CMO/ISMO 2020 観測レポート#10
2020年九月後半の火星観測報告
(λ=279°Ls ~λ=288°Ls)
村上 昌己
CMO
#499(
♂・・・・・・ 今期10回目のレポートは、『火星通信』に報告のあった九月後半の観測と追加報告を記録する。日本では、この期間も秋雨前線の影響があり、観測の条件は良くなかった。月末になって、やや晴天傾向になったが、不安定な天気が続いていた。視直径が大きくなって観測報告数も増えているが、ヨーロッパからの観測報告は少ない。また冬の南半球からも、赤緯の上がったこともあり報告数は少なかった。
火星は、上の図のように、九月9日の「留」をすぎて「うお座」で逆行を続け接近してきた。逆行になって南中時刻もどんどん早くなってきて、下旬には午前零時台になって、20時過ぎには東の空に昇ってきている。視直径(δ)はδ=21.0"から、月末にはδ=22.4”にまで増加して、今接近の最大視直径(δ=22.6”)に近づいてきた。季節 (λ) は、279°Lsから288°Lsとすすんだ。傾き(φ)は17°S台から19°Sに戻って、縮小を続ける南極冠の最終段階を観測できるチャンスになっている。位相角(ι)は、24°台から13°台にまで急速に減って、朝縁の靄が写り始めている。
♂・・・・・・ 九月後半の火星面の様子を以下に項目を分けて記述する。使用した画像は、並べるためにサイズの調整をしてあることをお断りしておく。元画像はギャラリーを参照されたい。
1) タルシス三山やオリュムプス・モンス周辺の地形による凹凸模様
タルシス三山やオリュムプス・モンスを含む地域の地形の陰影は、まだ捉えられている。期間中の画像を並べてみた。オリュムプス・モンスには、楯状台地の中央にカルデラ丘が認められる。さらに位相角が小さくなると見え方も変わってくると思われる。オリュムプス・モンスの衝効果も感じられるようになってくる。
Olympus Monsの位置にマーク(O.M)を付けてある。今回も下にMOLA(The Mars Orbiter Laser
Altimeter)による地形図を比較の為に掲載した。
MOLAの地形図は以下のサイトから取得した画像を用いた。
https://attic.gsfc.nasa.gov/mola/images/mercat_med.jpg
2) Arsia Monsの山岳雲
アルシア雲は活動が継続していて、夕縁に近づいて来るとシュリアあたりにも明るさが出てきて、W型雲の様相になってきている。この期間の夕縁に近づいた時のカラー画像を取り上げる。
次には、B光画像での中央経度の違いによるアルシア雲の掛かり方を比較してみた。火星地方時 (MLT: Martian Local Time) の違いによる発達の様子である。MLTはArsia Mons (Ω=121°W, 9°S)での計算である。午後早い時間からの発生が認められる。少し季節が進んでも午前中には発生していないようである。
また、28 Sept (λ=286°Ls) に得られたB光での連続画像を示す。熊森氏、近内氏、ヴァリムベルティ氏の画像を用いた。
今回も再掲するが、以下の論攷はこの時期の、夕方のアルシア雲の第二のピークに関しての考察である。南氏により詳しく調べられているので是非参考にして欲しい。
* 「2005年のアルシア夕雲」 “The Arsia
Evening Cloud in 2005”
[CMO 2005 Mars Note (4)] CMO #321 (
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn3/CMO321.pdf (p0417-)
3) 縮小を続ける南極冠の様子
南極冠は縮小の最終段階でかなり小さくなったが、張り出している部分の雪線は80°S程をまだ保っている。前回の接近ではλ=332°Lsまで、小さくなった南極冠が認められた。この時の視直径はδ=6.3”であった。今接近で同じ季節になるのは2020年12月中旬で、視直径は12”程の大きさを保っている。また、南半球の秋分(λ=360°Ls)を過ぎると南極点は、影の中となり日光が遮られてしまう。最終段階が何時になるか、これから寄せられる画像での追跡に期待している。
4) 北半球の様子と北極雲の形成
ここには各氏から寄せられた画像を、経度を追って並べて発達中の北極雲の様子を概観する。
活動は、マレ・アキダリウム(M Acidalium)や、ウトピア(Utopia)の南方に張り出しているのが認められるが、傾きが再び南に戻っていて、やや見え難くなってくる。上段中央の 22 Sept (λ=282°Ls) Ian SHARP氏の画像に見られるように、M Acidaliumの北部が北極雲から透けて見えている「ドーズのスリット」の感じられる画像も見られるようになっている。
ドーズのスリットに関しては、次の論攷が参考になる。
「北極域の重要觀測期間(ドーズの1864年の觀測に寄せて)」Forthcoming
2005 Mars (9) CMO#305
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn2/2005Coming_9j.htm
「北半球の季節」
Forthcoming 2007/2008 Mars (3) CMO#327
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn2/2007Coming_3j.htm
エリュシウム(Elysium)も形がはっきりするようになっていて、フレグラ(Phlegra)とアエテリア(Aetheria)の暗斑に囲まれた五角形の明るさの中には、エリゥシウム・モンス(Elysium Mons)とヘカテス・トーラス(Hecates Tholus)が、小さな光点として認められるときがある。上のMOLAの地形図に位置を示した。
位相角が小さくなって、朝縁がだいぶ見えるようになってきて、朝靄の明るさが感じられるようになっているのは、上の画像からも判ることと思う。「衝」の後は、朝縁に掛かる朝靄の様子を捉えることも観測目標となってくる。
5) ヘッラスの様子
この期間、ヘッラス(Hellas)は地肌が見えていて、靄の掛かることもなく朝から夕方までの、明るさや見え方の変化は少なかった。ここでは、近内氏と吉澤氏の連続画像でご覧いただく。
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今回のレポートと同様の季節を観測した2005年のレポートは以下のリンクから辿れる。
「16 Aug 2005 (λ=270゚Ls)から15 Sept 2005 (λ=289°Ls) の火星面觀測 」
“CMO 2005 Mars Report #10” CMO#309 (25 September 2005)
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn2/CMO309.pdf
2005年の『火星通信』pdf版のインデックスは、下記の第2シリーズインデックスページ(CMO#300〜)の下段にある。
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn0/hp_Indexes.htm
♂・・・・・・『火星通信』に寄せられた九月後半の半月間の観測報告の集計は次のようである。わが国からの報告は、七名の方から51観測の報告があった。秋雨前線の曇天傾向でみなさん観測数を落としている。国外からは、アメリカ大陸方面からは六名から28測、ヨーロッパ側からは、六名から17観測(追加観測2)の報告があった。南半球からは、南アフリカのフォスター氏から2観測。オーストラリアからは、三名から7観測の報告が入った。合計して、23名からの105観測で、九月前半よりだいぶ少なかった。
阿久津 富夫 (Ak) 常陸太田市、茨城県
AKUTSU, Tomio (Ak) Hitach-Oota,
1 Set of RGB +
2 IR + 2 UV Images (21 September 2020) 45cm spec with an ASI 290MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_Ak.html
リチャード・ボスマン (RBs) エンスヘデー、オランダ
BOSMAN, Richard (RBs) Enschede,
The
1 Set
of RGB Images (22 September 2020)
36cm SCT with a Basler 640
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_RBs.html
マチュイ・チュピタ (MCz) シュチェチン、ポーランド
CZEPITA, Maciej (MCz)
2 Colour Images (22, 30 September 2020) 15cm speculum with a Fujifilm
JX600 camera
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_MCz.html
ビル・フラナガン (WFl)
テキサス、アメリカ合衆国
FLANAGAN,
William (WFl) Houston, TX, the
4 Sets of LRGB
+ 1 IR Images (16, 26, 27, 30 September 2020)
36cm SCT @f/22 with a PGR GS3-U3-32S4M-C
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_WFl.html
クライド・フォスター (CFs) センチュリオン、南アフリカ
FOSTER, Clyde (CFs) Centurion,
2 Sets of RGB
+ 2 IR Images (19, 26 September 2020) 36cm SCT with an ASI 290MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_CFs.html
ペーター・ゴルチンスキー (PGc) コネチカット、アメリカ合衆国
GORCZYNSKI, Peter (PGc) Oxford, CT, The
5 Sets of RGB
+ 4 IR images (17, 19, 21, 24, 25 September 2020) 36cm SCT with an
ASI 290MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_PGc.html
エド・グラフトン (EGf) テキサス、アメリカ合衆国
GRAFTON, Edward A (EGf) Houston,
TX, the
2 LRGB
Images (16, 26 September 2020) 36cm
SCT @ f/17 with an ASI 120MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_EGf.html
ロバ−ト・ヘフナー (RHf) 大阪府、日本
HEFFNER, Robert (RHf)
Osaka, JAPAN
4 Colour Images (21, 27*, 28* September 2020) 28cm SCT with an ASI 224MC & 290MM *
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_RHf.html
石橋 力 (Is) 相模原市、神奈川県
ISHIBASHI, Tsutomu (Is) Sagamihara,
2 Colour Images (18 September 2020) 31cm speculum, with an ASI 290MC
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_Is.html
近内 令一 (Kn) 石川町、福島県
KONNAÏ Reiichi (Kn) Ishikawa,
6 Colour + 2 B Images ( 16, 28 September 2020) 41cm SCT with an ASI 290MC
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_Kn.html
工藤 英敏 (Kd) ケアンズ、オーストラリア
KUDOH, Hidetoshi (Kd)
Cairns,
2 Colour Images (21, 27 September 2020) 20cm Spec with
a QHY5L-II-C
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_Kd.html
熊森 照明 (Km) 堺市、大阪府
KUMAMORI, Teruaki (Km)
Sakai, Osaka, JAPAN
8 Colour* + 4 B + 5 IR Images (21, 27,~
29 September 2020)
36cm SCT @ f/37 with an ASI 290MM & ASI 224MC*
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_Km.html
フランク・メリッロ (FMl) ニューヨーク、アメリカ合衆国
MELILLO, Frank J (FMl) Holtsville, NY, the
5 Colour + 6 (610nm)* Images (16, 20, 22, 24,
27,
25cm SCT with an
ASI120MC & DMK21AU618.AS*
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_FMl.html
エフライン・モラレス=リベラ (EMr) プエルト・リコ
MORALES RIVERA, Efrain (EMr)
Aguadilla,
2 Sets of RGB
+ 2 Colour+ 1 IR Images (16, 20, 26, 30 September 2020)
31cm SCT with an ASI 290MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_EMr.html
尾崎 公一 (Oz) 稲沢市、愛知県
OZAKI, Kimikazu
(Oz) Inazawa,
19 Colour images
(21, 27, 28 September
2020) 44cm Spec with an ASI 290MC
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_Oz.html
デミアン・ピーチ (DPc)
ウエスト・サセックス、英國
PEACH, Damian A (DPc) Selsey, WS, the
5 Colour + 1 B Images (16*, 20, 22, 30 September
2020)
36cm SCT, 100cmRC* with an ASI 290MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_DPc.html
ミカエル・ロゾリーナ (MRs) ウエスト・バージニア、アメリカ合衆国
ROSOLINA, Michael (MRs) Friars Hill, WV, the
1 Colour Drawing (22 September 2020) 35cm SCT, 355× ,391×
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_MRs.html
イアン・シャープ (ISp)
ウエスト・サセックス、英國
SHARP, Ian (ISp) Ham,
near Selsey, WS, the
3 Colour Images (21, 22, 29 September 2020) 28cm SCT With an ASI 290MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_ISp.html
モーリス・ヴァリムベルティ (MVl) メルボルン、オーストラリア
VALIMBERTI, Maurice (MVl) Melbourne,
2 Colour
+ 2 B Images (28 September 2020) 30cm Spec @f/17 with an ASI
290MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_MVl.html
ヴォロージャ・ヴェルコフ (VVk) ソフィア、ブルガリア
VELKOV, Volodya (VVk)
1 Colour Image (22 September 2020) 24 cm SCT, with an iNOVA
PLB CX
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_VVk.html
ヨハン・ワレッル (JWr) スキヴァルプ、スウェーデン
WARELL, Johan (JWr) Lindby,
1 Colour + 2 IR Images (16 September 2020) 53cm speculum @f/12 with an ASI
462MC
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_JWr.html
アンソニー・ウエズレイ (AWs)
クイーンズランド、オーストラリア
WESLEY, Anthony (AWs)
4 Colour
+ 1 B + 1 IR + 2 UV Images (16, 20, 27, 29 September 2020)
42cm speculum with a BFLY-PGE-31S4M-C camera
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_AWs.html
ティム・ウイルソン (TWl) モンタナ、アメリカ合衆国
WILSON, Tim (TWl) Jefferson City, MO, the
6 IR・RGB + 5 IR
Images (17,~19, 21, 23, 29 September 2020) 36cm SCT with an ASI290MM
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_TWl.html
吉澤 康暢 (Ys) 福井市、福井県
YOSHIZAWA,
Yasunobu (Ys) Fukui,
JAPAN
12 Colour
Images (21, 28 September 2020)
20cm refractor* with an ASI 290MC
* Observatory of the Fukui City Museum of Natural History
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_Ys.html
♂・・・・・・ 追加報告
リチャード・ボスマン (RBs) エンスヘデー、オランダ
BOSMAN, Richard (RBs) Enschede,
The
1 Set
of RGB + 5 Colour Images (14 September
2020) 36cm SCT with a Basler 640
https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_RBs.html