「クエーサー発見」の物語
3C273は最初に見つかったクエーサーですので、その発見から正体の解明までの物語を紹介します。いわば「クエーサー発見」の物語です。
電波源とその可視対応天体
第二次世界大戦後、電波で宇宙を探る電波天文学が進展しました。 英国のケンブリッジ大学では、1950年代から宇宙から来る電波源の探査を行い、電波源のカタログを作成していました。 天球上での電波源の位置(赤経、赤緯)と電波強度を記したカタログです。 最初のカタログは1950年に、そして3番目のカタログは1959年に出されました。ケンブリッジ(Cambridge)の3番目のカタログなので、3Cカタログと呼ばれます。 このカタログの273番目ということで3C273と呼ばれます。 電波源が可視でどう見えているのか、或いは見えないのか等を調べたいわけですが、残念ながら電波観測による位置精度は一般にあまりよくなく、 3C273が可視でどのような天体に対応しているのか、よくわかりませんでした。 幸運なことに3C273は天球上で月の通り道(白道)に位置していました。 オーストラリアのハザード達は、電波源は月より遠いと予想し、電波源が月に隠されれば(月による掩蔽)、電波源の位置を精度よく求められると考えました。 3度の月による掩蔽を電波で観測することで、電波源の位置を1秒角程度の精度で求めることに成功しました。 アメリカのパロマ山天文台にいたシュミットが、この方向に5mの可視の望遠鏡を向けて写真を撮ったところ、13等級位の恒星状の青白い天体が見つかりました※1。
※1 実は電波観測では2つの電波源が認識されました。可視の写真でも見えている、クエーサー本体とそのジェット成分からの電波が検出されていました。
可視対応天体の謎のスペクトル
一見星のように見えますが、その正体を探るためには、分光観測が欠かせません。 そこでシュミットはこの天体の可視スペクトルを撮りました。何本かの輝線が見られましたので、通常の星とは違うことは明らかでした(通常の星は吸収線を示し、輝線は見えません)。 輝線は、475.3nm、503.2nm、563.2nm等に見られましたが、観測された輝線の波長はこれまで知られている輝線には対応しませんでした。 それぞれの元素が出す輝線の波長は決まっていますが、観測された輝線は既知の元素とは一致しなかったのです。 しかし、やがてシュミットは、観測された波長を1.158で割れば馴染みのある波長であることに気づきました。 実際に1.158で割ってみると、410.4nm、434.5nm、486.4nmとなり、それぞれ水素のバルマー系列のHδ(410.2nm)、Hγ(434.0nm)、Hβ(486.1nm)に対応します(多少の測定誤差があることに注意)。 これは赤方偏移が0.158であることを意味し、20億光年の彼方にある天体ということになります。 この結果を報告する論文では、重力赤方偏移の可能性も指摘した上で、宇宙論的赤方偏移であろうと結論づけています。 今から思うと、ハッブルの法則は既知だったので、何故すぐにわからなかったのかな?と思うでしょうけど、 当時としては経験したことのない極めて大きな赤方偏移だったので、不安があったのではないかと思われます※2。 なお、上に示したスペクトルは地球で観測した波長で描かれています。
※2 同じ時、同じ天文台にいた、グリーンシュタイン達は3C48の可視対応天体の分光観測をしており、 やはり輝線の波長の謎に悩んでいました。シュミットと同様に割り算して赤方偏移が約0.4とわかりました。 シュミットはこの結果も知っていたので、宇宙論的赤方偏移の可能性が高いと考えたのかもしれません。 ちなみに、ハザード達の電波観測の結果、シュミットの輝線同定の結果、グリーンシュタインの3C48の論文は、1963年のNatureに同時に掲載されています。
謎の天体
距離がわかって、大変遠方の天体であるということで驚いたと思いますが、これはもっと驚くべき結果につながります。 みかけの明るさと距離から真の明るさを計算すると、ナント!太陽の1兆倍を超える光度を示す天体であることがわかったのです。 銀河には太陽のような恒星が千億個位存在するわけですから、銀河1個分よりもっと明るい天体ということになります。 それが星状にしか見えていないので、とても奇妙な天体であることがわかりました。 さらに、この天体の過去の可視観測のデータ(写真乾板)を集めて解析すると、この天体は明るさが変動していることがわかりました(データアーカイブは重要ですね)。 その変動の時間尺度から、この天体のサイズは一声で太陽系サイズ位と推定されました。 これは本当に驚くべきことで、太陽系程度のサイズの領域から銀河1個分よりずっと明るい光を放っている天体であるということになります。謎の天体です。
その正体は?
その正体についてはいろいろな説が考えられました。結局1969年に英国のリンデンベルが提唱したモデルが受け入れられるようになりました。 非常に質量の大きいブラックホール(太陽の数千万倍~10億倍程度)があって、そこに周りからガスが降ってくる(降着する)とガス円盤が形成され、この円盤が光るというモデルです。 超大質量ブラックホールへ落ち込んでくるガスはブラックホールにまっすぐ落ち込むことは通常ないと考えられます。 降ってくるガスには一般に角運動量があるため、ブラックホールのまわりを回りガス円盤が形成されます。 ガスの重力エネルギー(位置エネルギー)が運動エネルギーに変わり、円盤としてぐるぐる回るうちに、摩擦によって熱のエネルギーとなり、これが強い放射を出す、というわけです。 その後、降着円盤の研究が進み、今ではこの描像が信じられています。