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日米科学協力事業共同研究成果報告

日本学術振興会 日米科学協力事業共同研究
「太陽コロナおよび地球磁気圏における磁気リコネクション」


1. 全研究期間: 平成12年4月1日-平成15年3月31日 (3年間)

2. 研究経費総額: 4,916千円
(平成12年:2,462千円、平成13年:2,454千円、平成14年:0円)

3. 代表者: 柴田一成
日本側分担者: 町田忍(京大理教授)、田中基彦(核融合研助教授)、 小出真路(富山大
助教授)、横山央明、下条圭美(国立天文台助手)、 工藤哲洋(国立天文台研究員)、
田沼俊一(名大STE研研究員)
米国側分担者: K. I. Nishikawa (Rutgers Univ.), W. Horton (U. Texas), K. Dere (NRL)

4. 研究目的

近年、わが国の太陽X線観測衛星「ようこう」や磁気圏観測衛星「ジオテイル」など の活躍によって、磁気リコネクションが太陽フレアや磁気圏サブストームに おいて中心的役割を果たしていることが明らかになった。 しかし、リコネクションの基礎物理や、エネルギー解放の物理全体については、 いくつかの基本問題が未解決のまま残されている。とりわけ重要な基本問題は、 1)リコネクションに至るエネルギー蓄積やトリガー機構、2)粒子加速機構や 抵抗の起源をはじめとするミクロのプラズマ素過程、3)速いリコネクションの 条件、とりわけ、太陽コロナの場合、磁気リコネクションの観測的証拠たるべき 電磁流体衝撃波(スローショック、ファーストショック)や プラズマ流(インフロー、リコネクションジェット)が未同定、という問題である。  本研究では、これらの基本問題の解決への糸口を探るという観点から、近年観測が 著しく進んだ太陽コロナと地球磁気圏における磁気リコネクションに関して、両者の 詳細な比較を観測データ解析とシミュレーションに基づいて行うことを目的とした。 また、2006年打ち上げ予定の Solar-B衛星による磁気リコネクション観測に ついても理論的検討を行なうことを目的とした。

5. 研究成果

1) 太陽コロナと地球磁気圏の磁気リコネクションを、観測理論の両面より、 詳しく検討した。 その結果、以下のことが判明した。

1a) 太陽コロナのアーケード現象にも地球磁気圏のdawn-dusk asymmetryと 類似の現象が存在することが発見された(Isobe, Shibata, Machida 2002) (図参照)。 Asymmetryの物理はまだ不明であるが、太陽と地球磁気圏の比較研究の 有効性が示された。

1b) アーケード現象の温度、エミッションメジャー解析を詳しく行い、磁気 リコネクション理論(Shibata and Yokoyama 2002)との詳細な比較を行なった。 その結果、アーケード現象も、通常のフレアと同様に、磁気リコネクションに よって発生していることが確かとなった(Yamamoto et al. 2002)。 また、この研究より、磁気リコネクション理論に基づくフレア/アーケード幅 スケーリング則の普遍性が実証され、恒星フレアへ応用する道が開かれた。

2) 磁気リコネクションにおいて出現すると期待されているMHD衝撃波を、磁気 流体コード、粒子コードを用いて詳しく調べ、観測データと比較した。同時に 粒子加速への応用を検討した。


2a) MHDシミュレーションより、リコネクションジェットがMHD不安定となり、 ジェット中に無数のMHD衝撃波が形成されることを見出した。さらに、これらの 衝撃波が粒子加速サイトになる可能性を検討した(Tanuma et al. 2002, Tanuma, Nishikawa, Shibata 2003, in preparation)。

2b) フレアにともなって発生するモートン波(コロナ中を伝わる電磁流体 ファースト衝撃波)を京大飛騨天文台フレアモニター望遠鏡観測データの中から 多数発見し、詳細な解析を行った。その結果、SOHO衛星によって発見された EIT波は電磁流体ファースト衝撃波ではないこと(Eto et al. 2002)、 Yohkoh軟X線望遠鏡で発見されたX線波は電磁流体ファースト衝撃波であること (Narukage et al. 2002)、などを明らかにした(Shibata et al. 2002)。

3) 太陽コロナにおける磁気リコネクションにともなうプラズマ流の 磁気流体シミュレーションを行い「ようこう」、SOHOのデータと比較するとともに、 Solar B衛星で観測されるであろうX線像や輝線プロファイルのモデルをつくった (Brooks et al. 2003, Isobe et al. 2003)。

6. 発表論文

Isobe, H., Shibata, K., Machida, S., Geophys. Res. Let., 29, 2014-2017 (2002)

Eto, S., Isobe, H., Narukage, N., Morimoto, T., Thompson, B, Yashiro, S., Asai, A., Wang, T., Kitai, R., Kurokawa, H., and Shibata, K., PASJ, 54, 481-491 (2002)

Narukage, N., Hudson, H. S., Morimoto, T., Akiyama, S., Kitai, R., Kurokawa, H., and Shibata, K., ApJ Let, 572, L109-L112 (2002)

Shibata, K. and Yokoyama, T., ApJ, 577, 422-432 (2002)

Yamamoto, T., Shiota, T., Sakajiri, N., Akiyama, S., Isobe, H., and Shibata, K.,   ApJ Let, 579, L45-L48 (2002)

Tanuma, S., Yokoyama, T., Kudoh, T., Shibata, K., COSPAR Colloq. Series, p. 177 (2002)

Shibata, K. et al., Observations of Moreton Waves and EIT Waves,  COSPAR Colloq. Series, p. 279−282 (2002)

Brooks, D. H., Chen, P. F., Isobe, H., Shibata, K., (reported in 3rd Solar-B Science Meeting 2003 Feb. 3-5), in preparation (2003).

Isobe, H., Chen, P. F., Brooks, D. H., Shibata, K., (reported in 3rd Solar-B Science Meeting 2003 Feb. 3-5) in preparation (2003).


(柴田 一成 記)


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