96/97 report 008

1996/97 Mars Observation Reports -- #008--

1997年二月後半(16 Feb〜28 Feb)の火星面觀測


─ 南 政 次 ─(東亜天文学会火星課)
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この期間二週間に満たないが、視直径は12.1秒角から13.3秒へと一秒強伸び、手応えのある大きさになった。季節も079゚Lsから084゚Lsと北半球の夏至直前である。中央緯度は23゚N邊りで、北半球が安定して好く見えている。位相角は21゚から14゚に落ち、更に円くなった。火星は逆行中で、日本時21hには観測可能である。

この期間の觀測としてOAA火星課に次のように報告があった:

AKUTSU, Tomio  阿久津   富夫    (Ak)      栃木・烏山  Karasuyama, Tochigi, Japan
   9 CCD Images  (18, 19, 23, 25, 27 Feb) f/66, 32cm speculum, Lynxx PC
ASADA, Hideto 淺田 秀人 (Aa) 京都 Kyoto, Japan 4 CCD Images (19, 23, 24, 26 Feb) f/37, 31cm speculum, Mutoh CV-04
FALSARELLA, Nelson ネルソン・ファルサレッラ (NFl) ブラジル Brasil 1 Drawings (26 Feb) 260x 20cm speculum
HIKI, Toshiaki 日岐 敏明 (Hk) 箕輪・長野 Minowa, Nagano, Japan 9 Drawing (20, 22, 24, 26 Feb) 340x 16cm speculum
ISHADOH, Hiroshi 伊舎堂 弘 (Id) 那覇 Naha, Japan 27 Drawings (19,20, 22, 〜25, 27 Feb) 530x 31cm speculum
IWASAKI, Tohru 岩 崎 徹 (Iw) 佐賀・諸富 Morodomi, Saga, Japan 13 Drawings (17, 19, 22, 26, 27 Feb) 400x 21cm speculum
LEHMAN, David J デイヴィド・レーマン (DLm) カリフォルニア CA, USA 3 Drawings (16, 19, 21 Feb) 290,300x 25cm speculum
MELILLO, Frank J フランク・メリッロ (FMl) ニューヨーク NY, USA 1 Drawing (2 Feb) 310×20cm Schmidt-Cassegrain 2 B&W Photos (21, 26 Feb) 20cm Schmi-Casse AO-2 unit TP2415 Wr21
MINAMI, Masatsugu 南 政 次 (Mn) 大津+ Otsu+/ 福井 Fukui, Japan 34 Drawings (19+, 20+, 23, 24, 27, 28 Feb) 400x 20cm spec+ /400x 20cm refra*
MURAKAMI, Masami 村上 昌己 (Mk) 藤澤 Fujisawa, Japan 13 Drawings (20, 22, 23, 24 Feb) 370x 15cm speculum
NAKAJIMA, Takashi 中 島 孝 (Nj) 福井 Fukui, Japan 7 Drawings (23, 28 Feb) 400x 20cm refractor*
NIKOLAI, Andre アンドレ・ニコライ (ANk) ベルリン Berlin, Deutschland 7 Drawings (1, 6, 15, 22, 23, 24 Feb) 330x 10cm refractor
TEICHERT, Gerard ジェラール・タイシェルト (GTc) フランス Hattstatt, France 1 Drawings (22 Feb) 280×28cm Schmidt-Cassegrain
*福井市自然史博物館天文臺
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期間外の観測として、クアッラ(GQr)氏から次のように影像を頂いている。
QUARRA SACCO, Giovanni A ジョヴァンニ・クアッラ(GQr) &  the SGPG (A LEO, D SAROCCHI & others),
 フィレンツェ Firenze, Italia
   7 CCD Images  (8/9 Feb)  f/24, 30cm Cass, ISIS CCD800 with Kodak KAF0400
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 0) 日本からはこの期間ソリス・ラクスの夕方から、シュルティス・マイ ヨルの夕方まで観測可能であった。途中、マレ・アキダリウムの南中にどの観測者も 出會(デクワ)している。

 1) オリュムプス・モンス、アルバ、テムペ:
オリュムプス・モンスは前回が観測好機であったのだが、17 Feb(080゚Ls)にIw氏が觀察している。但しω=127゚Wでは未だ目立たない。但し、タルシスは夕端で明るくなっている。19 Feb(080゚Ls)にはIw氏は朝方のアルバをω=089゚Wで見ている。Iw氏はオリュムプス・モンス、アルバとタルシスを隔てる暗帯を観測している。一方、Id氏はオリュムプス・モンスの旬を逃してしまったようで、コメントは盛んに出てくるが、朝方では位置取りに混乱が出るほどで、不如意であった。23 Feb(082゚Ls)ω=115゚Wではアルバの方がオリュムプス・モンスより明るいとしている。既にω=085゚W、095゚W、ω=105゚Wでアルバはテムペと共にId氏は捉えている。確かに23 Febω=090゚WのMnの観測でも、テムペと並んで朝方のアルバがまあるく見えていた。アルバの方がテムペより弱いが、白くなく、地肌であろう。その意味ではアルバはテムペと同質だがオリュムプス・モ ンスとは異質である。尚、テムペについてはMk氏が23 Febω=056゚Wで円く白く把え、以西の赤味との対比が印象的としている。ω=068゚Wでも同様の観測。24 Febω=045゚Wでも観測。[脱稿後到着のAk氏の23 FebのB光では、テムペは暗い方である。]

 2) ソリス・ラクス:
19 Febには日本からソリス・ラクスの南中が見え、Iw氏、Id氏、Mnが同じように茄子型のソリス・ラクスを描いている。同日Id氏はω=072゚W、082゚Wで明確に描き出し、Iw氏はω=099゚Wで見ている。Mnにはω=080゚Wから109゚Wまで明確であった。Id氏はω=082゚Wの時オピルをくっきり明るく見た。オピルに関してはId氏は23 Febω=095゚W、105゚Wで夕端に來るほど輝くとしている。福井では同日ω=080゚Wでオピルをガンゲスと共に確認しているが、ω=090゚Wでクサンテの夕靄と混合していると見ている。ソリス・ラクスは23 FebにはId氏同様福井でNj氏とMnが再び特にO56で茄子型を見ている。[この欄を執筆後Hk氏のレポートが到着したが、24 Febω=060゚Wで好シーイングに出會ったようで、ソリス・ラクスが茄子型で出ている。気温−7゚C弱。また同じく遅延到着のAa氏の像では23 Febω=053゚Wで出ている。]

 3) ヒュペルボレウス・ラクス:
マレ・アキダリウムは既に北極冠領域から浮き上がっていて、間は空いている。正確にはこの空隙は赤外領域では暗いし(例えばp2011のマウナケアでのCCD参照)、イアクサルテスという運河が間に入って時々見えるのであるが、大まかにはトンで居るといってよい。北極冠に喰っ付いてヒュペルボレウス・ラクスという濃い模様が見える。この様子は前回接近の折り#162p1645で一度解説している。今回は視直徑が上がっている所爲で早くから見られたわけである。筆者には19 Febこの地域が見え始めたときからヒュペルボレウス・ラクスの存在は明確で、以後見えないことはなかった。27 Febには既にω=313゚Wで朝方に見えている[Note added in proof: 4Marにはω=276゚Wで既に見えた]。Iw氏は22 Feb(082゚Ls)ω=072゚Wで検出している(視直径=12.7")。但し、その後27 Febなどでは見えていない。Id氏は原則的に北極冠のダークフリンジとしてのヒュペルボレウス・ラクスは見ているようだが、隙間は明確には描かない。好条件に恵まれた25 Febω=009゚W、 019゚W、029゚Wでの様子はリアルだと思う。[後着のAk氏の像では27 Febω=040゚W等で出ているようだが、稍不鮮明。ただマレ・アキダリウムの描写は好い。B光ではマレ・アキダリウムの南部が朝霧にやられている。Aa氏の23 Febω=053゚Wや26 Febω=022゚Wでは濃く北極冠に付着している。]

 4) 夕靄、朝霧:
テュミアマタ北部からクリュセに掛けての夕靄は依然観測されている。Id氏は19 Febにω=060゚W〜095゚Wに掛けてクリュセの靄を追いかけている(ω=060゚Wで“テュミアマタ附近、霞で白く明るい”という程度だから、Id氏の記述は控え目)。Mk氏は20 Febω=090゚W、22 Feb(082゚Ls)ω=072゚W、082゚Wなどでクリュセ夕靄を観測し、23 Febではω=047゚W、056゚W、068゚Wなどで強く感じている。Iw氏は22 Febにω=053゚W、063゚W、072゚Wでクリュセの夕靄を觀察している。Id氏は22 Febω=063゚Wで明確に描いているが、ω=073゚Wではそれほど變化がなかったようである。しかも、23 Febのω=085゚Wでは弱いとしている。然し、福井のMnの同日の觀察ではω=032゚Wのテュミアマタから始まって、十度ごとにクリュセの方に延び、ω=071゚Wではクリュセ−クサンテに明るく、ω=081゚Wでは白く明るく、ω=090゚Wでは(先述のように)オピル−カンドルまで侵しているのが確認されている。
 24 Feb(083゚Ls)以降はシュルティス・マイヨルが東端に現れ、ネイトからの夕靄がシュルティス・マイヨルからその北を覆い(Mn: 24 Febω=351゚W、27 Febω=352゚W)、次第に沙漠の方に出て行くのであるが、南側はアエリアが地肌色で明るく混合するようである。27 Febω=303゚Wでは明るいアエリアの中に更にコアが見えていた(Mn)。Iw氏は26 Febω=008゚Wで夕靄をシヌス・サバエウスの北に描いている。これがテュミアマタに繋がるのであろう。
 朝霧の方は後半、テュミアマタからクリュセに掛けて矢張り真っ白で著しかった。北の方にも延びるが、マレ・アキダリウムをひどく隠す程ではない。マルガリティフェル・シヌスも直ぐ出る。
 尚、Mnの観測では19、20 Febとタルシスが朝縁で非常に明るかった。20 Feb(081゚Ls)ω=041゚Wで特に明るかったが、ω=050゚W以降は衰えていった。23 Feb(082゚Ls)では然しω=042゚Wでも然程では無くなっていた。既に22 FebのIw氏の觀察でもω=053゚Wで強くない。尚、23 Febには寧ろ、南縁(ソリス・ラクスの南)が白く明部となっていた。Mnの観測は20 Febと23 Febで望遠鏡が違うのであるが、20 Febは特異であったようである。然し、24 FebにはMk氏が朝方でω=045゚Wでも未だ感じている。21日の夕方にHk氏より緊急電話を受け、20 Febに朝縁が非常に異常に明るく見え、同時に火星面を横切って、キュドニアの方に延びている、と言うことで あった[後で遅延到着のHk氏のスケッチを拝見すると、20 Febはω=035゚W、046゚W、ω=056゚Wと観測されているが、ω=035゚Wで“朝方リムの強い明部に驚く”とある。 尚、Ak氏の23 FebのCCDのB光のω=044゚W等では朝縁が明るい。Aa氏のB光はIR排除が利いていないようである。]

 5) 北極冠:
Id0225 北極冠は可成り縮小し、特にコアは小さい。#177p1873の図3に出ているようなダークフリンジは既に現出していて、特に今回われわれが見たような角度からは北極冠の輪郭がハッキリし、近邊の擾亂は見られなかった。特にヒュペルボレウス・ラクスから東は細い暗線となってフリンジが(少なくともω=300゚W位までは)見えている。西の方のフリンジはあまり明確ではなく、Id氏は20 Febω=090゚Wでは朝方が不明瞭としているのはこのことによる。偶然福井でMnが23 Febにω=090゚Wで観測しているが、東側はヒュペルボレウス・ラクスの存在により明確であった。

Id氏は前述のように25 Febに好シーイングに恵まれ、ω=359゚Wからω=065゚Wまで七回観測しているが、大気的に透明で特に北極冠附近は明瞭と見ている(ω=046゚Wでの記述)。更に、ω=009゚W、019゚W、029゚Wでは北極冠内にカスマ・ボレアレと思しき亀裂を観測した。更に詳しくは、朝縁が惚けていると見ているようである。

福井では24、25 Febと更に東が観測出來たが、この細いダークフリンジはオリュムピアの邊りで急に途切れ、北極冠の夕方の部分を惚けさせる。これは多分溶解途上によると思われる。ω=300゚W前後では、朝方に明核、夕方にその惚けた部分という形になる。明核は勿論ヒュペルボレウス・ラクス及び暗線に押さえられている。ダークフリンジの外にも未だ殘滓が見られるようである。或る幅をもって取り巻いていて濃淡がある。その他、福井では23 Febにω=003゚W〜032゚Wにキュドニアに明斑が見られた。24 Febω=011゚Wでも見ているが、時には拡がった靄のようでもあり、よく判らない。
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 NFl氏の緊急に送られてきたスケッチは、26 Feb(083゚Ls)のω=160゚W邊りで朝方のエリュシウムとプロポンティスTが明確だが、特に彼が強調しているのは、オリュムプス・モンスとタルシスの間に暗帯が走ることである。これは火星図で見付けるのは難しいが、1980年代から見えているもので、例えばMar1982の095゚Lsの邊 りで日本からはくっきり見えていた。1995年には068゚Lsで軽く見えている(例えば『天文年鑑』1996年版やCMO#158参照)。今期の動向については、前回も報告したが、これからも注意して欲しい。
 DLm氏の16 Feb(078゚Ls)はω=030゚W邊りで、マレ・アキダリウムが南中だが、ローエル・バンドとあるのはヒュペルボレウス・ラクスであろう。21 Feb(081゚Ls)はω=340゚W邊りで、シュルティス・マイヨルが沈むところであるが、その北に夕靄、またクリュセには朝霧がある。印象的なのはキュドニアに明斑があること。なかなか鋭眼である。福井での23 Febの観測と同様のものであろう。DLm氏の観測は10:30GMT頃で、最近は12hGMTでは日本で観測出來るから、だいぶ向こうの朝の観測と日本の晩の観測の隙間が無くなってきた譯である。
FMl氏のTP:21 Febはω=265゚Wでシュルティス・マイヨルが出ているというだけのもの。26 Feb(083゚Ls)ω=219゚Wはエリュシウムとケブレニアがハート型で出ており、アエテリアの暗斑のプレグラが明確。これは典型で彼のLtEは?であるが、未だ#185が届いていない。尚北極冠は右半分が怪しい。
 ANl氏の報告はe-mailでMk氏がプリントにした:15 Febにはエリュシウムが東端に出ている。23、24 Febにはタルシスが出ているようだが、オリュムプス・モンスは見ていない。エリュシウムも朝方では鈍い。口徑にも依るが、暗部の描写は今一つ。フィルターを駆使するが、何が基本か不明。
GTc氏の22 Febはω=145゚Wで、何も特徴のあるものは描かれていないが、北極冠は境界が分からないとしている。タルシスが見えないのはおかしい。尚、前號でGTc氏の紀録欄には間違いがあるので、英文の方で訂正する。

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GQr氏達の8/9 Feb(076゚Ls)の像は圧巻である (Internetでご覧下さい)。六ファイルあり、いろいろな像の組み合わせからなっているが、基本的には赤外(IR)像で分類すると、七像のようである。IRは8/9 Febω=283゚W、293゚W、303゚W、313゚W、325゚W、336゚W、345゚Wと殆ど四十分間隔で聨続して撮られている。我々が丁度集中観測で、オリュムプス・モンスからエリュシウムを観測していた頃ヨーロッパではシュルティス・マイヨルからマレ・アキダリウムを見ていたわけである。δ=11.4"ながらアリュンの爪がくっきり見えることでシーイングの状態が判る。

SGPG's images

像の中で最も重要と思われるのはUV(330nm)によるω=300゚W(00:30 UT)のCCDで、未だシュルティス・マイヨルが可成り像の中にいるにもかかわらず、既にB光ではシュルティス・マイヨルの上に集中して白雲が出來ていることである。この為合成カラー像ではシュルティス・マイヨルは霧が掛かったように淡い瑠璃色になっている。シュルティス・マイヨルの邊りはスロープになっているので、山岳系の雲が出ると考えて好いで あろう。同様の傳で、通常アエリアが明るいのも矢張り大氣的な影響があるのかも知れない。尚この時点(076゚Ls)でオリュムピアは分離していると言える。

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Note added in proof: 福井では5 Marに絶好のシーイングが訪れ、630倍で綺麗な火星像を見ましたが、6 MarにはId氏によると那覇も出色のシーイングで、カスマ・ボレアレを分離した由です(次回報告)。今年はシーイングが好いようで、この時季高気圧を逃さないようにして下さい。

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次回観測〆切は三月15日(GMT)土曜日です。月火曜必着で三國宛に速達で報告を送付されたい。愈々、最接近を迎え、19Mar〜22Marは第二回のOAA集中合同観測日です。



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