96/97 report 006

1996/97 Mars Observation Reports

-- #006 -- 1997年一月後半(16Jan〜31Jan)の火星面觀測


─ 南 政 次 ─(東亜天文学会火星課)
♂・・・・・・・・25Janには愈々視直徑δが10秒角を越し、本格的なシーズン到来である。もはや視野の火星も十分な大きさで、後はこの不順な天候である。視直徑は実際16Janの9.2"から31Janには10.5"になった。火星の季節はこの間065゚Lsから072゚Lsに進んだ。衝迄には080゚Lsを越える。中央緯度φは24゚Nから23゚Nであった。位相角は33゚から29゚と小さくなっている。火星は夜半前には東天に見えるようになった。

♂・・・・・・今回は天候が悪化して觀測は少な目であるが、次のように拝受した。


  阿久津 富夫 (Ak)  栃木・烏山 Karasuyama, Tochigi, Japan
        9 CCD Images  (16, 20, 27, 28, 31 Jan)   f/66×32cm speculum, Lynxx PC

  淺田 秀人 (Aa)  京都 Kyoto, Japan
       4 CCD Images  (17,20. 28, 31 Jan)  f/37×31cm speculum, Mutoh CV-04
    
  カルロス・ヘルナンデス (CHr) フロリダ FL, USA
       7 Drawings  (9 Dec; 18, 19, 21, 23, 25, 27 Jan)  305, 490×20cm speculum

  日岐 敏明 (Hk)  箕輪・長野 Minowa, Nagano, Japan
       1 Drawing  (30 Jan)  340×16cm speculum 

  伊舎堂 弘 (Id) 那覇 Naha, Japan
       8 Drawings  (28, 29, 31 Jan)  530×31cm speculum
      
  岩 崎  徹 (Iw) 佐賀・諸富 Morodomi, Saga, Japan
       7 Drawings  (16, 22, 27 Jan)  400×21cm speculum

  南 政 次 (Mn) 福井/大津+ Fukui/Otsu+, Japan
     15 Drawings  (16+, 17+, 25, 27, 31 Jan) 
         400×20cm speculum+/400×20cm  refractor*

  村上 昌己 (Mk)  藤澤 Fujisawa, Japan
     22 Drawings  (23, 25, 27,〜31 Jan)  370×15cm speculum

  中 島  孝 (Nj)  福井 Fukui, Japan
      3 Drawings  (25, 31 Jan)  400×20cm refractor*

  成 田  廣 (Nr)  川崎 Kawasaki, Japan
     15 Drawings  (16, 17, 19, 22, 23, 25, 26, 27, 30 Jan)  400×20cm refractor

  アンドレ・ニコライ (ANk) ベルリン Berlin, Deutschland
     4 Drawings  (6, 21 Dec; 14, 17 Jan)  500, 330×10cm refractor

  ジョヴァンニ・クアッラ (GQr)
           & the SGPG (A LEO, S MANNINO & others) フィレンツェ Firenze, Italia
     5 CCD Images  (17, 31 Jan)  f/24×30cm Cass, ISIS CCD800 with Kodak  KAF0400

                          *福井市自然史博物館天文臺

♂・・・・期間外の觀測として次のように頂戴している:


   森田 行雄 (Mo)  廿日市 Hatsuka-ichi, Japan
      17 B&W Photos  (2, 5, 10, 11, 16, 20, 22, 23, 29 Oct; 3, 14, 19, 22, 23 Nov )                                     f/100×25cm speculum  TP2415
大変な力作なのだが、何せ視直徑が儘ならぬ時で、大きな模様しかそれもかそけく散見出來るだけである。

♂・・・・・先ず、SGPGの画像に触れる。画像の數はRGBセットを一組と考えるだけでなく、觀測が四十分離れているように勘定する。例えば17Janの場合、IR(820nm)はω=199゚W, 202゚W, 213゚W, 223゚W, 226゚W、 R(610nm)はω=222゚W、G(530nm)はω=206゚W, 215゚W, 222゚W、B(420nm)はω=219゚W、そしてTricolourがω=206゚W, 215゚W, 220゚Wからなっている。IRを基準に3像があり、Tricolourから1像取れる。

これらの像が興味あるのは、エリュシウムの南中から始め、シュルティス・マイヨルが朝端から現れる様子まで的確に捉えていることである。カラーではω=215゚Wで現れ、ω=220゚Wでは青味がかっている。エリュシウムは活動を開始したかに見える(065゚Ls):但し、Bでは未だ弱く、SMITH-SMITH (cf #1434 p1251)の意味ではVAではない。ただ、長波長特にIRで明確であるから、ダストが混じっているか地肌が輝いていると考えられる。興味深いのはエリュシウムの明るい部分がケルベルスから離れて、アエテリアの暗斑に喰っついていて、西にずれていることである。多分高地寄りであろう。ケブレニアもG以上では稍明るく出ていることに注意する。他に、プロポンティスTは勿論のこと、ノドゥス・アルキュオニウスも明確である。南半球ではマレ・キムメリウムの形が大接近時から不変であることを示す。


31Janの像はカラーがω=039゚Wで、全体の五像を1と數える。模様に変わりがない。ニリアクス・ラクスの双葉型など明確で、ガンゲスもIRでは存外出ている。特徴は夕端のテュミアマタに靄溜まりがあり、そのからクリュセに仄かに白雲が棚引いている。この追跡が無いのが残念だが、未だ前號報告のような動きをするであろう。いろいろ面白いことが見られるが、ヒュペルボレウス・ラクスの東側に光斑があることに注意する。オピール等は普通の明るさである。尚ω=043゚WのIRではソリス・ラクスが既に明確で、この邊りにダストがあるとは思えない。
[ヘルナンデス(CHr)のLtE参照。日時は29Janω=131゚Wであるが、Alertと言う程でないようだ。その後唐那・派克氏の1Febω=117゚Wの影像がアップされたが、ストームが出ているとは思えない。JWrのLtEは蓴菜な感じである。]

♂・・・・・・・・そのCHrは19Jan(067゚Ls)ω=247゚Wで夕方のエリュシウムが明るい(Int 2)としている。但し、B光では然程ではないようである。21Jan、23Janでも大体同じで、25Jan(069゚Ls)ω=170゚Wではエリュシウムは丸い暗帯に取り巻かれて真ん丸である。プロポンティスTやノドゥス・アルキュオニウスは捉えられているが、アエテリアの暗斑をエリュシウムの境界と見ているために、稍可笑しな具合である。29Janのスケッチは届いていないが、Alert(LtE)の前に美國側で處理するべきである。少なくともGQr氏の影像を見る限り早計であった。

♂・・・・・・・序でにANk氏の14Janの觀測に触れる。ω=238゚Wでシュルティス・マイヨルが見えなかったということから、黄塵(LtE)と見ているようだが、この邊りでは青色系のシュルティス・マイヨルは弱く、R光でも見えないのはシーイングの所爲ではあるまいか。兎に角、もっと待って観測するとか、後日同じ角度で観測するという態度が無くては黄雲を云々出來ない。

♂・・・・・・・日本からは夕方のマレ・アキダリウムの風景からシュルティス・マイヨルの朝方まで觀測出來た。16Jan、17JanにはIw氏と筆者(Mn)が、クリュセを夕方から侵す靄を追っている。特に17Jan(066゚Ls)にはω=028゚Wが大津で觀測出來、テュミアマタの雲溜まりが觀察され、ここからクリュセに薄雲が伸びるわけである。この様子は上述のGQr氏の31Jan(072゚Ls)の像とあまり変わらないし、もともと#182p1967で報告したような050゚Ls邊りの様子とも大きく変わらない(但し、#183p1980参照)。Nr氏も22Janω=037゚Wで氣づいているようである。但し位置取りが悪く、マレ・アキダリウムも可笑しい。Iw氏は16Janにニリアクス・ラクスを分離している。但しニロケラス、ルナエ・ラクスは淡く、ガンゲスも南半分のみ。

On 29Jan at CML=335゚W
by Ishadoh (Id)

 29Jan(071゚Ls)にId氏が興味深い觀測をしている:ω=335゚Wで夕端に沈み掛けのシュルティス・マイヨルを分断して、靄が掛かって西方に延びていたようだ。ω=345゚Wでもシュルティス・マイヨルはもはや見えないが舌状の靄が残っている。同日Mk氏はω=296゚Wから開始し、シュルティス・マイヨルに先行して夕縁のリビュアに淡い紫色系の靄があり、これが次第に押し込められて行く様を觀察しているが、最後のω=326゚Wではシュルティス・マイヨルの北の方に押し出されて残っているとしている。もう一枚と言うところだが、沖縄よりかなり夜明けが早いとはいえMk視直徑はダウンしたようだ。
Mk氏は寧ろ23Jan(069゚Ls)にω=349゚Wで見ていて、Id氏と同じ舌状の夕靄を描いている。Mk氏の23Janのその後の觀測を見ると、實はテュミアマタに残る夕靄と繋がっているようだ。尚、Mnは27JanにId氏と同じ角度で見ているが、分断には氣づいていない。Hk氏は27Janω=329゚Wでシュルティス・マイヨルを淡く感じたようである。  テュミアマタの朝霧についてはMk氏が好く追跡している。例えば、29Jan(071゚Ls)ω=316゚Wの際朝縁にコアを感じたようだ。

 荒天の福井ではチョボチョボの觀測しか出來ないが、31Jan(072゚Ls)は不十分ながらω=234゚Wから連續觀測が出來た。先ず、エリュシウムは未だ肉眼では然程顕著ではないということである。但し、ω=244゚WではG光で認められた。シュルティス・マイヨルは依然淺葱色である。驚いたのはω=254゚Wでシュルティス・マイヨルに續く朝端が實に明るく輝き、これはO56でもR60でも確認出來た。ω=263゚Wでは稍明るさは落ちてきたものの、矢張り顕著であり、O56で十分明るい。以前は北半球高緯度で朝霧現象は見られたが、これはアエリアの上であって、色はヘッラスの鈍い白さと比べて、白くない。このアエリアはω=273゚Wで正常に戻ったが、ω=297゚W等で見るとアエリアは南中しても可成り明るい。Id氏が同日ω=290゚Wから開始し、ω=329゚Wまで追ったが、アエリアについてはω=300゚Wで稍明るく感じるとしている。アエリアは昨シーズンも可成り際だっていたのであるが、今回の様に朝方で黄金の輝氣を見せるほどではなかった。未だι=29゚であるから、十分朝方とは言えないが、朝霧がダストを軽く含むという事かも知れない。アエリアの明るさについては、Mk氏が既に30Janω=297゚Wで言及し、ω=307゚Wでも同じコメントをしている。31Janにはω=285゚Wから開始し、アエリアだけでなくその以西もクリーム色に大きく明るいとしている(ω=305゚W迄)ので、この日は特別であったのかも知れない。ω=315゚Wでは感じられなくなった由。尚、この日Id氏のω=329゚Wでは斜陽のシュルティス・マイヨルに夕靄に拠る分断はない。このスケッチで、多分Id氏はオリュムピアを見ている。但しシーイングは然程好くなかったらしいのが惜しい。

♂・・・・・・・・Ak氏のCCDもAa氏のCCDもシュルティス・マイヨルとマレ・アキダリウムが相手だから、ソコソコの模様は出ているが、今回は特別コメントすることはないと思う。シーイングが十分ではないのだと思うが、画像処理にもう一つ工夫が必要なのかもしれない。CCDはバンドの狭いところを見ているのだから、肉眼を出し抜く様な結果が必要であろう。Aa氏は一観測一シートということを知りながら、一時間空きの像を三枚並べて、自転を捉えた、等というのは火星課の方向を履き違えたルール違反である。(四十分毎ではなく)一時間毎の觀測では微妙な變化を捉えきれないということを示している點で教育的だが。

♂・・・・・・・ 次回觀測〆切は15 Febとなります。15 Feb (GMT)迄の觀測をお送り下さい。


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