京都大学宇宙会

2006年度 宇宙会総会 観望記

去る9月16日、京都大学時計台にて、第22回京都大学宇宙会総会が開催されました。全国各地より、宇宙物理学教室OB・関係者総勢50名ほどの出席を得、例年にない盛会となりました。以下は参加者の1人、中山薫二によるかなり無責任な総会観望記です。御笑覧いただければ幸いです。

【1】開会前

9月16日、1時少し前に自宅を出て、徒歩で総会会場の京都大学時計台に向かう。京大へ行くのはかれこれ1年半ぶり、リニューアルした時計台に入るのは初めて。二条大橋を渡って川端通りから志賀越道に入る。京大会館、紫蘭会館、医学部。木々の向こうに時計台が顔を出す。吉田参道から正門へ、そして到着、1時半。

時計台内部の変貌は、話に聞いていた通り。きれいな壁と床、明るい照明。ショップとホールと展示室。小洒落たサロンにフレンチレストラン『ラ・トゥール』。トイレもことのほか快適。そういえば時計台に入るのは、授業料納入とか、図書館と中央生協食堂の行き来のときとか、それぐらいだったかな?いや、地下の生協購買部に毎日行っていた。西部キャンパスにルネが出来る前は、書籍部もあったから。そういえば今の図書館の建築中、階段教室が臨時図書館だったけど、それも時計台地下だったかな?記憶がかなり曖昧。とにかく中はオンボロで、薄暗くて、いつもひんやりしていたよ。夏になると、それがちょっと心地よかったことを、ふと思い出した。

サロンでは役員の皆さんが打ち合わせやら準備やら。柴田さんは決算報告の清書、富田さんは年会費未納者のチェック・・富田さんが時間を持て余して、2004年度分まで遡って調べています。マズイ・・・

時間が近づいてきたので、2階に上がって総会会場設営作業。その間に参加者の皆さんも徐々に集結、受付で手続きしておられます。では、私も・・・懇親会費は6000円、年会費滞納分は・・・・2006年、2005年、2004年、痛っ!

【2】総会

というわけで予定の15時を少し回り、宇宙会会長・黒川宏企氏の司会兼議長で総会が始まりました。まずは宇宙会設立21周年と言うことで(中途半端!)、宇宙会規約の一部を確認。

(名称)第1条 本会は、京都大学宇宙会と称する。
(目的)第3条 本会は会員相互の親睦を深めることを目的とし、あわせて学問的交流をはかる。
(会員)第4条 本会の会員は、次の条件のひとつを備え、且つ上記の主旨に賛同するものとする。
(1)京都大学理学部宇宙物理学教室又は附属天文台で学んだ経験のある者
(2)前号の機関の教職員並びにこの職にあった者
(3)第1号の機関に関係のある者

そう、意外にも宇宙会は、単なる同窓会ではなく、宇宙物理学教室関係者なら誰でもはいれる開かれた団体なのでした。しかも、21年前の設立当初の大きな目的のひとつが、「就職のための人脈作り」だったらしい。(福江さんによると「教室スタッフがまったく頼りにならないので作った。」 嗚呼逞しきかな先輩たち!)そういうわけでこれを読んでいる若い人、まだ入会してなければ、ぜひ入って宇宙会を盛り上げてください。狭くて深い人間関係よりも、広く浅い人間関係が、就職のためには役立つそうですよ!(see, e.g., 「ネットワーク分析」 安田雪 新曜社1997)

続いてここ半年の活動報告。役員会は5月と8月の2回でいいペース。会議のしすぎは体に毒。役員の仕事分担については、役員の年齢層があがってきたこともあって、一部入れ替え。さらに事務の効率化のため、事務局を花山天文台に一元化。関連して、いままでは役員のボランティアでこなしていたいくつかの仕事を、予算をつけて、アルバイトさんにやっていただく方針とのこと。

引き続きいて、議題。最初は役員人事。永らく宇宙会役員を務めてこられた粟津ミツル氏が、このたびお辞めになることになりました。粟津さん、お疲れ様でした。後任として、不肖私、中山薫二が、新役員を務めさせていただくことと相成りました。よろしくお願い申し上げます。続いて、久保田諄氏による会計報告と岩崎恭輔氏による監査報告。なかなか余裕ある健全財政。だからアルバイトさんを雇えるわけです。さらに黒河会長は、会員の皆様へのさらなるサービス向上にも振り向ける所存とのこと。乞ご期待!

【3】講演会

柴田一成氏の司会進行で、講演会の始まり。講演者はお二方。

お一人目は、ソニー・エンタテインメントロボットカンパニーの景山浩二氏。未来の世界の犬型ロボット、あの『AIBO(アイボ)』の開発者である。そ、そんなすごい人物が宇物のOBだったとは!出席して、なんだかすごく得した気分。演題は『ロボット開発の話と、これからのこと』

ロボット開発の話は、勿論AIBO。ロボットといっても作業や仕事をするわけではなく、ペットとして人を楽しませるエンターテイメント・ロボット。知覚し、感じ、考え、しつけや教育の仕方によってそれぞれに成長する心を持った、生きているロボット。勿論それは単なる喩え、そんなふうにプログラムされた、機械に過ぎないわけですよね。少なくとも開発者の景山さんは、生き物としてではなく、あくまで機械として扱っていたとのことでした。でもこれって、ちょっと、ショック。だって、やっぱりかわいいぞ。プロモーションビデオを見せていただきましたけど、絶対生きてるって、AIBO。

さて、お話によると、AIBOは発売後、ソフトウェアが公開されたり部品がモジュール化されたりして、他の研究者や一般人も自由に参入できるようになったそうです。となると研究開発は、どんどん裾野が広がって、これからが楽しみと、素人の筆者なんかは思うのですが、知らなかった!なんと今年になって開発中止になっていたとは!中止の理由は、「ビジネスとして成り立たせよ」という企業論理の至上命題のため。でも景山さんは、「技術力が低かったから」とも言っておられた。え?どういうこと?あんなにすごいのに?

後の祝賀会のとき、短時間ながら景山さんと直接お話しできる機会があったので、AIBO開発と人工知能(AI)研究等関連分野との関係をお尋ねしたところ、「AIはこの50年、結局何も作り出していない」との手厳しいご意見。うーむ。してみると、「技術力が低かったから」というのは、多分に両義的、ことによると逆説的に解したほうが、あるいはよいのかもしれないのかなと、なんとなく思えなくもないなと、そんな気がいたします。それにしても中止は残念。開発された技術は、また別の形で生かされていくのだろうけれど。

後半は、景山さんが最近取り組んでおられるテーマ。スパコンなみの演算能力と優れたグラフィック能力を持つゲーム機、プレイステーション3を使ったグリッドコンピューティングで、莫大な計算量を要する科学シミュレーションを試みるという話題。実験的な例として、たんぱく質のフォールディングのシミュレーション動画をいくつか見せていただいた。ブルブル震えながら巨大分子が折りたたまれていく様子が、超美麗映像で目の当たりに出来る。映像全体の回転は勿論、複雑な分子の中に分け入って、細部の変化を詳細に見るのも自由自在。こういう計算が蓄積されると、いずれ巨大分子の振る舞いを、身体感覚で分かってしまう人が現れてくるのかもしれないな。

ともかくも、ゲーム機を持っていれば科学の進歩に貢献できてしまう時代が、遂にやってきたのである。インベーダーゲームの時代には想像すら出来なかったことよ。いまだに紙と鉛筆の世界に生きる筆者としては、うれしいような悲しいような、ちょっと微妙な気分ではありました。

お二人目は大阪教育大学の福江純氏。演題は『宇宙物理学教室に学んで~福江純 半生を反省する』。前半は、天文学者に憧れていたSF・アニメ少年だった頃、そして天文学者を目指して勉学にいそしむSF・アニメ青年だった学生時代、さらに第一線の天文学者として活躍するSF・アニメ壮年の現在に至るまでを振り返るとともに、ご自身の経験から、研究者像の理想、もとい、夢想と現実を語ってくださいました。後半は、最近取り組んでおられる宇宙ジェットの研究についての紹介。

言うまでもなく福江さんは、今や科学界の有名人、天文学会の顔、押しも押されもせぬ宇宙流体の大家であります。筆者のごとき不肖の後輩にとっては、遥けき彼方に屹立せし高峰、なんていうか、既にして神話的存在。幾多の論文・著作を物し、教育・啓蒙怠りなく、さらにはお子さんを3人ほども育ててしまう、驚異のアクティビティ。才気煥発にして縦横無尽、行くところ可ならざるはなき超人、宇宙怪人ゴーストか、大魔王シャザーンか、はたまたマイティーハーキュリーかとばかり思っていたら、お話を伺うに、意外だった。福江さんも、われら凡人と同じく苦しんでいたという。それなりに暗い青春を送り、修士では壁にぶつかり、博士に進んでは、偉大なる師・加藤正二先生をなんとかして越えようと試行錯誤を重ねる中、己が道を見出して来たという。そうか、福江さんですら、そうだったのか・・・・でもね、うーん・・・やーっぱりそうは見えないのよねー・・・・ともあれ、『軸をずらす』!自分の足で生きていくには、師とは違うことをしなくちゃいけない。師の壁を越えることは難しいにせよ。

研究者像の夢想と現実。普段は研究室で研究をして、ときどき講義をする、そんな静穏な学究生活を夢想していたのとはうらはらに、現実はキビシイ!雑用その他に遽しく追い立てられる激しい日常が、証拠写真つきで暴露、もとい、紹介されました。研究室の机に堆く積み上げられた書類の山とか、どこぞの居酒屋で撮ったとおぼしき怪しげなコスプレ写真とか・・・ってゆうか、いったいどうしちゃったんですか福江さん?・・・で、結論:『研究教育職はサービス業であり、研究者はロールプレイを期待されている。その状況が楽しめないとしんどい。楽しむべし!』・・・・納得。でもなかなか楽しめません!

研究の話。従来、系外宇宙ジェットで実現しているような、光速の99%とかそれ以上まで加速されるジェットの理論モデルはなかったのだそうですが、なんと遂に出来ちゃいました!というお話。えーとこれってつまり、宇宙ジェット界積年の謎を遂に解決しちゃった、というか、少なくともその有力な解答案をひねり出したってこと、ですよね?やっぱりすごい。福江さんは最近、非一様流の相対論的輻射流体力学で、輻射をエディントン近似で扱うと出てくる特異性を回避するため、速度依存性をもつ新しいエディントン因子を提案する、という仕事をされていて、その直接の結果として超相対論的ジェットモデルを得られた模様。相対論的プラズマの一般論を展開した20年ほど前の論文、Fukue et al.についてもちょっと言及されていたけど、そのころからの蓄積が、花開いたのですね。

お二方のお話いずれも、興味深くて刺激的でした。第一線で活躍している人は、やっぱり違うよね。

【4】休憩時間

講演会終了後、休憩時間中に、時計台の外に出て記念写真を撮影しました。

これがそれ:

2006年総会記念写真
記念写真。クリックで拡大します。

【5】創設21周年記念祝賀会

柴田一成氏の司会のまま、祝賀会は17時半開会。黒河会長の挨拶のあと、小暮智一氏のスピーチ。この間、筆者は大学院生さんと一緒に隣の総会会場の撤収作業をしていたため、

残念ながらお二人のお話は聞けずじまい(乞ご寛恕!)。あとで柴田さんにうかがったところ、宇宙会創設に関わる裏話とのこと。というわけで、皆さんアサヒスーパードライと京大・早稲田共同開発による古代エジプトの味、「ホワイトナイル」を手に、川口市郎氏による乾杯の音頭で、宴会へとなだれ込んだのでした。

さて、各テーブルは談笑に花を咲かせておりますが、筆者の基本姿勢はただただ黙って食を楽しむ。料理は立食ながら、なかなかに美味い。やるな、フレンチ「ラ・トゥール」。メインの魚料理があって、あれはスズキのポワレ?とにかく半身丸ごとドーン!が大皿にいくつも並んでいる。他にも魚料理があって、肉は控えめ、小品味良しと、メリハリがあって配慮の行き届いたメニューでした。欲を言えば、品数がもう少し多いと良かったかもね。筆者はコース3周してしまいましたよ。飲み物は・・・福江さんによると、赤ワインがおいしかったそうです。筆者はワインが苦手なので、水とビール、それから日本酒抱え込み。寿司を食べて、〆は日本蕎麦。満足満足。さすが、「ラ・トゥール」、覚えておくぜ、蕎麦食いに行くぜ。

今や宴たけなわ、筆者も酔いが回って前後不覚に陥る中、柴田さんのツボを押さえた司会進行でプログラムは着実に進み、数人の皆さんからスピーチをいただきました。まずは久保田さん。斉藤澄三郎氏からお酒の差し入れがあって、その説明でした。その後、初めて宇宙会に出席された皆様の、自己紹介を兼ねたスピーチ。NPO,学校経営、ジャーナリズム等々、宇宙物理に関わる人も、そこから離れた人も、皆さんそれぞれの分野で活躍されているご様子です。締めは前会長、北村静一氏。いやもう言うことありません、お元気そうで、何よりです。

・・・・・飲んで話して食べては聞いて、終始なごやかな雰囲気のうち、最後は盛大な拍手でお開きとなりました。

【6】解散

出席者の皆さんは、あるいはお一人で、あるいはグループで、三々五々、帰途につかれました。みなそれぞれに、よい笑顔。役員は居残って片付けの後、時計台の前で解散。お疲れ様でした。