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(5) 火星のブルークリアリング現象

火星には明暗の模様があることが知られていますが、青い光だけで 観測すると、模様が判別できません。そのかわりに水蒸気の雲が 明るくみえます。 しかし、時々、青い光でも模様がはっきりと見えるときがあります。 この現象はブルークリアリング現象と呼ばれています。 私達は1982年の観測報告に基づいて、ブルークリアリング現象は

  1. 衝付近で地表面の反射能が著しく増大する現象 衝効果
  2. 赤道帯に発生する氷晶雲帯による地表面のコントラストの 増幅効果
    クラウドエフェクト(「氷晶雲効果」)
という2つの成因によって起こるという仮説を提唱してきました。


1997年春に飛騨天文台で、 1999年にアリゾナ大学附属スチュワード天文台で、それぞれ 観測した際に大シルティス領域で ブルークリアリング現象が起こりました。

大シルティスは赤色光では暗い模様として観測されます。 赤色光のデータから大シルティス(暗い領域)と両側の明るい領域の 場所をわりだし、青色光のデータでの暗い領域と明るい領域の 明るさの比を求めました。 これを「ブルークリアリング度」と名付け、その日変化を調べました。 また、独自に開発した輻射輸達計算プログラムを 用いて各地点の雲の光学的深さを算出し、その日変化も調べました。 更に、明暗2領域の光学的深さの差と火星地方時の関係についても 調べました。

これらの研究の結果、青色光で輝く氷晶雲が大シルティス及び周辺領域上空に 存在し、さらにその光学的深さの日変化の幅が明暗2地域で 差があることによって、コントラストを増幅する効果が現れることが分かりました。 私達の発見した氷晶雲によるこの効果(クラウドエフェクト)は 前述の仮説(2)を強く支持します。 さらに、正のブルークリアリング度とその各時刻に於ける各地点上空の 雲帯の光学的深さについて、各観測日毎に線形回帰分析を行って、 明暗どちらの地点の光学的深さがブルークリアリング現象の主要な 役割を担っているのかを検証しました。 その結果、(明るい)大シルティス上空の雲の光学的深さが ブルークリアリング度と相関があるケースが多いという結論を得ました。


上記の内容は、学術雑誌(Journal of Geophysical Research)に掲載されました。 この研究で取り上げた氷晶雲の活動は、火星の気候変動における 中核的役割を果たすものとして近年注目されてきています。 そこで、現在私達は、他の国内外の研究機関との共同研究も視野に入れながら、 赤道氷晶雲帯の緯度分布の季節変化や雲帯の衰退・消失の実態を明らかにする等の 研究を進めています。

(中串 孝志 記)


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