CMO/ISMO 2020 観測レポート#15 

2021年一月の火星観測報告

 (λ=341°Ls ~λ=357°Ls)

村上 昌己

CMO #504 (10 February 2021)


・・・・・・ 今接近15回目の観測レポートを『火星通信』に報告のあった2021年一月の観測をもとに纏める。この期間に火星は「うお座」から「おひつじ座」へと順行を続けて、122日に「東矩」となり、同日に天王星を追い越した。視赤緯は、11°N台から16°N台まで昇って、北半球では日没後には天頂近い空に高く見えるようになったが、視直径も一桁となって欠けも大きく、光度はプラス等級になって輝きは弱く、観測期終盤が実感できる。全体の報告数も大きく減少した。

 


 

一月には、視直径(δ) は月初の10.4秒角から月末には7.9秒角まで減少した。季節(λ) は、341°Lsから357°Lsまで動いて、南半球の秋分(000°Ls)間近にまで進んだ。傾き(φ) は、23°Sから、月末には18°S台にになり、南極地は見え辛くなっていった。位相角(ι) は、39°台を推移して下旬には最大39.6°となった。

一月になっても、火星面にはダストイベントなど顕著な活動はおこらなかった。傾きは北を向いてきて、北縁の様子が垣間見られるようになってきた。

 

 

・・・・・・ 一月の火星面の様子を以下に記述する。使用した画像は、並べるためにサイズの調整をしてあることをお断りしておく。元画像はギャラリーを参照されたい。

 

1) 最終段階の南極冠の様子

 はじめに一月中の南極域の様子を取り上げる。傾きも小さくなり、グリッド図で示すように季節は南半球秋分の近くとなり南極は蔭に入ろうとしている。

 


 


 

 寄せられた画像から、南極冠の識別できるものを取り上げると、月初めには各氏の画像に小さく認められていたが、メリッロ(FMl)氏の11 Jan (λ=346°Ls)の画像の後には、はっきり認められるものはなく、中旬以降は、南極域には南極雲のベールが薄く拡がっているようになっている。

 前回の接近では、南極冠がはっきり認められたのは、ルウィス(MLw)氏の 2 Feb 2019 (λ=345°Ls, δ=5.5”) の画像で、2005年では、ピーチ(DPc)氏とペリエ(CPl)氏の 25 Dec 2005 (λ=345°Ls, δ=12.9”) の画像に捉えられていて、今回の最終確認と同様の季節(λ)であった。

 

 

2)  北縁の様子

 傾き(φ)もだいぶ北向きに戻ってきて北縁には北極域の青味のある明るさが各氏の画像に捉えられている。図には、日付順にいろいろな経度の画像を並べてみた。マレ・アキダリウム(M Acidalium)やウトピア(Utopia)の見える経度では北に張り出しているのが感じられる。

 


 

 

3)  ヘッラスの夕方から朝方まで

 プエルト・リコのエフライン・モラレス(EMr)氏は、下記のリストのように期間を通じての観測があり、中旬からはヘッラス(Hellas)領域の夕方から朝方までを連続して捉えているので日付順に並べてみた。30.5cmSCT, ASI290MMを使用しての撮影で、カラー画像合成時にRGBIRGBのフィルターの組み合わせの違いがあり、最下行に示している。また、同様なωの各氏から寄せられた画像を下段に並べてある。こちらの日付は順不同である。

 この時期のヘッラスは、朝縁での朝靄は内部に入って薄れていく様子である。地肌が見えいてるようで、北東部が明るく、東縁に沿って明るさが南方に延びている。位相角が大きく真の夕縁の様子は捉えられないが、明るさが感じられる。

 


 

 

4)  11月の黄雲活動の動画

 熊森氏は、ご自身撮影の11月黄雲発生時からの画像を、展開して動画に纏めて送って来られた。来信のページでも紹介してあるが、あらためてここにも収録する。

 


 

 この動画には、12日発生の前駆現象としての前日11日の様子からが収録されている。”Dust Storm Began” としてマークされたところは、2005に見られたダストイベントの時にも、前日にフラナガン(WFl)氏により下図のように捉えられていて発生場所も酷似している。この現象は「クリュセの菱形明班現象」として、CMO#312 (10 Nov 2005)に取り上げられている。

 この様子は今回のダストイベントでは、熊森氏の他にもヘフナー氏が指摘している。他にも、石橋 力氏、中村健三氏、吉澤康暢氏の画像に捉えられていると思う。

 


 

このほかにも、アラム(Aram)での黄塵発生の様子や、 シヌス・メリディアニ(S Meridiani)の黄雲に隠されている様子など、発生初期の酷似ばかりでなく、その後の発展の様子にも似ているところがあり、以下の “ CMO Mars 2005 Note” インデックスページから当時の解析記事にリンクが繋がっているので、参考にされたい。

 https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/2005NoteIndex.htm

 

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今回のレポートと同様の季節を観測した2005年度接近のレポートは以下のリンクから辿れる。

2005年十二月後半・2006年一月前半(16 Dec 200515 Jan 2006 )の火星面觀測(λ=341°Ls ~357°Ls)

CMO 2005 Mars Report #16  CMO#315 (25 January 2005)

https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn2/CMO315.pdf

 

2006年一月後半・二月前半(16 Jan 200615 Feb 2006 )の火星面觀測(λ=357°Ls ~012°Ls)

CMO 2005 Mars Report #17  CMO#316 (25 February 2005)

https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn2/CMO316.pdf

 

2005年の『火星通信』pdf版のインデックスは、下記の第2シリーズインデックスページ(CMO#300)の下段にある。

https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn0/hp_Indexes.htm

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・・・・・・ 一月の観測報告

  2021年一月の観測の集計は次のようである。日本からの報告は、五名の方から30観測の報告があった。熊森氏は、上の階のベランダにけられるようになり今期の観測を終了した。これまでの切れ目無い報告に感謝したい。他の方も視直径の低下と冬場の天候・シーイングの悪さで観測報告は減ってしまった。

国外からは、アメリカ大陸方面からは、五名から34観測(追加観測5)と、こちらも観測者数が減ってしまった。ヨーロッパ側からは、スウェーデンのワレッル氏から追加観測を4観測含む11観測の報告があった。ピーチ氏からは、チリスコープ画像を含む追加報告の5画像が送られてきている。ワレッル氏は赤緯が上がったこともあり、寒さは厳しいものの、まだ撮影が出来るようである。南半球からは、南アフリカのフォスター氏から1観測の報告があっただけで、オーストラリアからは報告が入らなかった。合計して、12名からの78観測で、報告数は大幅に減少した。

 

それぞれの観測者の画像はリストのリンクから辿れる。

 

  阿久津 富夫 (Ak)  常陸太田市、茨城

   AKUTSU, Tomio  (Ak)  Hitach-Ohta, Ibaraki, JAPAN

      2 Sets of RGB + 2IR + 2 UV Images  (9, 25 January 2021)  45cm Newtonian (F/4) with an ASI 290MM

       https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_Ak.html

 

  ビル・フラナガ (WFl) テキサス、アメリカ合衆  

   FLANAGAN, William (WFl) Houston, TX, the USA

      3 Sets of LRGB + 3 IR Images (4, 5, 6 January 2021)  36cm SCT @f/22 with a PGR GS3-U3-32S4M-C

       https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_WFl.html

 

  クライド・フォスター (CFs) センチュリオン、南アフリ

   FOSTER, Clyde (CFs) Centurion, SOUTH AFRICA

      1 Set of RGB + 1 IR Images (18 January 2021)  36cm SCT with an ASI 290MM

       https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_CFs.html

 

   リチャード・ヒ (RHi)  アリゾナ、アメリカ合衆国

   HILL, Rechard (RHi) Tucson, AZ, the USA

     4 Colour + 4 IR Images (5, 16,~18 January 2021) 

                                   20cm Mak-Cassegrain (F/20) with a Skyris 132C & 132M

       https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_RHi.html

 

   石橋  (Is) 相模原市、神奈川県

   ISHIBASHI, Tsutomu (Is)  Sagamihara, Kanagawa, JAPAN

     10 Colour + 1 B Images (8, 13, 14, 18, 20, ~22, 25, 31 January 2021)

                                       31cm Newtonian (F/6.4) with an ASI 290MC

       https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_Is.html

 

   近内 (Kn) 石川町、福島県

   KONNAÏ Reiichi (Kn) Ishikawa, Fukushima, Japan

      1 Colour + 7 IR Images (3, 9, 10, 30 January 2021)   41cm SCT with an ASI 290MC

       https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_Kn.html

 

   熊森 照明 (Km) 堺市、大阪府

   KUMAMORI, Teruaki (Km) Sakai, Osaka, JAPAN

     1 LRGB Colour + 1 B + 1 IR Images (2 January 2021)    36cm SCT @ f/37 with an ASI 290MM 

       https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_Km.html

 

   フランク・メリッ (FMl) ニューヨーク、アメリカ合衆国

   MELILLO, Frank J (FMl)  Holtsville, NY, the USA

      9 Colour + 1 (610nm)* Images (5, 8, 11, 15, 19, 22, 31 January 2021) 

                            25cm SCT with an ASI120MC & DMK21AU618.AS*

       https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_FMl.html

 

   エフライン・モラレス=リベラ (EMr) プエルト・リコ 

   MORALES RIVERA, Efrain (EMr) Aguadilla, PUERTO RICO

      3 RGB Colour + 9 IR-GB Colour Images (1. 3, 6, 7, 11, 13, 16, 18, 21, 23, 25, 29 January 2021)

                                         31cm SCT with an ASI 290MM

       https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_EMr.html

 

    尾崎 (Oz)  稲沢市、愛知県

   OZAKI, Kimikazu (Oz)  Inazawa, Aichi, JAPAN

     13 Colour images  (13, 15, 21 January 2021)  44cm reflector with an ASI 290MC

       https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_Oz.html

 

   ヨハン・ワレッ (JWr) スキヴァルプ、スウェーデン

   WARELL, Johan (JWr)  Lindby, Skivarp, SWEDEN

      5 Colour + 8 IR Images (12, 15, 16, 26 January 2020)  53cm Newtonian @f/14 with an ASI 462MC

       https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_JWr.html

 

 

・・・・・・ 追加報告

   リチャード・ヒ (RHi)  アリゾナ、アメリカ合衆国

   HILL, Rechard (RHi) Tucson, AZ, the USA

     2 Colour + 2 IR Images (24 November 2020)  15cm SCT with a Skyris 132C & 132M

       https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_RHi.html

 

  デミアン・ピー (DPc)  ウエスト・サセックス、英國 (チリスコープ遠隔操作*)  

   PEACH, Damian A (DPc)  Selsey, WS, the UK (remote controlled the Chilescope Team in CHILE*)

      5 Colour Images (15*, 23, 29 October; 11*, 22* November 2020)  

                                         36cm SCT with an ASI 290MM, 100cm Richey Chretien*

        https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_DPc.html

 

 ヨハン・ワレッ (JWr) スキヴァルプ、スウェーデン

   WARELL, Johan (JWr) Lindby, Skivarp, SWEDEN

      3 Colour + 3 IR Images (19, 24, 25 December 2021)  53cm Newtonian @f/14 with an ASI 462MC

       https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_JWr.html

 


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