量分布が明らかになっています。 重力レンズ効果では、光を放つ物質(恒星や星間ガスなど)と暗黒物質の両方を含む総質量を測定することができます。 この銀河の質量※4は、太陽の約5兆倍に相当すると見積もられています。
重力がつくり出す美しいアークは、暗黒物質や銀河の進化を含む宇宙の謎に迫る手がかりを私たちに示してくれます。
※1 SDSSは「スローン・デジタル・スカイサーベイ(Sloan Digital Sky Survey)」の略称で、広い天域を詳細に観測した大規模な天文サーベイプロジェクトです。
SDSS J114833.14+193003.2は、このプロジェクトにより発見され、天体カタログに登録された天体のひとつです。
※2 2019年の研究によると、背景銀河は不規則な形状の単一銀河か、あるいは2つの銀河が相互作用している可能性が示唆されています。
※3 Luminous Red Galaxyに分類される銀河
※4 アインシュタインリング半径内の質量
トップ画像
2025年5月14日 22時17分(JST)
観測装置:TriCCS
露光時間:g, r, i各バンド 900秒
写野:13.6x7.9arcmin
高解像度版(2335x1350pix, 3.3MB)