CMO/ISMO 2020 観測レポート#21

2020年接近の火星観測報告集計

 村上 昌己

CMO #510 (10 August 2021)


・・・・・・ 今期21回目となる観測レポートは、今回の接近中に『火星通信』に寄せられた報告の集計を示して、2020年接近の締めくくりとする。火星は七月には「かに座」から「しし座」へと進んで太陽との離角は小さくなっていった。七月13日には日没後の空で金星と接近した。筆者の場所では天気が悪く眺めることは出来なかったが、ケアンズの工藤氏から15日の画像が入っている。画像は「編集後記」の方に掲載した。

 


 

・・・・・・ 七月の観測報告

  2021年七月の観測報告は、メリッロ(FMl)氏からの入信はなく、ルウィ (MLw)氏から1観測の報告だけであった。19日受信の添えられていた電文は以下のようである。

“My final Mars of the apparition an IR image in full daylight 45mins before sunset with an IR filter to steady the views. Just too difficult to follow it any longer. Nice to go out on an image showing some details, with Syrtis Major coming in on the left and Sinus Sabeus at the top.  Best Regards,  Martin

 

   マーチン・ルウィス (MLw) セント・アルバンス、英国

   LEWIS, Martin (MLw) St. Albans, Hertfordshire, the UK

      1 IR Image (16 July 2021) 45cm Dobsonian, with an ASI 224MC

         https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2020/index_MLw.html

 

この報告をもって、2019121日受信の、Tim Wilson (Jefferson City, Mo. USA)からの、10月・11月の報告から始まった、今接近のギャラリーへの画像の開陳は終了した。

 

 

・・・・・・ 2020年接近の観測集計

 今接近の報告は、42名の方々から合計2683件であった。1件としては、火星面経度(ω)5゚違うものをIR画像を含めて数えている。各地域ごとの内訳は以下のようになった。

 日本 (13名、1602観測)南北アメリカ (12名、613観測/ピーチ氏のチリスコープの51観測を含む)

 ヨーロッパ (12名、284観測)アフリカ (1名、126観測)オーストラリア (5名、58観測)

 

 次には月別の報告数の推移を現すグラフを示す。

 


 

 報告数・観測者数共に、10月の「衝」と「最接近」の時期と、ダストイベントのあった11月に多くなっている。7月の少なさと9月の落ち込みは、日本での天候の悪さによるもので、次の報告数の多い方の月別集計でも日本の観測の落ち込みが判る。

 


 

 日本からの報告数の最高は熊森(Km)氏で、高画質のL画像とカラーカムの画像を組み合わせたLRGB画像とB光・IR光画像の組み合わせで、多くの詳細を示す画像の報告があった。実際はもっと多数の画像を撮影されているものと思う。写野が上階のベランダにケラレてしまう状況で、2021年一月には早々に撮影が不可能になってしまった。

沖縄の伊舎堂(Id)氏は、地の利もあって九月の観測数が落ちなかった。40分インターバル観測を踏襲している数少ない観測者であり、一日の撮影数の多い日も数あり報告数が増えている。日本の最西端の報告者で、ヨーロッパとの橋渡しとなる位置になる。画像処理に不慣れだったこともあり、RGB合成時の色彩の再現に難があった。

同じく40分インターバル撮影を行った吉澤(Yz)氏は、足羽山の福井市自然科学史博物館の20cmED屈折望遠鏡を使用しての観測で、南氏の後継者である。カラーカムでの撮影ながら多くの画像の撮影に成功している。

石橋(Is)氏は、31cmニュートン反射にカラーカムを付けた撮影で、後半にはBフィルターをかけて撮影した画像を提出されて成果を出された。特にダストイベント発生時の画像には、水蒸気の分布が判断できるものが多く撮影されている。

近内(Kn)氏は、ご自宅の41cmSTCにカラーカムを付けての撮影で、綺麗な画像を提出された。Bフィルター、IRフィルターを通しての画像も撮影されている。特に寒くなった後半の視直径が落ちてシーイングが悪くなってからは、ごく短い露出で多くのIR画像を撮影して、良い画像だけを絞り出すという手法で、明暗模様を捉えた画像を得ることに成功している。

IRからUVまでの各種フィルタ−を使用して単色光の画像を提出されたのは、阿久津(Ak)氏だけであった。しかし自作45cmニュートン反射の性能引き出しの調整が遅れたことと、シーイングの悪さで観測数は伸びなかった。

尾崎(Oz)氏は、『火星通信』の始めの頃の号には名前が出ていた方だが、しばらくは音沙汰がなく、2018年接近の後半から画像を送ってこられた。今接近では44cm反射にカラーカムを付けての撮影で、早い時期から撮影を始めて多くの画像の送付があった。ただ、撮影した画像をすべて送って来られているようで、インターバルは揃わず、時間の間隔で短いものもあり、集計時の報告数は少なくなっている。画像処理は抑えられていて、コメントにあるような、口径なりの画像は得られていないように思う。

 参照記事として、「40分毎観測のすすめ」CMO/ISMO #387 を、ご覧いただきたい。

http://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/387/Mo_Mk_387.htm

 

グラフには出てこないが、森田(Mo)氏は、40分インターバルを実践されている観測者で、2020年八月までは画像が届いていたが、以後は処理が追いつかずに、まだ結果は到着していない。多くの撮影をされているとの「お便り」はあるので、画像が届くことがあれば追加報告としてご紹介する。

 

 

略号で示した外国の観測者は以下の方々を表す。

GORCZYNSKI, Peter (PGc)  Oxford, CT, The USA :ゴルチンスキー氏はC14(36cmSCT)とモノクロカメラを使用しての撮影だった。IR画像の報告も多かったが、途中から画像をしぼっての報告となったと思う。

MELILLO, Frank J (FMl)  Holtsville, NY, the USA : メリッロ氏は、25cmSCTにカラーカムを付けての撮影で、2021年六月の最後まで火星を追って活動を続けた。

PEACH, Damian A (DPc)  Selsey, WS, the UK  (remote controlled the Chilescope in CHILE) 

ピーチ氏は、接近前半はチリスコープを使用した遠隔観測画像が多かった。大きな口径で詳細なディテールを捉えたが、画像処理によってはゴーストではないかと思われる濃淡もあった。

WARELL, Johan (JWr)  Lindby, Skivarp, SWEDEN : ワレッル氏は、53cmニュートンにカラーカムを付けての撮影で、IR画像もフィルターを各種使用している。北の高緯度でシーイングは勝れなかったようである。

LEWIS, Martin (MLw)  St. Albans, Hertfordshire, the UK : ルゥイス氏は、44cmドブソニアンにカラーカムを付けての撮影で、報告の開始は遅くなったが、良い画像を最後まで送ってくださった。

FOSTER, Clyde (CFs)  Centurion, SOUTH AFRICA : フォスター氏は、C14(36cmSCT)とモノクロカメラとの組み合わせで、早い時期から報告を送られてきた。RGB各色と合成カラー画像に加えてIR画像との組み合わせを貫徹された。後半は赤緯が上がり南半球からは不利になってしまった。エッジにゴーストの出る画像のあったのが残念だった。

 

報告をお寄せくださった皆さんの、来期も変わらぬ、観測・撮影の継続を期待している。ご苦労様でした。

 


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