CMO/ISMO 2024/25 観測レポート#16

2025年六月の火星観測報告

 (λ=091°Ls ~ λ=104°Ls)

村上 昌己・西田 昭徳

CMO #548 (10 July 2025)


・・・・・・『火星通信』に送られてきた六月中の火星面画像よりまとめるレポートは、今回は今期十六回目となる。下図のように、火星は六月には「しし座」で順行を続けて、17日にはレグルスの北を通過して徐々に赤緯を下げていった。日没後には西の空に下がり始めて、観測期も終盤となっていた。

 


 

六月には季節(λ)λ=091°Lsから104°Lsまで進み。北半球の夏至(λ=090°Ls)直後の観測だった。視直径)δ=5.5”からδ=4.9”まで小さくなった。傾き(φ)21°Nから極大近くの25°Nにまで大きくなり、小さくなった北極冠が捉えられていた。位相角(ι)は、ι=35°からι=32°と、朝方の南半球の欠けは少し小さくなった。

右図には、この期間の視直径と中央緯度の変化の様子をグラフで示した。赤い実線が今接近の視直径の変化である。傾き・中央緯度(φ)は緑色の点線で示している。黄色くマークされているところが、六月のレポート期間の様子を示している。視直径の低下を見ても今観測期も最終盤になっている。

 

 

前回接近時の火星面の様子は以下のリンクから参照できる。

CMO#530 (01 July ~ 31 July 2023, λ=085~098°Ls, δ=4.2~3.9”)

https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/530/2022repo_18.htm

 

2010年の接近時には、もう少し大きな視直径の時の観測記録が、以下のリンクで閲覧できる。

CMO#373 (16 May~15 June 2010, λ=091~105°Ls, δ=6.6~5.6”)

https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmomn5/CMO373.pdf

 

 2012年の小接近時にも、視直径の大きな時の記事があり、以下のリンクから辿れる。

CMO#398 (1 April -30 April 2012, λ=091°~104°Ls, δ=12.6~10.0”)

https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/398/398_Repo10.htm

 

 

♂・・・・・・ 2025年六月の火星面の様子

○ 火星面概況

火星は、六月には季節(λ)λ=091°Lsから104°1sまで進み、北半球の夏至(λ=090°Ls)直後の観測となった。この期間にはヘッラスの明るさが目立ってくるのが知られている。視直径(δ)は5秒角台まで小さくなり、詳細は捉えがたくなっている。位相角(ι)は最大37度台から少し戻ったが、朝方の南半球の欠けは大きい。月末には32.0度になった。傾き(φ)はさらに北向きに大きくなって、月末にはφ=25°N近くまで大きくなった。傾きが大きいこともあり縮小がすんだ北極冠が小さく見えていた。午後の山岳雲の活動を捉えた画像は少なくなっている。

 

○ この期間の北極冠の様子

今月はフォスター(CFs)氏の画像を極展開した画像と、元画像を下に添えてご覧いただく。数も少なく、視直径の小さくなったこともあり境界ははっきりしないが、雪線緯度は80N以上になっているようである。いずれの画像にも、北極冠から分離した、オリュムピア(Olympia)が確認できる。北極冠を隔てる暗帯が、リマ・ボレアリス(Rima Borealis)である。オリュムピアは、ルイス(MLw)氏の30Juneの画像に明確で、下旬のウイルソン(TWl)氏の一連の画像にも捉えられている。。

 


 

○ ヘッラスの様子 

ヘッラスはλ=090°Ls (南半球の冬至) 頃には、降霜で明るくなるのが知られている。夕方から朝方の様子を:経度を追って並べてみた。日付は考慮していない。夕方のヘッラスが先月と比べても明るくなっている。午前中のヘッラスにも月初めから明るさが認められる。朝方は活動はまだ弱く、下旬になってもそれほど明るくならず、B光での明るさもあまり感じられない。

 


 

○ 赤道帯霧 (ebm: Equatorial Band Mist)

赤道帯霧は北半球の夏至 (λ=090°Ls) 頃の活動のピークから、衰えはじめている。クリュセからタルシス方面を通り朝方に抜ける部分はまだ確認できたが。シュルティス・マイヨルをはさんでマレ・アキダリウム方面にのびる赤道帯霧は弱まっているようである。朝方のタルシスあたりの強い朝靄や、午後縁のクリュセあたりの明るさは捉えられている。高山の頂が朝霧の中にポークアウトして暗斑に見える様子を捉えた画像は、今月ははっきりしたものは得られなかった。

 


 

○ 夕方の山岳雲の活動

午後の火星面の山岳雲の活動の様子を示す画像を取り上げた。上段は、タルシス三山とオリュムプス・モンス付近の高山の含まれる領域、北高緯度のアルバ・パテラあたりも弱まっているがまだ活動が感じられる。下段には、弱まっているエリュシウム・モンスの午後の山岳雲の様子を示した。シュルティス・マイヨル方向にのびている弱い明るさが感じられる。

 


 

♂・・・・・・ 2025年六月の観測報告

六月には報告者はさらに減って、報告数も少なくなった。日本からの報告はなかった。フィリッピンの阿久津氏の9観測。アメリカ側からは2名より9観測。ヨーロッパ側からは2名より11観測 (うち7観測は追加報告)。アフリカのフォスター氏からの10観測で、合計では6名から39観測であった。六月の観測報告は5名からの32観測にとどまった。

追加報告は、ギリシャのカルダルス(MKd)氏から、五月分の観測報告が7観測があった、

 

  阿久津 富夫 (Ak)  セブ、フィリピン

   AKUTSU, Tomio  (Ak)  Cebu island, The PHILIPPINES

       6 Colour + 5 B# + 5 IR# Images  (1*, 12*, 18, 21**, 29** June2025)  11 days

          36cm SCT* and 45cm Newtonian with an ASI224MC, a Mars-M# , & an Uranus-C**

     https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_CFs.html

 

  クライド・フォスター (CFs)  ホマス、ナミビア

   FOSTER, Clyde (CFs) Khomas, NAMIBIA

     5 Sets of RGB + 5 R610LP Images  (3, 8. 12, 27, 29 June2025)   5 days

                                    36cm SCT with an ASI 290MM

     https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_CFs.html

 

   マーチン・ルウィス (MLw) セント・アルバンス、英国

   LEWIS, Martin (MLw) St. Albans, Hertfordshire, the UK

      4 Colour Images (2, 10, 16, 30 June 2025)  45cm Dobsonian, with an Uranus-C 

    https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_MLw.html

 

   フランク・メリッ (FMl) ニューヨーク、アメリカ合衆国

   MELILLO, Frank J (FMl)  Holtsville, NY, the USA

      4 Sets of RGB + 2 Colour* Images (3. 4, 12, 25*, 29*, 30 June 2025)  

   https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_FMl.html

 

   ティム・ウイルソ (TWl)  モンタナ、アメリカ合衆国

   WILSON, Tim (TWl)  Jefferson City, MO, the USA

      3 Sets of RGB + 3 IR Images (23, 25, 26 June 2025)    28cm SCT with an ASI 678MM

    https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_TWl.html

 

追加報告

    マノス・カルダシ (MKd)   アテネ、ギリシャ

   KARDASIS, Manos (MKd) Glyfada-Athens, GREECE

      7 Colour images (2, 8, 10, 12, 17, 20, 28 May 2025)    36cm SCT with an Uranus-C,

   https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmons/2024/index_MKd.html

 

 

♂・・・・・・ 2025年八月・九月の火星  

 火星は八月・九月には「おとめ座」で順行を続け、八月8日には赤緯が南へと下がる。九月12日にはスピカの北を通過してゆく。十月はじめには「てんびん座」に入って、太陽との離角も小さくなり今観測期も終了となる。

 季節は、八月には、λ= 118°Ls133°Lsまで進み、九月には、λ= 133°Ls148°Lsまで移る。北半球の盛夏の時期の観測となる。北極冠周辺のサイクロン発生の季節である。北への傾きはまだ大きく発生があれば捉えることが出来るかも知れない。

視直径が4.0秒角を下回るのは九月25日のことである。位相角は減少して少し欠けが小さくなる。傾きは八月はじめに26°N台の最大値になり、九月末には20°Nほどまでに戻ってくる、北極冠を含めて北極域が最後まで観測できるであろう。

 


 

今回は視直径も小さくなることもあり、いつものグリッド図は省略する。

 

今期の観測とも重なるが、次回接近期にも北半球の春分(λ=000°Ls)過ぎの観測となる。一サイクル前の観測期にまとめた下記の論考を参考にされたい。(再掲)

2011/2012年の火星(そのII)  CMO/ISMO #395 (25 March 2012)

https://www.kwasan.kyoto-u.ac.jp/~cmo/cmo/395_MNN.htm

 


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