CMO/ISMO 2020 観測レポート#06
2020年六月の火星観測報告
(λ=211°Ls ~λ=230°Ls)
村上 昌己
CMO
#495(
♂・・・・・・ 『火星通信』に報告のあった六月中の観測と追加報告を纏めて、今期六回目のレポートとする。アメリカ側からコンスタントに報告があるようになり、観測がどうにか繋がるようになった。日本からの報告は梅雨入り以後は少なく、間隔の開くことも多くなった。
火星は、六月には「みずがめ座」を進んで赤緯を上げて下旬には「うお座」へ入った。火星の出は早くなって、午前二時過ぎにはだいぶ高く上がっている。
視直径(δ)は、 9.3"から12日には10.0”を越えて、月末には11.5"に達し、撮影には十分な大きさになっている。季節 (λ) は、211°Lsから230°Lsと進んで、黄雲の発生する期間が進んでいて、注意深い観測が必要であった。20日過ぎから、アジア・オーストラリア側からの経度で観測される火星面でダストの活動が観測されたが、まだ視直径の小さいこともあり、多くの報告は寄せられなかった。日本では下旬からは梅雨前線が活動的になり、晴れ間が少なくなってしまった。傾き(φ)は24°台から23°台に戻ったが大きく南に傾いていて、南極冠の観測に最適の様子になっていた。位相角(ι)は46°台を推移して、下旬に最大となり、接近に向けて欠けが少しずつ減ってゆくが、まだ、夕方側が大きく欠けている。火星の北極方向角は-20°をこえて、日周運動で火星が逃げて行く方向(P←)が下向きにさらに大きくなっている。まだ南極冠が見えているので南北方向は出しやすいと思われるが、眼視観測ではしっかりと見極めて記録したい。
♂・・・・・・ まずは、6月20日過ぎに発生した、ダスト・イベントの概況である。23日(λ=225°Ls)の画像に添えた熊森氏のメールには「6月23日分火星です。ダストが広がっているようです。」とあり、10日程前に撮影されたピーチ氏の画像と比較すると、gangesの東側のXantheに明部が南北に拡がりその東側のChryseの明部とも繋がってV字型になっているのが判る。Aurorae Sを横切って明帯は延びてOphirと繋がって見えている。淡い明るさはM Erythraeumにも拡がって、南方のArgyre方面へも拡がっている。西方のSolis L方向にも分枝が見られる。
前の日の観測は入信が無く様子がわからないが、20日の熊森氏の画像では夕縁のOphir- CandorあたりがB画像で夕靄の明るさが感じられる程度であった。
翌24日(λ=226°Ls)の画像はやや解像度が上がって、拡散したダストの様子が捉えられている。Solis Lの東側に小さな共鳴黄塵があるように思える。Aurorae S周辺は、Eosに延びるValles Marinerisの低い谷筋にダストが詰まっているようで明るく見えている。Aurorae Sの南側の暗部が細く切れ目が入っている。これは2018年のダスト・イベントの時にも同様に地形に沿って認められている。
次の画像は、MGCのMOLAの高低図にViking撮影の地形図を、暗色模様の高低差が判るように重ねたものである。マークは下のESOのMars Express衛星のVMCに拠る画像に、Vallis Marinerisの東側の谷筋がダストで明るい画像として捉えられている場所に対応する。
26日(λ=227°Ls)の熊森氏の画像は解像度は悪いが、おおよそのダストの範囲が判る。東側への発展は見られず、Aurorae Sから南へは暗帯が残っている。西側へはDeucalionis Rに向けて伸び込んでいるようである。Chryse-XantheやVallis Marinerisも明るさが残っているし、Argyreの明るさもはっきりしている。28日(λ=229°Ls)には天気が回復して、熊森氏の所ではやや解像度の良いシリーズ画像が得られている。大きな変化はないようだが、Margaritifer Sあたりがだいぶ淡くなっている。その後はわが国は天候の悪化で観測が入らなかった。7月1日(λ=230°Ls)の熊森氏の画像には、Noachisに明部の拡がりが見えている。Argyreあたりも北側に向かってダストの拡がりが認められる。
以後は、ダストの活動域は日本からの視野から離れていった。外国からの報告を見ても全体はダストに覆われて暗色模様が淡くなっているが、爆発的なダストの活動はなく局所的に収まっているようである。しかし何時大規模なダスト・イベントが起きてもおかしくない状況で、注意深い監視が必要である。以後は7月の活動報告に続く事となる。
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次いで、南極域の様子である。南極冠の融解もすすんで、極冠内には濃淡がはっきり認められるようになっている。20日・21日(λ=224°Ls)にかけては3方向から南極冠の様子が捉えられていて、極座標での展開図で画像を纏めてみた。ゴルチンスキー氏(PGc)とフォスター氏(CFs)の画像では、Depressio Magna(デプレッシオ・マグナ)が濃く捉えられていて、Rima Australis(リマ・アウストラリス)の暗帯も明確である。熊森氏(Km)の画像では極冠の周辺に輝点が認められてThyles Mons(チュレス・モンス)として分離してくる場所である。Novus Mons(ノゥオス・モンス=ミッチェル山)として、分離してくる場所も明るさが強くなっている。また、Argyre南方の南極冠が偏芯して最後まで残るところのMons Argenteus(モンス・アルゲンテウス)も明るさが強くなっている。
上図中央には、アントニアジの著書からコピーした南極図を引用している。眼視観測でも正確に捉えられていたのがみてとれる。右図にはゴルチンスキー氏の23日(λ=225°Ls)の南極冠の様子を展開図とした。Novus Monsが明確で、Argyre南方の明部も明るく、060°Wの経度線に沿って南北に延びる、Rima Angusta (リマ・アングスタ) の暗線も捉えられているように思える。
これからも南極冠の融解が進み、λ=240°Ls頃から(7月中旬)は南極冠の偏芯が始まる。M.Cimmeriumの南の経度210°Wの付近が早く消滅してしまい。薄っぺらな南極冠に見えるようになってしまう。Novus Monsの南極冠からの分離はλ=260°Ls頃(8月中旬、δ=16”)、消滅はλ=280°Ls頃(9月中旬、δ=21”)と視直径が大きくなっている期間となる。
あらためて、下記のリンクの論攷も参考として欲しい。
パルワ・デプレッシオの出現 [Forthcoming 2005 Mars
(7) ] CMO #304 (25 April
2005)
http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn2/2005Coming_7j.htm
また、この季節の様子は、2003年にはもう少し大きな視直径の時にあたり。以下のインデックスページの、#10, #11 が、同様の季節の火星面の観測記録となっている。2003年7月に、わが国からS Sabaeusを横切る黄雲が観測されたときである。南極冠内部の観測や周囲の輝点等の観測も詳しく解説された記事になっている。
2003 Repo index page
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmohk/2003repo/index03.html
(画像のリンクが右フレームに開かないときには、右クリックで、「別なタブで開く」などを選択すればよい。)
♂・・・・・・『火星通信』に寄せられた六月中の観測は、以下のようである。日本からは、阿久津氏が今月から参加された。アメリカからは、ゴルチンスキー氏が望遠鏡をC14に変更して、ロゾリーナ氏とともに報告を寄せ始めた。フォスター氏の活躍もあって観測が繋がるようになっている。
わが国からの報告は、阿久津氏が追加観測も含めて8観測、石橋氏からは2観測、熊森氏からは26観測(IR画像を含む)などが寄せられた。梅雨時の晴れ間を狙っての観測でご苦労が多いことと思われる。
国外からは、アメリカ大陸方面から、ゴルチンスキー氏がコンスタントに観測されて、30観測(IR画像が多い)、チリテレスコープ遠隔使用のピーチ氏から追加観測を含めて7観測、プエルト・リコのモラレス氏からは5観測であった。南半球からは、南アフリカのフォスター氏から10観測。オーストラリアからは、今月も観測の報告がなかった。合計して、9名からの92観測で、追加報告が7観測含まれる。赤緯も上がってきているが、ヨーロッパからの報告はまだ無い。
阿久津 富夫 (Ak) 常陸太田市、茨城県
AKUTSU, Tomio (Ak) Hitach-Oota,
5 sets of RGB+ 1 Colour* + 6 IR + 1 UV
Images (5, 8, 19, 28 June 2020)
45cm
spec with an ASI 290MM & ASI 224MC*
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_Ak.html
クライド・フォスター (CFs) センチュリオン、南アフリカ
FOSTER,
Clyde (CFs) Centurion,
9 Sets of RGB
+ 9 IR Images (2, 4, 7, 21, 23, 25,~27, 29, 30 June 2020)
36cm
SCT @ f/27 with an ASI 290MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_CFs.html
ペーター・ゴルチンスキー (PGc) コネチカット、アメリカ合衆国
GORCZYNSKI, Peter (PGc) Oxford, CT, The
15 Sets of RGB + 28 IR images (1, 7, 8, 10,
13,~17, 20,~23, 26, 27 June 2020)
36cm SCT with an ASI 290MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_PGc.html
石橋 力 (Is) 相模原市、神奈川県
ISHIBASHI, Tsutomu (Is)
Sagamihara,
2 Colour
Images (9, 16 June 2020) 31cm
speculum, with an ASI 290MC
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_Is.html
熊森 照明 (Km) 堺市、大阪府
KUMAMORI,
Teruaki (Km) Sakai, Osaka, JAPAN
15 Colour*
+ 11 B + 11 IR Images (2, 7, 8, 20, 23, 24, 26, 28 June 2020)
36cm
SCT @ f/37 with an ASI 290MM & ASI 224MC*
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_Km.html
エフライン・モラレス=リベラ (EMr) プエルト・リコ
MORALES
RIVERA, Efrain (EMr) Aguadilla,
4 Sets of RGB + 5 IR Image
(3, 6, 19, 21,
31cm SCT with an ASI 290MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_EMr.html
尾崎 公一 (Oz) 稲沢市、愛知県
OZAKI,
Kimikazu (Oz) Inazawa,
3
Sets of Colour images (20, 26, 28 January 2020) 44cm Spec with an ASI 290MC
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_Oz.html
デミアン・ピーチ (DPc) ウエスト・サセックス、英國
PEACH, Damian A (DPc)
Selsey, WS, the UK, remote
controlled the Chilescope Team in
1 Colour Image
(14 June 2020) Chilescope
(100cm Richey Chretien)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_DPc.html
ミカエル・ロゾリーナ (MRs) ウエスト・バージニア、アメリカ合衆国
ROSOLINA, Michael (MRs) Friars Hill, WV, the
2 Colour Drawings
(13, 23 June 2020) 35cm SCT, 330×, 390×
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_MRs.html
♂・・・・・・ 追 加 報 告
AKUTSU, Tomio (Ak) Hitach-Oota,
1 Colour Image
(1 May 2020) 45cm spec with an ASI
224MC
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_Ak.html
PEACH, Damian
A (DPc) Selsey,
WS, the UK,Remote
controlled the Chilescope
6 Colour Images (
21, 29 April; 7, 8, 15, 16 May 2020) Chilescope
(100cm Richey Chretien)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_DPc.html