CMO/ISMO 2020 観測レポート#05 

2020年五月の火星観測報告

 (λ=193°Ls ~λ=211°Ls)

村上 昌己

CMO #494(10 June 2020)


・・・・・・ 今期五回目のレポートは、『火星通信』に報告のあった五月中の観測と追加報告を纏めて取り上げる。

 


火星は、五月には上の図のよう「やぎ座」から「みずがめ座」へと順行を続けた。土星・木星は五月に相次いで「留」になり動きが少ない。火星の出は夜半過ぎにまで早まり、赤緯の上がったこともあり地平高度はだいぶ高くなってきたのが感じられる。

季節 (λ) は、193°Lsから211°Lsと進んで、傾き(φ)21°Sから24°Sと大きく南を向いてきて、融解の進む南極冠には内部に陰りの出てきている様子が捉えられている。視直径(δ)7.6"から9.3"と大きくなってきて、六月中旬には10.0”を越えてくる。位相角(ι)44°から46°台と大きくなり、夕方側が大きく欠けている。火星の北極方向角は大きくなり、日周運動で火星が逃げて行く方向(P)が下向きに大きくなっている。まだ南極冠が見えているので南北方向は出しやすいと思われるが、眼視観測ではしっかりと見極めて記録したい。

 

・・・・・・ 今回は、まずHellasの西側の様子を見てみようと思う。この季節の地域状況を良く捉えているのが、ウエズレイ氏の画像で(AWs 24 April 2020)、下図のように、同様な季節と中央経度(ω)のドン・パーカー氏の2003年の画像と比較してみても、ほとんど変わりがない (撮影機材と画像処理には格段の差がついている)

画像中にはパーカー氏のコメントを引用したので、地名の説明を加えてある。

 


M SerpentisYaonis Fretumの間の明部がYaonis Regionである。今年の画像でもHellasの西縁に沿って南北に明るさが延びていて、季節的なもののようである。M Serpentisの濃度は今年は少し落ちているように見える。Noachisは大きく薄暗い。パーカー氏の画像では認められるが、Hellespontusが南極冠に接するあたりには、ヘッレスポントゥスの凹地(Depressiones Hellesponticae)が、この後、濃度を増してくる。

 

ウエズレイ氏の424日の観測の直後に、オーストラリアのジャスティス氏(MJs)から報告された26日の画像には、Hellas内部の南西側に明るさが拡がっているのが認められている。B光画像にも明るさが見られて水蒸気混じりの黄塵の発生のようである。翌日もやや東側に拡散したが明るさが認められる。

 


 

次の日には、熊森氏の画像にも捉えられていて、翌29日にも同様にダストの活動が見られるが、弱まっているように思える。森田行雄氏(Mo)の画像にも同様にB光画像に明るさの拡がりが認められている。

 


 

日本からは5月はじめまでHellasの追跡が出来たが、この後は南アフリカのフォスター氏の写野に入ってきて、上旬中は大きな変化はなく捉えられている。中旬にはアメリカ側から、月末からは日本からの視野に入ったが、顕著なダスト活動は観測されていない。

 


 

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次いで、南極域の様子である。南半球の春分(λ=180°Ls)を過ぎて、南極冠の融解も早まり、視直径が小さいながらも極冠内の濃淡が捉えられるようになっている。ピックアップした熊森氏の画像では、Hellas南方の、Depressio Magna(マグナの凹地)を含む、Rima Australisの暗帯が、フォスター氏の画像では、Depressio Parva(パルワの凹地)が捉えられている。南極図を画像の中央経度(ω)に合わせて回転させてある。元になっている南極図は、「火星とその観測」佐伯恒夫著・恒星社厚生閣の図版からのコピーである。(右画像) この期間(λ=200°Ls~210°Ls)の南極冠の雪線は、およそ62°S ~65°S程度である。

 


 

南極冠の周辺部には融解が進むと、いくつもの輝点が認められるようになる。視直径の大きくなる次回に取り上げる。WinJuposを使用しての極方向からの展開図も作成できるようになると思う。

 

下記のリンクの論攷も参考として欲しい。

パルワ・デプレッシオの出現   [Forthcoming 2005 Mars (7) ]   CMO #304 (25 April 2005)

  http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn2/2005Coming_7j.htm

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以前にも取り上げたが、前回の接近時の黄雲の影響の残るところとして、Margaritifer SOxia Palusが淡くなって、AramからChryseの北東部に明るさが続いていることがある。このChryseの明部は、海老沢図によると東側はIndus、西側はHydaspes(ヒュダスペス)で区切られているように思える。熊森氏が捉えた明部(矢印)と該当する海老沢図(上記、佐伯氏著書の図版より一部分のコピー)の範囲を並べてみた。

 

 


 

今後、視直径が大きくなると詳細が捉えられるようになると思われるが。Hydaspesが濃化していれば約150年経っての復活劇である。Hydaspesに関しては、佐伯恒夫氏が「天界」に掲載された連載記事があるので紹介する。右側は、記事の参照とされた ”LA PLANÈTE MARS” E.–M. ANTONIADI (1930 PARIS) のセッキの1858年のスケッチが掲載されているページのコピーである。

 


 

その他、この期間の現象として、夕縁の山岳雲の活動は、南半球側のArsia Mons (121°Ω, 09°S)から東側にまだ見られていた。熊森氏の、11May, 13May フォスター氏の、21May, 23May等に捉えられている。

 

・・・・・・『火星通信』に寄せられた五月中の観測は、以下のようである。日本からは、今月から参加された石橋氏から3観測、熊森氏からは19観測(IR画像を含む)と森田氏から追加報告を含む7観測が寄せられた。五月も後半になると梅雨前の天候の悪さが出てきて、観測数は伸びなかった。

国外からは、アメリカ大陸方面から、チリテレスコープ遠隔使用のピーチ氏から追加観測が3観測、プエルト・リコのモラレス氏からは9観測であった。南半球からは、南アフリカのフォスター氏から17観測。オーストラリアからは、観測の報告がなかった。合計して、6名からの58観測で、四月の追加報告が9観測含まれる。ヨーロッパ側からはまだ報告がない。

 

   クライド・フォスター (CFs) センチュリオン、南アフリカ

   FOSTER, Clyde (CFs) Centurion, SOUTH AFRICA

   16 Sets of RGB + 16 IR Images (4, 5, 7, 9,~11, 13, 14, 16, 18, ~21, 23, 29, 31 May 2020) 

                                                   36cm SCT @ f/27 with an ASI 290MM

      https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_CFs.html

 

   石橋 力 (Is) 相模原市、神奈川県

   ISHIBASHI, Tsutomu (Is)  Sagamihara, Kanagawa, JAPAN

       3 Colour Images (11, 14, 29 May 2020) 31cm speculum, with an ASI 290MC

      https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_Is.html

 

   熊森 照明 (Km) 堺市、大阪府     

   KUMAMORI, Teruaki (Km) Sakai, Osaka, JAPAN

    9 Colour* + 8 B + 10 IR Images (1, 6, 7, 11, ~ 13, 19, 21, 23, 28, 29 May 2020)

                                  36cm SCT @ f/37 with an ASI 290MM & ASI 224MC*

        https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_Km.html

 

   エフライン・モラレス=リベラ (EMr) プエルト・リコ

   MORALES RIVERA, Efrain (EMr) Aguadilla, PUERTO RICO

   6 Sets of RGB + 2 colour + 8 IR Image (2, 8, 10, 13, 15, 18, 26, 30 May 2020)

      https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_EMr.html

 

   森田 行雄 (Mo) 廿日市市、広島県

   MORITA, Yukio (Mo) Hatsuka-ichi, Hiroshima, JAPAN

   1 Set of LRGB Images  (1 May 2020)  36cm SCT with an ASI 290MM

      https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_Mo.html

 

 

 

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   MORITA, Yukio (Mo) Hatsuka-ichi, Hiroshima, JAPAN

   6 Sets of LRGB Images  (15, 24, 27,~ 30 April 2020)  36cm SCT with an ASI 290MM

      https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_Mo.html

   PEACH, Damian A (DPc)  Selsey, WS, the UKRemote controlled the Chilescope

      3 Colour Images ( 15, 17, 18 April 2020)  Chilescope (100cm Richey Chretien)

      https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_DPc.html

 


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