98/99 report #03

1998/99 CMO Mars Report #03

1998年十一月後半・十二月前半の火星面觀測


『火星通信』同人・南 政 次 (Mn)
♂・・・・・・・イギリスのグレイ(DGr)氏も十月から觀測に入ったようで、報告用紙には番號附けがないが、最初のシートは19Oct、045゚Ls、δ=4.4"である。グレイ氏のスケッチ(鉛筆複製)はイギリスの傳統で綺麗に仕上げられており、然も報告用紙の印刷レイアウトも美事である。既に詳細に亘り、北極冠の描冩もクッキリしている。我が方では、伊舎堂弘(Id)氏が28Nov(063゚Ls)に初觀測を済ませた(δ=5.2")。實際には十一月上旬から準備觀望しているようである(LtE)。メリッロ(FMl)氏も28Novから開始、像は小さいが、模様が出ているから驚きである(LtE)。赤色なので北極冠は出ない。15Dec(070゚Ls)にはホヰットビィ氏が觀測に入った(11:20GMT)。日岐敏明(Hk)氏も伊那谷の霧が取れて、調子を上げてきた。村上昌己(Mk)氏も新住所での觀測に慣れてきたようである。兩者とも漸次20cm級反射に移行の豫定である。中島孝(Nj)氏は體力温存のペースで地道に觀測を遂行している。

♂・・・・・・・今回は16Nov1998から15Dec1998迄の一ヶ月間の觀測を主に扱う。火星の季節はこの間に、058゚Lsから070゚Lsまで進捗した。北極冠は收縮しはじめている。中央緯度φは25゚Nから24゚Nであるが、月末にかけて落ちて行く。視直徑δは16Novに4.9秒角であったが、15Decには5.6秒まで伸びた。位相角ιは31゚から34゚に増え、缺けが強くなっている。  火星の視赤緯が十二月上旬赤道の南に落ちた。朝方、殆ど南中するが(實際の西矩は11Jan、8Janにはスピカに接近)、高度は最早不満である。福井の日の出は冬至前後22hを過ぎる。

♂・・・・・・・今回の期間を含む觀測報告は次のようである:


      GRAY, David デイヴィッド・グレイ (DGr)  ダラム Durham, UK
            8 Drawings  (19, 22, 23, 31 October; 6, 17, 23 November; 2 December 1998) 
                                        415, 520, 660×42cm Dall-Kirkham

      HIKI, Toshiaki 日岐 敏明 (Hk) 箕輪・長野 Minowa, Nagano, Japan
           10 Drawings  (23, 29, 30 November; 5, 9, 11, 12 December 1998) 
                                             340, 360×16cm speculum

      ISHADOH, Hiroshi 伊舎堂 弘 (Id) 那覇 Naha, Japan
        4 Drawings  (28 November; 1, 12 December 1998)  530, 800×31cm speculum

      MELILLO, Frank J  フランク・メリッロ (FMl)  ニューヨーク NY, USA
            2 CCD Images  (28 November; 12 December 1998)   20cm Schmidt-Cassegrain

      MINAMI, Masatsugu 南 政 次 (Mn)  福井 Fukui, Japan
           50 Drawings  (23, 25, 26, 28, 29 November; 2, 3, 13, 15 December 1998) 
                                                  400×20cm refractor* 

      MURAKAMI, Masami 村上 昌己 (Mk)  横浜 Yokohama, Japan
           10 Drawings  (23 November; 9, 11, 12, 13 December 1998)   370×15cm speculum

      NAKAJIMA, Takashi 中 島  孝 (Nj)  福井 Fukui, Japan
           21 Drawings  (23, 25, 26, 28, 29 November; 2, 3, 13, 15 December 1998) 
                                                  400×20cm refractor*
 
      WHITBY, Samuel R  サミュエル・ホヰットビィ (SWh)  ヴァージニア VA, USA
            1 Drawing  (15 December 1998)   310×15cm speculum
 
                                             *福井市自然史博物館天文臺 Fukui City Observatory
♂・・・・・・・#208で觸れたビヴェール(NBv)氏のカラースケッチが#209編集直後に送られて來た。24Octには千倍を使用している。

        BIVER, Nicolas  ニコラ・ビヴェール (NBv)  ハワイ Hawaii, USA
            4 Colour Drawings  (20, 26 September; 23, 24 October 1998) 
                      510, 1010×26cm speculum
♂・・・・・・・17Nov(058゚Ls)獅子座流星が輝く中でグレイ(DGr)氏は觀測していたらしいが、ω=277゚W(6:40GMT)〜282゚Wでシュルティス・マイヨルが南中近い。薄雲でシーイングは上々(δ=4.9")、ノドゥス・アルキュオニウスもチラチラとだが確かに見えている様である。北極冠の周りの暗帯からプロトニルスを分離している。ヘッラスはよく見えるが、Wr25では鈍い。アエリアはWr58で明るい。
Drawing by David GRAY on 17 Nov (058 degs Ls) at LCM=277 degs W

 一方われわれはまたしても、今期間初めはソリス・ラクス邊りであったが、天候不順で逃がした。一週間後の23Nov (061゚Ls)になって、村上昌己(Mk)氏がω=058゚W、日岐敏明(Hk)氏がω=065゚Wで觀測、兩者とも夕方のマレ・アキダリウムを捉えている。北極冠はクッキリしている。Hk氏はルナエ・ラクスを見ているようである。クリュセはドンヨリとしている。福井(中島孝Nj氏と筆者Mn)では同日ω=034゚W開始、ω=078゚W(21:40GMT)まで追った。マレ・アキダリウムはやや褐色である。ω=050゚W邊りから、クリュセが夕端で白く鈍く、最後まで明らかであった。マレ・アキダリウムの褐色に對し、アウロラエ・シヌス邊りは青色系である。南端の特に朝方は白く靄っている。同日、われわれより十四時間ほど早く(角度にして200゚程東)DGr氏がω=233゚W(07:40GMT)で觀測している。シュルティス・マイヨルが朝方に出ていて、その更に朝方はリムヘーズに覆われている。ウトピアはやや弱く、これに対してマレ・キムメリウムが強く出ている。エリュシウムが午後で弱く見えるが捉えにくい由。北極冠はどのフィルターでも非常に明るい。
 25Nov(062゚Ls)福井Mn:ω=036゚Wで、ノアキスが夕端で白い。26Nov(063゚Ls)は福井はシーイングが不好であったが、薄明で好くなり、南端の他クリュセが夕端で目立った。

 28Nov(063゚Ls)にはメリッロ(FMl)氏がω=234゚Wで赤色光(Wr25)のCCD像を得た。小さい像ながら、アエテリアの暗斑が出ており、ウトピアの三角形が見える。南半球の模様も冩っている。ただ、像は二枚並べると不安定である(左画像)。
 同日福井ではω=330゚Wから。ヘッラスが夕端で白いが、340゚Wでは目立たない。マレ・アキダリウムがかなり濃く出ている。ω=350゚Wではシヌス・サバエウスが夕方で濃い。北極冠は極めて円い。クリュセは朝端で明るい。やや黄色味を見せている。ω=010゚Wでノアキスまたはその北が非常に明るく見える。シヌス・メリディアニが夕方に濃く見える。伊舎堂弘(Id)氏はω=017゚Wで初觀測:マレ・アキダリウムは明確ではないが、南端は仄かに明るい。福井ではこの日は薄明のω=034゚W(Nj氏)まで觀測。この夜は雨上りの快晴で、カノープスも見えたが、霧も出た。測候所の發表ではこの日福井の最低氣温2.2℃。
 29Nov(064゚Ls)にはHk氏がω=010゚Wで觀測。視直徑は5.2秒角になっている。福井ではω=321゚Wからだが、視相が悪く、シュルティス・マイヨルはボンヤリしている。ω=350゚W邊りからシヌス・サバエウスが夕方で明確だが、マレ・アキダリウムが最も濃い。後、マレ・エリュトゥラエウムが朝端で濃く見え始める。ω=019゚Wまで(薄明)。

CCD image by MELILLO on 28 Nov (063 degs Ls) at LCM=234 degs W

 30Nov(064゚Ls)Hk氏ω=000゚W(21:00GMT)、北極冠明白、ダークフリンジは夕方の方が濃い。シヌス・サバエウスが(Hk氏のコメントによれば意外にも)明確に見える。

 十二月に入って、1Dec(064゚Ls)にId氏はω=348゚W(δ=5.2")で觀測、シヌス・メリディアニはまだ不明瞭だが、マレ・アキダリウムは視相が好くなると濃い。クリュセが明るくのびる。
 2Dec(065゚Ls):カーク・メリントンでDGr氏がω=149゚Wで觀測、北極冠はやや小さくなっている他、前ほど明るくないのではとしている。夕端は明るいが、オリュムプス・モンスなどははっきり分離しないようである。南端が明白。十数時間後福井は(朝方になって)霽れ(2日は札幌では50cmの新雪、福井も最高気温が7℃)、ω=336゚Wなどで、シヌス・サバエウスの東端が濃い。
 3Dec(065゚Ls)ω=290゚Wから、當然この日はシュルティス・マイヨルが明確。マレ・テュッレヌムとウトピアは濃い。ウトピアも含めて北極冠の周りの暗帯はシュルティス・マイヨル等より濃い。Mn:ω=300゚Wでもヘッラスは鈍い(ι=33°)と見るが、Nj氏:ω=304゚Wで青白く明るいと見る。確かに、夕端に至って明白になる。この朝快晴だったが、下界は猛烈な濃霧となる。
 5Dec(066゚Ls)Hk氏ω=296゚W、305゚W、313゚Wで觀測、シュルティス・マイヨルを把える。特に最後21:05GMTには濃くシッカリ見える。ヘッラスは明るくなく不明瞭。シヌス・サバエウスも見ているが、最後にはシヌス・メリディアニも捉えている様で、ただ、リムの暗部との分離が難しい。Hk氏今期最高の觀測日となった。この日(土曜)、奇しくもNj氏は京都、筆者は大津にいた。更に不思議なことにMk氏も來津した。日曜には大津で三役揃い踏みとなった。大津は大概晴れていたから、福井も然りであったかもしれない。然し、Nj氏によれば、その次の週は福井は悪天候が續いた由(Nj氏は早起きで朝まだきに確認している)。
 9Dec(068゚Ls)Mk氏ω=258゚W、Hk氏ω=265゚Wで觀測。Mk氏の時間ではシュルティス・マイヨルが難しいが、Hk氏は淡く見ている。マレ・テュッレヌムの方が濃い。Hk氏は朝霧が出ていると考える。
 11Dec(069゚Ls)はMk氏がω=231゚W、244゚W、251゚W、Hk氏がω=246゚W、259゚Wの觀測。Mk氏は南半球の暗帯の南に明るさ、特に青みを感じているようである。Hk氏は最後になってシュルティス・マイヨルを捉えた。北極冠はクッキリと円い。Mk氏の記録によれば、この日、下弦の月が火星の近くにあった。
 12Dec(069゚Ls):Mk氏はω=236゚W、246゚W、256゚W、Hk氏がω=239゚W、Id氏がω=249゚W、259゚Wで觀測。Mk氏は南端の明るさを二回目の觀測から確認している。Hk氏はシュルティス・マイヨルをシッカリ捉えているが、Mk氏は朝霧を見てシュルティス・マイヨルを感じていない。Id氏は前半シュルティス・マイヨルを淡く感じ、後半マレ・テュッレヌムも含めてやや濃く見ている。アエリア明るい。エリュシウムは認められない。ヘッラスはほんのりという程度。同日、Mnは大津から三國經由の蜻蛉返りで天文臺に入り、ω=190゚Wから258゚Wまで單獨で觀測した(Nj氏は所用で留守)。南端の靄は明白。特に夕方に被る。シュルティス・マイヨルはHk氏と同じくω=239゚Wから感じ始めたが、高くなって(薄明に入ってから)顕著になる。特にその南方が朝端で濃く、アエリアが飛びだしている恰好。Mk氏の朝霧であろう。マレ・キムメリウムも夕方でなかなか濃い。北極冠は明確だが、縮小は正常のようである。久しぶりの觀測だが、觀測臺が以前より北へ移動する。愈火星は南半球へ降りたわけである。同日早くニューヨークでFMl氏がω=100゚WでCCD像:マレ・アキダリウムが見え、アウロラエ・シヌス邊りも暗い。ニロケラス-ガンゲスも出ているかも知れない。赤色なので北極冠は殆どでない。
 13Dec(070゚Ls)Mk氏ω=241゚W、南端と朝端に明部を感じている。福井では十日ぶりに13、15DecにNj氏、Mnの揃い踏みだが、雲多く、結果少なし。
 納めは、15Decのホヰットビィ(SWh)氏で、ω=073゚Wの觀測:マレ・アキダリウムが夕方で、北極冠は輪郭がハッキリ。クリュセが夕方でタルシスが朝方で明るい。

♂・・・・・・・ビヴェール(NBv)氏の初觀測は20Sept(032゚Ls)δ=4.1"の時點で、ω=254゚Wでシュルティス・マイヨルが朝方に姿をボンヤリ見せている。ウトピアが明確。北半球朝縁は白っぽい。二枚目は26Sept(035゚Ls)ω=198゚WプロポンティスTは明確ではないが、朝縁のカラー描冩が綺麗。砂漠は赤っぽいがそれでもこの像は白混じりである。三枚目は23Oct(067゚Ls)ω=277゚W、シュルティス・マイヨルが南中に近く、ヘッラスは不規則輪郭で描かれている。内部の夕方は黄色で、朝方が赤っぽい。24Oct(048゚Ls)ω=290゚Wは更に詳細に富む。北極冠内に影が見える。ヘッラスは黄色っぽい(スケッチ引用)。


Left : Drawing by BIVER on 24 Oct (047 degs Ls) at LCM=290 degs W
Right : Drawing by GRAY on 31 Oct (050 degs Ls) at LCM=080 degs W

 グレイ(DGr)氏の期間外のスケッチ(多分選ばれたものだけが送られてきている):19Oct(045゚Ls)はω=188゚W、δ=4.4"ながら、プロポンティスT周邊と北極冠周邊の暗帯がケブレニアの明帯で分離されている。エリュシウムは所在は分かるが特別明るくない。南半球の暗色模様は弱く、南西端は明るい。22Oct(046゚Ls)、ω=168゚W、夕端に明部が二ヶ所ほどある。プロポンティスT邊りは暗帯。エリュシウムは暗部に囲まれて確認される。23Oct(047゚Ls)はω=153゚W、オリュムプス・モンスが仄かに見えている(ι=28゚W)。アポダイジング・スクリーン使用。タルシスは擴散して見える。エリュシウムは朝方でよく見える。北極冠の暗帯ではプロポンティスU邊りが一層濃い。31Oct(050゚Ls)6:30GMTω=080゚W、可成り好い像で、夕方に寝ているマレ・アキダリウムとニロケラスが明確。デウテロニルスも分離している。クサンテが夕端で顕著。南端夕方もW58で明るい。特筆すべきはティトニウス・ラクスから朝方にかけて白雲帯で、Wr15で強く、Wr58でぼける。多分赤道帯霧の趨りで、1997年に100゚Lsで強く見られた様なタルシス地域の朝霧であろうが、好く検出されたものである(スケッチ引用)。6Nov(053゚Ls)、ω=022゚W、非常に好い像で、マレ・アキダリウムも詳細に富んでいる。シヌス・サバエウスも見えている。マルガリチフェル・シヌスが明確。クリュセは可成り明るいらしい。南端はIntとW15で明るく、夕方はW58でより明るい。DGr氏は可成りの時間を割いて觀察した後スケッチに入る様で、フィルターによる詳しい記述がある。

♂・・・・・・・17Novの獅子座流星“雨”豫報はおかしな騒動を生んだようだが、DGr氏は可成りの流星を見ながら(LtE)、火星觀測しているのは流石である。ただ、觀測中、一寸氣が散った瞬間があり、というのも接眼鏡に取り憑いているとき、大きな火球が飛んだようで邊りが明るくなったからのようである。時刻は6h28m20sGMT。直接見ていないわけだが、滿月の何倍もあったとDGr氏は考える。そのときのスケッチが既に引用のものである。竹内雄幸さんが何時ものスタイルで何時もの場所で観測されているのをTVで見て感心したが、DGr氏の觀測も魂がある。福井では關係なく何時ものように火星觀測の待機をしていた。空は不良で、火星は結局觀測出來なかったが、4時前に雲が切れるときがあり、流星は見られなかった。從って、流星雨は起こっていないと判断した。その前には天文臺にはしょっちゅう電話があって、名古屋は晴れているとTVで言っているが、名古屋の何處か、と言ったようなものまであったが、これは車で走ると言うことのようであった。流星雨がないとすると、ご苦勞なことだが、ピークが済んでいることはニュースで流されなかったものか(天文臺の準備室にはTVやラジオはない)。


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